炎天下の駐車場で「ほんの数分だけ」などの油断が、子どもの命を危険にさらす重大な事故につながっています。
毎年、車内に放置された子どもが熱中症などで命を落とす痛ましい事件が後を絶ちません。
たとえ短時間でも、車内は急激に高温となり、体温調節が未熟な子どもはあっという間に命の危険にさらされます。
こうした行為は罪に問われる可能性があり、法律上も厳しく罰せられることがあります。
本記事では、子どもの車内放置がもたらす危険性や法的責任、企業としての対応策まで幅広く解説します。
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目次
子どもを車内放置する危険性

車内は密閉された小空間であり、熱や酸素不足のリスクが急速に高まります。
子どもは自分で逃げられず、外からも気づかれにくいため、わずかな時間でも命に関わる深刻な状況に陥る可能性が高いので大変危険です。
高温による熱中症と致死性
JAFの検証では、外気温35℃の炎天下に駐車した車内は窓を閉めた状態で、エンジン停止後わずか15分で人体に危険な暑さ指数に達することが示されました。
日陰でもエンジンを停止すると、車内の温度上昇は避けられません。
JAFの検証によると、日陰の車内温度は日向に比べてわずか7℃程度の差しかなく、依然として危険な高温環境です。
特に注意が必要なのは乳幼児です。体温調節機能が未発達なため、外部の温度変化に対応する力が弱く、成人よりも短時間で体温が上昇するので熱中症を発症するリスクは高まります。
また、高温の車内では上がった体温を、汗をたくさんかいて熱を外に出そうとしますが、空気の流れがないため汗がうまく乾かず、熱が体にこもって熱中症を引き起こします。
特に乳幼児は体内の水分量が多く汗腺の発達も未熟なため、自覚症状が現れにくいまま急速に体調が悪化する可能性が高いです。
「少しの時間だから」「寝ているから」といった理由で車を離れたケースでも熱中症事故が発生しており、短時間でも油断できない環境であることが強く訴えられています。
密閉空間による酸素不足
密閉された車内では、酸素不足にも注意が必要です。
窓やドアを完全に閉め切った車内では空気の循環が途絶え、時間の経過とともに酸素濃度が低下していきます。
また、エアコンを内気循環モードで長時間使用すると、酸素濃度がわずかに低下します。
呼吸によって酸素が消費され、代わりに二酸化炭素が徐々に蓄積されるため、この状態が続くと頭痛や倦怠感、吐き気、さらには意識障害などを引き起こすかもしれません。
夏の車内が必ずしも危険というわけではありませんが、特に子どもや高齢者など、呼吸器系が未発達または弱っている人にとっては注意すべき状況です。
実際に起きた死亡事故の事例

子どもを車内に放置する行為は命に関わる極めて危険な行動であり、車内に残したまま立ち去ったことが原因で命を落とす事故は、毎年のように報道されています。
ここでは、近年発生した深刻な事例を紹介し、車内放置がどれほど危険な行為であるかを改めて確認します。
次は、日本国内で発生した重大な死亡事故の事例です。
岡山県津山市(2023年)
2023年、岡山県津山市で2歳の男児が車内で死亡する事件が発生しています。
祖母が自家用自動車に孫を乗せたまま約3時間外出し、戻ったときにはすでに意識を失っていたと報告されており、高温下の車内に長時間取り残されたことで熱中症によって命を落としました。
祖母は「車に乗せていたことを忘れていた」と説明し、警察は過失致死の疑いで書類送検しました。
出典:朝日新聞
新潟市(2022年)
新潟市では2022年、父親が1歳の子どもを車内に残したまま職場に出勤してしまった、痛ましい事故が起きています。
本来は保育園に預けてから出勤するはずが預け忘れ、子どもを残したまま車を離れてしまいました。
約3時間後、後部座席で意識を失った状態の幼児を発見し、すぐに病院に搬送されましたが、熱中症により死亡が確認されました。
出典:読売新聞オンライン
厚木市(2022年)
2023年7月、神奈川県厚木市で幼いきょうだい2人が命を落とす痛ましい事故が起きました。
警察の調べによると、母親は自宅近くの駐車場で子どもたちを車に残したまま、エンジンを切って車外に出ていました。
その後、子どもたちを乗せたまま公園へ移動し、しばらく車内にいたところ、後部座席にいた子どもたちの様子がおかしいことに気づき、119番通報したといいます。
母親は「エンジンを切り、30分ほど窓を開けていた」「スマートフォンを操作していた」などと話しています。
警察はこの行動が子どもたちの命を危険にさらしたと判断し、母親を保護責任者遺棄の疑いで逮捕しました。
出典:朝日新聞
子どもを車内放置した場合の罰則

