仕事内容に運転業務がある企業の多くは、採用時に少なからずリスクや不安を抱えています。
運転免許を持っているだけでは、その人物が安全運転ができる人材かどうかを判断しづらく、不十分だからです。
その中で、安全運転能力検定は、企業が採用試験時に安全運転ができる人材かどうかを判断するニーズに応える資格として、いま注目を集めています。
実際に導入している企業も多く、採用時だけでなく、入社後の安全教育にも活用されているようです。
この記事では、安全運転能力検定の内容について紹介します。
目次
安全運転能力検定とは?
安全運転の知識を問う試験で、どれくらい安全運転ができるかといった“安全運転力”を計ることのできる、日本で唯一の検定が安全運転能力検定です(2024年12月現在)。
福岡県にある一般社団法人安全運転推進協会が主催となり、「運転技能」「交通法規」「運転行動」の3つの観点から、安全運転に必要な知識が受験者に備わっているかを評価するものです。
3つの試験観点|運転技能・交通法規・運転行動について
安全運転能力検定では、安全運転に必要なKM理論の知識、各運転シーンにおける空間確保や確認方法などの知識をもとに、これらの3つの観点から、安全運転力が備わっているかを評価します。
運転技能 | 車両特性や運転操作の知識、車両の走行イメージに関する知識 |
交通法規 | 道路交通法など安全運転に必要な標識や信号等の知識、 飲酒運転など企業のリスク管理において必要な知識 |
運転行動 | 交通事故の発生メカニズムとその要因や、シーンに応じた交通事故の防止方法など交通心理学観点の知識 |
それぞれの級に設定されている合格基準に達するかどうかで合否の判定を受けることになります。
参考:KM理論に基づく事故削減の取組~大分県警のケース~|安全運転推進協会
検定の目的と重要性
個人や法人の車両の安全運転に関する意識や行動・活動の向上を図ることで安全運転を推進し、交通事故を起こさない社会の実現に寄与することを目的としています。
就活中、もしくは就活を控えた学生が、企業へ自身の安全意識をアピールするため取得を目指したり、法人が、運転免許の有無だけでなく、安全運転ができる人材であるかどうかを採用試験時に見極めるための判断材料として注目されている資格です。
検定の信頼性
免許未取得者を教育する熟練指導員、免許取得者を教育するコンサルタント等が集まり一問ずつ検討しながら問題の作成がおこなわれています。
その後、延べ100名以上の一般ドライバーが実際に問題を解き、正答率等を確認しながら修正、取捨選択を繰り返し、九州大学名誉教授でもある協会理事が過去の研究結果等に基づいて問題を精査、監修したのが安全運転能力検定です。
1級の実車試験においても、専門コンサルタントが試験に同乗して実際の運転技能、運転行動を確認しながら、試験結果との整合性を精査し専門的な内容として組み上げられたものとなっているため、試験の信頼性は高いといえるでしょう。
安全運転能力検定の種類
安全運転能力検定は、4級、3級、3級、1級とクラスが設定されており、級ごとに受験時間や内容、合格基準などが異なります。
一般的な検定と同様に、級の数字が下がるほど上位の資格となります。
特に1級は、4〜2級までのWEB試験と異なり、実車を運転する内容での試験がおこなわれるなど、試験の難易度が高くなります。
その分、1級まで合格をすれば、知識だけでなく、実地での運転能力についてもお墨付きを得られることになり、安全運転能力の証明をするのに優位になります。
受験対象者と受験の流れ
受験対象者についてですが、4級と3級を受験する場合には受験資格は必要ありません。
2級からは、普通自動車運転免許保有者であることが受験資格となっており、1級を受験する場合には、普通自動車免許保有者であることにくわえ、さらに2級合格者であることが必要です。
各級の受験内容詳細
それでは、各級の受験内容について紹介していきます。
4級と3級の内容
受検内容 | 4級:WEB試験(15問) 3級:WEB試験(20問) 安全運転に必要な知識(運転技能・交通法規・運転行動)が出題 |
受検時間 | 4級:15分 3級:20分 |
合格基準 | 4級:12問の正解 3級:16問以上の正解 |
受検場所 | 自宅、オフィス等(WEB試験が可能な場所) |
受検資格 | なし |
