社用車を保有する企業にとって、従業員への安全運転の徹底は必須です。
交通事故は人命を脅かすだけでなく、企業に大きなダメージを与えます。
しかし「従業員の安全運転に対する意識を高めるにはどうすれば良いのか」と課題に直面する企業も少なくありません。
本記事では、安全運転の意識向上に必要な心構えや、企業が取り組むべき具体的な行動について解説します。
ドライバー自身の意識改革と組織的な取り組みにより、安全運転に対する意識向上は実現します。
安全運転管理者や交通安全推進担当者は、ぜひ参考にしてください。
スマホやタブレットでの受講も可能
目次
安全運転への意識の低さがもたらす深刻な損失とは
ドライバーの安全運転に対する意識が低いと、人命を脅かす危険性のほかにも企業はさまざまな面で深刻な損失を被る可能性があります。
安全運転を怠ることでもたらされる企業への損失をまとめました。
企業への信頼を失墜してしまう
ドライバーの安全運転に対する意識が低いと、企業への信頼を失墜してしまいます。
ドライバーの安全運転への意識の低さは、乱暴な運転やマナーの悪さにつながりかねません。
近年は、あおり運転や危険運転に対する社会的な関心が高まっています。
従業員が危険運転をおこなった場合、インターネット上で拡散され、大きな炎上につながるリスクが発生します。
横断歩行者や自転車への不注意な運転は、事故につながるだけでなく、地域住民からの反感を買う可能性もあります。
「教育が行き届いていない会社」というマイナスイメージを抱かれることもあるでしょう。
その結果、企業は社会的責任を果たしていない印象が残り、顧客や取引先からの信頼を失うかもしれません。
従業員の振る舞いは、企業のイメージを左右する重要な要素の1つです。
安全運転への意識を高めることは、企業の信頼性を高めるために欠かせません。
重大な経済的損失が生じる
安全運転への意識が低いと、企業にとって重大な経済的損失が生じます。
従業員が人身事故を起こすと、被害者への損害賠償金や車両の修理費用が発生します。
また、従業員自身が怪我をして休業した場合は、人件費や生産性の低下による損失も発生するでしょう。
さらに、企業の責任や安全対策の不備も問われ、イメージの悪化による売上減少につながるリスクもあります。
その結果、企業は長期間にわたって信頼を回復する努力を強いられるかもしれません。
多大な損害を防止するためにも、従業員一人ひとりの安全運転意識を常に高める必要があります。
安全運転の基本原則「安全運転5則」とは?
安全運転を意識するためには、運転に関する基本的なルールを理解し、常に意識することが重要といえます。
安全運転を実践するための基本ルールとは、警視庁が定めている安全運転の基本原則である「安全運転5則」です。
ドライバー一人ひとりが安全運転5則を守ることで、交通事故の防止につながります。
具体的な5つの原則を見てみましょう。
安全速度を厳守する
安全運転の基本1つ目は、安全速度を保つことです。
安全速度とは安全な運転をするために必要な速度を指し、最高速度とは異なります。
最高速度や政令で定められた法定速度は、安全を確保するための最低限の速度です。
しかし、道路状況や天候、時間帯などによって、危険を回避するための適切な速度は変化します。
具体的には、以下のような点に注意しましょう。
- 雨や雪、濃霧などの悪天候時は視界が悪いので速度を抑える
- 日中に比べて視界が悪くなる夜間は、早めにライトをつけて安全速度を保つ
- 人通りの多い場所や学校周辺などは、歩行者や自転車が突然道路に飛び出す可能性も考慮して徐行運転を心がける
天候や路面状況、周辺の交通量などを考慮して、適切な速度で走行するのが重要です。
カーブの手前では減速する
カーブに差し掛かる前には、必ず減速しましょう。
自動車がカーブを曲がるときに、スピードが出ていると遠心力の影響を受けて車体が外側へ膨らみやすくなります。
そのため、車線からのはみ出しや対向車との衝突など、事故につながる可能性もあります。
安全運転のためにはカーブ手前から速度を落とし、慎重に運転することが大切です。
見通しが悪いカーブでは、さらに速度を落とすなど場面に応じた判断が求められます。
交差点では必ず安全を確認する
安全運転の基本として、交差点では必ず安全を確認することも忘れてはいけません。
具体的には、以下を参考にしてください。
- 右左折をする前に、必ず左右対向車を確認する