子どもを車内に置き去りにして死亡事故が発生した場合、重大な刑事責任が問われます。
刑法では『保護責任者遺棄致死罪』や『過失運転致死罪』が適用される可能性があり、社会的責任も大きい行為です。
過失運転致死罪は、注意を怠った結果として死亡事故を引き起こした場合に適用されます。こちらも懲役刑または罰金刑があり、過失であっても責任を免れることはできません(刑法第二百十条)。
出典:e-GOV 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
適用される主な法律と刑罰
保護する義務がある立場にある人が、危険がおよぶ可能性があることを認識しながら、その責任を放棄して子どもを置き去りにした場合、以下の罪に問われる可能性があります。
- 保護責任者遺棄(刑法第二百十八条):危険を認識して子どもを置き去りにした場合(3カ月以上5年以下の懲役)
- 保護責任者遺棄致死傷(刑法第二百十九条):その結果、子どもが熱中症などになった、命を落とした場合(傷害の罪と比較して重い刑)
子どもを降ろし忘れていたケースなど、置き去りの故意がない場合でも「業務上過失致死傷等(刑法第二百十一条)」により、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます。
書類送検や起訴に至るケースも
子どもを車内に残して死なせてしまう事故では、単なる事故扱いで終わらず、書類送検や起訴へと進む可能性があります。
特に子どもが命を落とすような深刻な結果を伴う事故では、公判に進むケースもあり、会社にも多大な影響が生じます。
少しの油断で取り返しがつかない事態に至る例が多く、保護義務に対する重大な責任があることを自覚しなければなりません。
企業としてのリスク対策は「車両の利用状況」の見直し

従業員の私的な行動であっても、業務時間の前後や休憩中に発生した事故が報道されると、企業の対応姿勢が問われる可能性があります。
特に、従業員が自家用自動車や社用車で子どもを送迎し、そのまま車内に放置した結果として事故が起きた場合、企業の管理体制や従業員教育に対する世間の目が厳しくなりかねません。
例えば、保育園の送迎後にそのまま出勤しようとして、子どもを後部座席に残したまま業務に入ってしまったケースなどは、勤務と密接に関係しており「通勤管理が不十分ではないか」「家庭との両立支援が機能していないのではないか」など、社会的批判につながります。
また、社用車を業務や営業で使う従業員が、業務と家庭の両立を理由に子どもを同乗させるケースでも、万が一の事故が発生すれば企業名とともに広く報道され、ブランド価値の毀損に直結するでしょう。
近年はSNSやニュースを通じて事故情報が瞬時に拡散されるため、一従業員の行動であっても、企業全体の社会的信頼が大きく損なわれるリスクがあります。
事故防止のための制度と教育
こうしたリスクを未然に防ぐには、社内規定の明文化や運用の見直しが重要です。
業務中や通勤時の子ども同乗に関するルールを定めるとともに、フレックスタイム制度や保育支援制度などを整え、従業員が無理なく家庭と仕事を両立できる環境づくりが求められます。
また、注意喚起を目的とした社内報や、実際の事故事例を取り上げたeラーニングの活用によって、従業員一人ひとりのリスク意識を高める教育活動も欠かせません。
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子どもの車内放置を防ぐための物理的な安全対策
子育て中の家庭では、忙しさや疲労から子どもが後部座席に乗っていることをうっかり忘れてしまうことが絶対にないとはいえません。
こうしたヒューマンエラーを防ぐには、ドライバーの注意力だけに頼るのではなく、車両側に安全機能を備えることが効果的です。
近年の車種には、後部座席に人が残っているとアラートが鳴るセンサーが搭載されているものもあり、子どもの置き去りを防ぐうえで非常に有効です。
命を守るために、私たちにできること

子どもを車内放置しない意識徹底が、安全な社会を築く第一歩です。
毎日の行動において、後部座席の確認を習慣づけるチェックリストを作成する、スマートフォンのリマインダーを活用するなど、簡単な仕組みで対策ができます。
特に、子どもを送迎する機会が多い家庭では、日常の一部として安全確認を組み込むことが有効です。
また、家庭だけで完結させるのではなく、保育施設や勤務先と連携して、万が一の際にも早期に異変に気づく体制を整えることが重要です。
例えば、子どもが登園・登校しない場合、保育施設や学校から保護者に必ず確認を取ることで降ろし忘れによる放置を防げます。
まとめ:子どもの車内放置は危険!未来を守るために大切なこと

子どもの車内放置は一瞬の油断が取り返しのつかない事故につながる、極めて危険な行為です。
高温による熱中症のリスクだけでなく、法律による厳しい罰則も科される可能性があります。
「少しの間だから大丈夫」という思い込みを捨て、子どもの安全を最優先に考えましょう。
万が一の悲劇を防ぐためには、社会全体で危険性を正しく理解し、周囲の大人が互いに注意を払うことも大切です。
大切な命を守るために、絶対に子どもを車内に残さないという意識を、私たち一人ひとりが持ち続けましょう。
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