受検料 | 4級:無料 3級:1,100円(税込) |
4級と3級の受験内容は、2級と同じくWEB上での受検形式が取られます。
4級は選択形式15問、3級は選択形式20問とされ、どちらも初級編に位置付けられています。
受験者の推奨目安は、4級が就活生・初心運転者、3級が新入社員ドライバー向けとされ、安全運転に必要な知識(運転技能・交通法規・運転行動)が出題されます。
4級は公式HP上の4級受験ページからエントリー後、すぐに受験が可能ですが、3級は事前申し込みの上受験料が必要です。
※合格認定証は3級以上の合格で発行されます
2級の概要と推奨される受験者
受検内容 | WEB試験(75問) 安全運転に必要な知識(運転技能・交通法規・運転行動)が出題 |
受検時間 | 60分 |
合格基準 | スコア61点以上(問題ごとに配点が異なるため、正答率とは異なる) |
受検場所 | 自宅、オフィス等(WEB試験が可能な場所) |
受検資格 | 普通自動車運転免許保有者 |
受検料 | 5,500円(税込) |
WEB上での受検形式が取られる2級試験では、選択形式75問と、それまでの級に比べ出題数がグンと跳ね上がります。
それだけ対応しなくてはならない知識の幅も広く深く要求されることから、中級編として位置付けられています。
協会は、職業ドライバーや緑ナンバー(※)運転者向けとして、受験を推奨しています。
安全運転に必要な知識(運転技能・交通法規・運転行動)が出題されます。
※緑ナンバー:運賃や報酬を受け取って貨物や旅客を運ぶ車両に取り付けられます。トラックやバス、タクシーなどの車両に装着される場合が多いナンバーのこと
1級の概要と難易度
受検内容 | 実車試験にて実施 協会より貸与される車載機器を車に取り付け、指定する走行条件に従って運転します。実際に安全運転が出来ているかをチェックします。 |
受検時間 | 2〜3時間以上の運転 |
合格基準 | 交通心理学を取り入れた協会の安全運転基準に基づき、試験官が判定 |
受検場所 | 自宅、オフィス等の近隣道路を運転 (詳細の走行条件等については申し込み時に通達) |
受検資格 | 安全運転能力検定2級合格者 普通自動車運転免許保有者 |
受検料 | 38,500円(税込) |
受験内容や合格条件については発表されていませんが、1級のみ実車での運転試験となるため、他の級と比べて性質が異なり、上級編として位置付けられています。
協会は、安全運転管理者や社内の安全指導担当者向けとして受験を推奨しています。
内容は、協会から貸し出される車載機器を車に取り付け、指定する走行条件にしたがって運転するという試験になります。
安全運転能力検定のメリット
それでは、安全運転能力検定を所持している、また受験するメリットについて解説していきます。
企業における安全運転教育の必要性
交通安全教育とは、自動車の運転に対する基礎的な知識に加え、交通マナー・交通ルールの学習と交通安全意識の向上を目的としたものです。
従業員が交通事故や交通違反などの違法行為を犯すと、企業の管理責任が問われるリスクが生じ、とりわけ社用車を使用している際に死亡事故が発生すれば、企業の社会的イメージや信頼性が低下しかねません。
つまり、企業にとって交通安全教育はリスクマネジメントに関わる取り組みでもあり、従業員の安全や企業の社会的な信用を守る上でも、交通安全教育は重要なのです。
参考:企業がおこなう交通安全教育とは?実施する理由や課題などを解説|JAFトレコラム
安全運転能力の向上がもたらす影響
特に都市部で働く若者は、自家用車の所有率が下がってきているといいます。
20歳の若者を対象に、ソニー損保がおこなった2024年の調査では、マイカー所有率が地方では20.4%であるのに対し、都市部では6.2%と低水準となっており、プライベートでの運転経験だけに安全運転能力の向上を任せるのではなく、雇用企業が主体となって運転能力の向上を担うことを考えなくてはなりません。
一方、運転経験や運転歴が長くなったベテランドライバーは、「運転に慣れているから大丈夫」と自身の運転スキルを過信しやすく、安全運転を怠ってしまう可能性があります。
定期的に安全運転についての基礎知識を学び直したり、忘れてしまいがちな細かな交通ルールを再認識することで、本来培われてきた安全運転能力を呼び起こす作業が大事になってきます。