- 信号機が青信号であっても、周囲の状況をよく確認してから発進する
- 歩行者や自転車が横断しようとしている場合は、一時停止して譲る
信号や標識、対向車や歩行者の有無をしっかりと確認してから交差点に進入しましょう。
あらゆる方向から人や車両が接近している可能性があるため、信号機だけに頼らず安全確認をおこなった上での慎重な運転が求められます。
一時停止で横断歩行者の安全を守る
横断歩道や歩行者のいる場所では、一時停止もしくはいつでも止まれる速度で走行しましょう。
一時停止の標識がある場合は停止線の手前で必ず一時停止し、標識がなくても減速して歩行者の有無を確認しなければなりません。
横断歩道がない場所においても、歩行者の存在を確認した際には一時停止が必要です。
横断歩行者を守るために、以下のような点に注意しましょう。
- 横断車がいる場合は、必ず一時停止し、渡り終わったことを確認してから発進する
- 横断歩道がない場所でも、歩行者の存在を確認したら一時停止する
信号機のない横断歩道を歩行者が渡ろうとしている場合、車両等は一時停止しなければならないと道路交通法で定められています。
歩行者が安全に道を渡れるよう配慮することは、ドライバーの責任ですが、意外と守られていない調査結果があります。
交通ルールを守り、歩行者の安全を守りましょう。
飲酒運転は絶対にしない
飲酒運転は自分自身だけでなく、周りの人々の命を危険にさらす重大な犯罪行為です。
アルコールは判断力を著しく鈍らせ、事故リスクを高めます。
ドライバー本人だけでなく、酒類の提供者や同乗者にも罰則があります。
飲酒による運転への影響を甘く見てはいけません。
JAFは飲酒が運転にどのような影響を与えるかについて、運転シミュレーターを使用し、飲酒直後と翌朝に検証しました。
飲酒前と比較して飲酒直後は、ハンドル操作が雑になりまっすぐ走れない、アクセル操作がスムーズにいかないなどの傾向がありました。
また、飲酒直後だけでなく、翌朝も飲酒前と比較して操作ミスや確認・判断ミスが増加しています。
「飲んだら乗るな」を鉄則とし、飲酒運転は決しておこなわないようにしましょう。
安全運転の意識向上に欠かせない心構え
安全運転を実践するためには、ただルールを守るだけでなく、ドライバー自身の意識や心構えが何より重要です。
交通事故を防ぎ、安全運転の意識を高めるために欠かせない心構えを紹介します。
運転に集中する
運転中は周囲の状況に十分に注意を払い、運転だけに集中しましょう。
よそ見運転やながら運転など、運転以外のことに気を取られた状態では注意力散漫となり、交通事故を引き起こすリスクを高めます。
運転中は、以下のような点に注意しましょう。
- 厳罰化されている「ながら運転」はしない。運転中に携帯電話やスマートフォンなどを使用をしない
- カーナビゲーションなどの操作は停車してからおこなう
- 音楽を聴く場合は音量を控えめにし、周囲の音が聞こえるようにする
- 助手席や後部座席の乗客と話をする際は、周囲に気を配りながら運転に集中できる範囲にとどめる
- 眠気や疲れを感じたら無理せず休憩を取る
これらは当たり前のことですが、実はあまりできていません。
漫然運転を含む安全運転義務違反は、交通事故の原因の過半数を占めています。
運転中は運転だけに専念し、集中力を切らさないよう心がけましょう。
冷静な判断と慎重な対応をする
運転中は、常に冷静な判断と慎重な対応を心がけることが重要です。
運転中に冷静さを失うと、重大な事故につながる可能性があります。
時間に余裕を持って行動するなど、焦らずに落ち着いて運転するよう心がけましょう。
社内の取り組みでは、運行計画の作成などが効果的です。
運転スキルを過大評価しない
長年の運転経験から、自身の運転スキルを過大評価してしまうと危険です。
運転経験や運転歴が長くなると「運転に慣れているから大丈夫」と過信しやすく、安全運転を怠ってしまう可能性があります。
また、「これまで違反・事故にならなかったから大丈夫」というのは理由になりません。
交通環境はいつも変化しています。
運転の経験が長くなっても、自分自身が交通事故の当事者になるかもしれないリスクを意識し、緊張感を持った運転を心がけてください。
事故が起こるリスクを考える
運転中は常に事故が起こるリスクを考えましょう。
事故が起きれば、ドライバー自身や事故の相手の命が危険にさらされます。
