夜間は視認性の低さから、歩行者との接触事故のリスクが高くなる時間帯です。
交通事故の件数としては、統計上昼間の方が多く発生していますが、死亡事故数を見ると夜間の方が多く、特に「薄暮時間帯」と呼ばれる17時~19時台の数字は突出しています。
そこで各自動車メーカーは、交通事故の「見えない危険」に挑むべく、先進運転支援システム(ADAS)の開発に注力しています。
この記事では、夜間でも歩行者を検知して事故を未然に防ぐ、最新自動車技術の仕組みや効果を紹介していきます。
社用車で事故を起こしたら? もしもの時に備えましょう!
目次
ADAS|歩行者検知の基礎システム

歩行者検知を説明する前に、その基礎となるADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)についてまずは簡単に触れていきます。
ADASは、自動車に搭載されたカメラ・センサー・レーダーなどを使った、ドライバーの運転支援、そして事故のリスクを軽減するためのシステムです。
主な目的は「安全性の向上」と「運転負荷の軽減」の実現です。
状況に応じてドライバーへの指示や警告、補助をおこなう中で、それらがブレーキ・アクセル・ハンドルなどの運転操作に関与することから、完全自動運転の前段階である、自動運転レベル2に位置付けられています。
現在では一般的な装備となった制動時のブレーキロックを防止する「ABS(アンチロックブレーキシステム)」や、駆動輪の空転を抑える「TCR(トラクションコントロールシステム)」も事故を回避するためのドライバー支援機能と位置付けられており、これらの支援機能に加え、ドライバーの運転をより高度に支援するシステムの総称が「ADAS」です。
歩行者検知機能の基本的な仕組み

自動車の歩行者検知機能とは、車両が前方や周囲の歩行者の存在を検知することで警告表示や警告音で知らせたり、歩行者と衝突の危険がある場合に自動ブレーキを作動させるといった機能を指します。
ここでは、歩行者検知機能の仕組みについて詳しく解説していきます。
歩行者を検知する機器
自動車が歩行者を見分けるためには、主に下記の機器を組み合わせて高精度な検知をおこないます。
カメラ(前方カメラ) | 歩行者の形や動きを画像認識アルゴリズムで検出 |
ミリ波レーダー | 歩行者との距離・相対速度を計測 |
赤外線カメラ(夜間用) | 夜間の検知力を補強 |
歩行者検知機能のメリット
歩行者検知機能の目的は、歩行者との接触事故を未然に防いだり、被害を軽減することにあります。
特に視認性が低下する夜間や悪天候の条件下では交通事故が重大化しやすく、死亡事故に発展するリスクが高くなるため、万が一ドライバーの反応が遅れた場合に事故の回避、また衝突の被害を最小限に抑える効果が期待できます。
近年、赤外線カメラが向上したことでより鮮明な画像処理が可能となり、夜間の歩行者や自転車の飛び出しに対して反応することが可能となった車両が増えています。
ただし、センサーの汚れなどといった外的要因により精度が著しく落ちることもあり、歩行者検知機能を過信せず、ドライバー自身の適切な運転行動が前提となります。
歩行者を検知する主なADAS機能一覧
まずは歩行者検知機能の仕組みについて解説しました。
ここからは、各自動車メーカーの車両に搭載されている、歩行者を検知するADAS機能を紹介します。
衝突被害軽減ブレーキ(AEB)

衝突被害軽減ブレーキ(Autonomous Emergency Braking)は、事故を未然に防ぐ、または被害を軽減するために搭載されている先進運転支援システム(ADAS)の一つです。
前方の車両や歩行者などの障害物に接近し、衝突の可能性が高いと判断された場合に、ドライバーに警告、または自動でブレーキ制御をおこなうことで、事故を回避、または被害を軽くする仕組みです。
主な作動の流れは以下の通りです。
- 歩行者を検知
車両の進路上に人がいることを認識
- ドライバーに警告
音や表示でドライバーに注意を促す
- 自動ブレーキ作動
ドライバーが反応しない場合、自動的にブレーキをかけるなど
この装置は、2021年11月以降に生産される新型の国産車に対して、搭載が義務付けされています(新型輸入車は2024年7月以降)。
新型車への搭載が義務化された背景としては、高齢者や未就学児が関与する歩行者との交通事故や、高齢ドライバーによるブレーキとアクセルの踏み間違いによる事故の増加が要因として挙げられ、日本では、乗用車等の衝突被害軽減ブレーキに関する国際基準をいち早く導入し、世界に先駆けて新車を対象とした義務付けをおこないました。
国内自動車メーカー別|衝突被害軽減ブレーキ機能の名称 | |
トヨタ | プリクラッシュセーフティ |
日産 | インテリジェントエマージェンシーブレーキ |
ホンダ | 衝突軽減ブレーキ(CMBS) |
マツダ | アドバンス・スマート・シティ・ブレーキ・サポート |
スバル | プリクラッシュブレーキ |
三菱 | 衝突被害軽減ブレーキシステム(FCM) |
ダイハツ | 衝突回避支援ブレーキ機能 |
スズキ | デュアルセンサーブレーキサポートⅡ |
出典:乗用車等の衝突被害軽減ブレーキに関する国際基準を導入し、新車を対象とした義務付けを行います。| 国土交通省
ナイトビジョン/歩行者検知(NV/PD)