その上で、安全運転能力検定の受験は、安全運転の意識向上に最適な手段のひとつといえるのではないでしょうか。
オンラインで受験が完結できる
安全運転能力検定の受験は、1級の実車試験を除き、すべての級でオンライン受験が可能です。
受験のために要する時間を考えた時に、オンラインでの受験ができることは、企業側・受験者にとって双方から望ましいものです。
たとえば「JAF交通安全トレーニング」をはじめとした、オンラインで受講できるe-ラーニング教材で交通安全の知識やルールを教育し、安全運転能力検定を受けて習熟度を診断する流れを作れば、企業での交通安全教育の枠組みがひとつ出来上がります。
企業内での交通安全管理ができる人材をひとりでも増やすことができれば、従業員が起こす交通事故や企業イメージ毀損などのリスクを減らすことにつながりますので、最初のステップとして、「JAF交通安全トレーニング」の受講をおすすめします。
スマホやタブレットでの受講も可能
検定と企業の関係
それでは、実際にどのような企業がこれまで安全運転検定を活用してきたのか、また、どのように検定を活用しているのか、一部抜粋して紹介していきます。
活用している企業の例
- 株式会社IHI
- アサヒビール株式会社
- 味の素株式会社
- 九州電力株式会社
- 日本出版販売株式会社
- 株式会社マイナビ
- 株式会社明治
- ヤマハ発動機販売株式会社
- 株式会社ヨコハマタイヤジャパン
- レッドブル・ジャパン株式会社
※敬称略・順不同
など、日本国内の有名企業が安全運転能力検定を活用しており、その効果は折り紙付きと言えるのではないでしょうか。
出典:多くの企業様に安全運転能力検定をご活用いただいています|安全運転能力検定HP
社員教育における検定の活用事例
安全運転応力検定を取り入れた企業からの声を紹介します。
一例としてこのようなニーズがあるようです。
- 採用時の試験に取り入れることで、安全運転できる学生を客観的に見極めるためのツールとして
- 内定者研修等で内定者に受検してもらうことで、入社までに運転練習を促す客観的な判断材料に活用
- 新人、中途入社、異動者等に受検してもらうことで、運転業務をどの程度任せられるか客観的な判断材料として
- 研修や講義等の前に受検することで、個々の運転の課題が明確になり、研修や講義の効果を高めるためのツールとして
- 研修や講義等の後に受検することで、研修や講義の内容を再認識するための確認テストとして活用
- 年に1回、毎年受検することで、社員様の安全運転に対する意識向上のきっかけとして
- 交通事故リスクが高い安全運転のできない社員を抽出し、リスクヘッジをおこなう
- BCP(事業継続計画)、企業コンプライアンス、ブランドイメージ向上等のためのアピール手段に
このように、採用時をはじめとした現場レベルでの業務遂行可否の判断材料や、経営視点での資料作成などに幅広く活用されています。
出典:どのように使えばいいのですか?|安全運転能力検定のご案内
まとめ|試験合格を安全運転能力の指標にするために
この記事では、安全運転能力検定の概要と、それを取り入れるメリットについて紹介しました。
これまで、企業の採用人事や運転管理者の頭を悩ませてきたのは、運転免許証の有無では判断しかねていた、その人材が「安全運転ができる人材であるかどうか」を見極める方法でした。
安全運転能力検定の資格ホルダーが増えれば、企業にとってリスクが少ない人材であることをアピールすることもできます。
「JAF交通安全トレーニング」では、継続的に安全意識を養うためのコンテンツを多数用意しています。たとえば、オンラインで受講できる「JAF交通安全トレーニング」などのe-ラーニング教材で交通安全の知識を養い、安全運転能力検定のような資格受験を習熟度診断のひとつとして活用すれば、運転能力が熟達することはもちろん、社外への安全意識のアピールができるようになるなど、経営上のメリットがたくさんあります。
安全運転をしっかりおこなえる人材をひとりでも増やすことができれば、交通事故による企業イメージ毀損などのリスクを減らすことにつながります。
安全運転能力検定受験の最初のステップとして、「JAF交通安全トレーニング」と併せた活用をおすすめします。
スマホやタブレットでの受講も可能