また、罰金や免許停止などの法的処分を受けるだけでなく、多額の賠償金を求められる可能性もあります。
心身面の負担や周囲からの信用問題に至るまで、交通事故によって失うものは計り知れません。
安全運転は、自分自身の命を守るだけでなく、周りの人々の安全を守るためにも非常に重要です。
運転中は常に慎重に行動し、事故を防ぐ努力を怠らないようにしましょう。
安全運転の意識向上に役立つ具体的な実践方法
前項では、ドライバー一人ひとりの安全運転の意識向上に関する心構えを紹介しました。
安全を最優先するために、企業や組織全体で安全運転への意識向上に向けて取り組むことで、より社内での意識が高まります。
ここでは安全運転の意識を高めるための具体的な実践方法について紹介します。
運転適性診断への取り組み
運転適性診断は、ドライバー個人の特性や傾向を客観的に分析するためのテストです。
運転に向いているかどうかだけでなく、事故の原因となりがちな癖や習慣も明らかになります。
具体的な診断項目は以下のとおりです。
- 注意力
- 判断力
- 協調性
- リスク許容度
- ストレス耐性
運転適性診断の結果に基づき、一人ひとりに適切な指導やアドバイスをすることで、安全運転意識の向上や事故防止が期待できます。
安全運転支援機能付きのドライブレコーダーの導入
ドライブレコーダーの導入は、運転時の危険な状況を振り返り、ドライバーの意識向上に効果的です。
安全運転支援機能付きのドライブレコーダーには、危険な運転行動を録画・通知する機能があります。
これらのヒヤリとした場面を録画データで振り返ることで、ドライバーは運転の癖や苦手な状況を客観的に振り返ることが可能です。
管理者は一人ひとりの運転状況を把握し、必要な指導やサポートができます。
また、常に運転時の様子が録画されていることにより、ドライバーが自然と安全運転を心がけるようになり、潜在的に運転マナーの向上を促す効果が期待できます。
ドライバーのみならず、管理者は一人ひとりの運転状況を把握し、必要な指導やサポートが可能です。
事故やヒヤリハット事例の共有
事故やヒヤリハットの事例共有は、企業内での安全運転への意識向上を促進する重要な手段です。
具体的な事例を共有することで、一人ひとりが当事者意識を持ち、安全運転への意識を高められます。
ヒヤリハットした原因や経緯、再発防止策などを詳しく分析し、社内会議で情報共有したり、社内報で事例を紹介したりしましょう。
社内の意見をまとめた「ヒヤリハットマップ」の作成も効果的です。
危険個所を視覚化し、同じルートを通るドライバーに周知することで、事故予防に役立ちます。
安全運転講習会への参加
安全運転に関する知識や技術を学ぶなら、専門家による安全運転講習会に参加しましょう。
座学だけでなく、実車を使った技術指導などもおこなわれている場合もあります。
新人ドライバーは運転に不安を感じている部分を解消する機会になり、ベテランドライバーは運転技術の基本を見直す良い機会になります。
安全運転講習会に定期的に参加することで、安全運転意識を常に高め続ける取り組みとしましょう。
ただし、安全運転講習会への参加は、スケジュールによっては叶わないこともあります。
その場合は、社内での安全運転教育として「JAF交通安全トレーニング」の利用がおすすめです。
JAF交通安全トレーニングは、企業・団体向けに安全運転の意識を高めるコンテンツを配信しています。
「JAF交通安全トレーニング」は時間や場所を問わず学習できるeラーニングであるため、講習会のためのスケジュール調整をする必要がありません。
管理者は従業員の学習状況を把握できるため、継続的かつ効率的にフィードバックが可能です。
スマホやタブレットでの受講も可能
まとめ:安全運転の意識向上に対する重要性を知り取り組みを実施しよう
ドライバー自身の命を守るだけでなく、周りの人々の安全を守るためにも安全運転への意識を高めることは大切です。
交通事故は、ほんの少しの油断や過信で発生することもあります。
安全運転を徹底するためには、安全運転5則を実践することはもちろん、ドライバー自身の心構えも重要です。
安全運転管理者や担当者は、普段から従業員に安全運転を意識づけるための取り組みが欠かせません。
ヒヤリハットの共有や安全運転教育などを積極的におこない、組織全体で安全運転への意識を高めましょう。
スマホやタブレットでの受講も可能