ナイトビジョン/歩行者検知(Night Vision/Pedestrian Detection)は、赤外線カメラなどで歩行者や障害物を検知してドライバーに知らせるシステムです。
夜間や悪天候時などは目視での安全確認が困難になりますが、歩行者を熱源として感知することができるため、肉眼では見えにくい状況を検出します。
歩行者などを検知すると、警告音や強調枠を車内のディスプレイに表示して注意を促したり、衝突被害軽減ブレーキと連動し、危険がある場合には自動で減速や停止する機能にも活用されています。
歩行者を検知するデバイスは赤外線カメラのほか、ステレオカメラやミリ波レーダーと単眼カメラの組み合わせなど、メーカーによりさまざまです。
後退時車両検知警告(RCTA)

後退時車両検知警告(Rear Cross Traffic Alert)は、駐車場などからバックで出る際に左右後方から横切る車両や歩行者を検知して、警告音などでドライバーに通知する機能です。
国土交通省は、車両後退時における事故を防止するため保安基準を見直し、2024年11月以降に発売される全ての新型車両は、後退時車両検知警告やバックカメラといった後退時車両直後確認装置の装着が義務付けられています。
例えば、駐車場からバックで出庫しなくてはいけないとき、左右に駐車車両や支柱があったりなど見通しが悪い場面で効果を発揮します。
作動の仕組みとしては、リヤバンパーの左右に搭載された超音波センサーやミリ波レーダーを使い、車両の後方左右をモニタリングします。
ドライバーへの警告は、マルチインフォメーションディスプレイやヘッドアップディスプレイ、検知した側のドアミラーへの表示などがあります。
統計を見ると、2023年に駐車場等で発生した事故のうち、人対車両の接触事故は後退時に一番多く発生しており、後退時は前進時に比べて死角が多くなるため、駐車場内での接触事故やヒヤリハットを減らす上でも非常に有効なシステムとされています。
各自動車メーカーの後退時車両検知警告機能の名称 | |
トヨタ | リヤクロストラフィックアラート |
日産 | RCTA(後退時車両検知警報) |
ホンダ | 後退出庫サポート |
マツダ | リア・クロス・トラフィック・アラート(RCTA) |
スバル | スバルリヤビークルディテクション(SRVD) |
三菱 | 後退時交差車両検知警報システム(RCTA) |
ダイハツ | RCTA(リヤクロストラフィックアラート) |
スズキ | リヤクロストラフィックアラート |
出典:令和5年中の交通事故の発生状況|政府統計の総合窓口 e-Stat
歩行者検知機能の未来|期待される効果
歩行者を検知する機能というのは、自動車の先進運転支援システム(ADAS)の中でも特に重要な役割を担う技術です。
昼夜を問わず歩行者の存在を検知し、ドライバーに警告したり自動でブレーキを作動させたりすることで、重大な事故の発生を未然に防げることが期待されています。
交通事故死者数は年々減少していますが、毎年2,000人以上の人が亡くなっています。
特に夜間の事故は、視界が悪くなる影響で歩行者の発見やブレーキが遅れて重大化しやすく、このような技術が今後の事故防止に大きく貢献すると予想されています。
まとめ:歩行者検知機能が事故削減の一歩に
本記事では、夜間でも歩行者を検知して事故を未然に防ぐ、最新自動車技術の仕組みや効果について紹介しました。
自動車技術は日々進化し、センサーの検知精度や作動範囲といった性能は大きく向上しています。特に夜間や悪天候時の安全性が確保されれば、交通事故件数は大幅に減少するでしょう。
しかし現状では、まだ完全自動運転の交通環境が確立されていない状況であること、さらにADASはあくまで「支援機能」であるため、歩行者検知機能をはじめとするADASに頼り切るのは非常に危険で、ドライバー主体による判断や操作をおこなう必要があります。
ドライバーが「自動ブレーキがあるから大丈夫」などとADASを過信してよそ見をし、緊急時に対応が遅れて事故につながってしまえば本末転倒です。
人と自動車が共存する社会の実現に向けて、歩行者検知機能は「有効なテクノロジー」ではありますが、その機能を最大限活かすためにはドライバーの「日常的な安全意識」が重要となります。
JAF交通安全トレーニングでは、ドライバーの安全意識を養う題材を多数用意しており、教材はすべてe-ラーニングコンテンツとして配信されているので、お手持ちのパソコンはもちろん、スマホやタブレットですき間時間を利用した受講が可能です。
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