尊い命を守るために|子どもの飛び出しによる交通事故を防止するドライバーの心がけとは

登下校の時間帯は、元気な子どもたちの姿をよく見かけることがあります。

次世代を担う子どもたちの安全を守るのも大人の役割です。

しかし、そんな子どもたちの尊い命が犠牲となる交通事故は毎年発生しています。

統計によれば、12歳以下の子どもが歩行中に遭う交通事故のうち、約56%が飛び出しによるものとなっています。

子どもの飛び出しというのはドライバーの想像を超えた場面で数多く発生しており、住宅街や公園、学校付近など、日常に潜む「子どもの行動」をいかにして予測するかがドライバーに求められています。

そこでこの記事では、子どもの飛び出し事故の特徴を踏まえ、ドライバーとして実践できる運転行動や意識の持ち方について解説していきます。

子どもの飛び出しはなぜ起きる?統計からみる原因分析

警察庁の統計によると、2020年~2024年の過去5年間に全国で発生した歩行中の交通事故死傷者は、年齢別で見ると「7歳」がもっとも多く3,436人もいます。

ちょうど小学1年生にあたる7歳の子ども、両親の手から離れてひとりで登下校をしたり、放課後に友達と遊んだりする機会が増えることが要因と見られています。

子どもの飛び出しによる交通事故は、その多くが住宅街や通学路といった身近な場所で起こっています。

身体の小ささや予測不能な動きにより、ドライバーが発見・対応するのが遅れ、重大事故に直結するケースが少なくありません。

こうした事故は、加害者・被害者双方に大きな精神的負担と社会的影響を与えてしまいます。

出典:状態別年齢別死傷者数(令和2年~6年合計)|警察庁

子どもの飛び出し事故が多発する背景とは?

子どもは視野が狭く、その視野角は大人の2/3程度に留まるといわれています。

注意力も発達段階にあるため、「車が来ているか」や「止まれる距離か」といった瞬時の判断が難しい傾向にあります。

また、遊びに夢中になることで、友達やボールを追いかけて急に道路に飛び出してしまうことも少なくありません。

ドライバーが「子どもは急に動くもの」という前提で運転していないと、事故を防ぐのは難しいのが現実です。

交通事故統計|子どもの危険な行動パターン

警察庁の交通事故統計によると、子どもが被害に遭う事故は、歩行中の「道路横断中」や「路上での急な飛び出し」が多くを占めています。時間帯では登下校時の朝夕に集中し、場所は自宅周辺や通学路、交差点付近で多く発生しています。

小学生の歩行中の死傷者の約59%が歩行中であり、そのなかでも登下校中が約35%であることから、特定の場面での警戒が必要だとわかります。

出典:子供(小学生)の交通事故の状況|内閣府

理不尽に感じる飛び出し事故の実態と社会的影響

子どもを巻き込んだ事故を起こしてしまった場合、その加害者となるドライバーは社会的な責任を負うことになります。

本来、社会全体で守らねばならない存在である子どもに対し危害を加えてしまったことで、事故の大小、過失の有無に関わらず、道徳的な観点からドライバーは精神的なダメージを負うことが想定され、さらにその周囲にも深い悲しみやトラウマが残ったり、ひいては社会全体にも不安が広がります。

事故の背景には、子どもの行動特性だけでなく、地域の道路環境や子どもの教育体制にも課題があると考えられます。

ドライバー視点で考える|飛び出し事故は本当に避けられないのか?

子どもの急な飛び出しによる事故は、時折「避けられない事故」として捉えられることがあります。

しかし、子どもが巻き込まれる事故の多くは、ドライバーの運転行動と事前の危険予測によって回避できる可能性があるともいわれています。

ドライバーの心理や習慣、注意の向け方を見直すことで、事故を未然に防ぐことができるかもしれません。

「怒り」「理不尽」|感情とどう向き合うのか?

子どもが突然飛び出してきて、急ブレーキで事なきを得たとします。そんなとき、怒りや理不尽さを感じるのは自然なことかもしれません。

しかし、その一時的な感情から「危ないだろ!」「急に飛び出してくるな!」と他責思考に偏ってしまえば、その教訓を安全運転に活かすことはできません。

子どもは未熟で予測不能な存在だと理解し、感情ではなく「守る意識」を優先した運転を心がけ、ヒヤリとした出来事から今後の運転行動の改善につなげることが大切です。

子どもの行動特性と判断能力の限界

子ども目線・大人目線編(もしもの状況を疑似体験する360度VR ...

子どもの視野は大人の2/3程度といわれているので、横や後ろから接近する車に気づきにくく、目線も低いため遠くを見通すこともできません。

また、子どもは興味のあることに注意が向きやすいので、ボールを追いかけたり友達に呼ばれたりすると衝動的な行動を取るケースが多く、車道への急な飛び出しに繋がることがあります。

さらに、「青信号は渡る」「赤信号は止まる」といった基本的なルールは知っていても、その時その場所の危険を予測し、瞬時に安全な行動を判断するのは能力的に難しい存在です。

こうした子どもの特性を理解していれば、ドライバーとしての心構えも変わり、早めの減速や注意喚起などの危険を予測した行動につながります。

出典:子ども目線・大人目線編(もしもの状況を疑似体験する360度VR動画) | JAF

子どもの飛び出し対策と事故を未然に防ぐ運転術

思わぬタイミングで飛び出してくるかもしれない子どもたち。

そんな子どもの行動特性や事故発生の傾向から、ドライバーが取るべき具体的な対策や運転術を紹介します。

子どもを巻き込んだ事故を発生させないための安全運転ポイント

住宅街や通学路など子どもが多く通行することが予想されるエリアでは「子どもが飛び出てくる」ことを前提に運転することが重要です。

急な飛び出しに備えるためには、低速走行が基本です。何かあればすぐに止まれる速度、時速30km/h以下を意識して走行しましょう。

学校や公園周辺の子どもたちは、「友だちとの会話や遊びに夢中で周りが見えていない」と考えておきましょう。

万が一車道にボールが転がってきたら、子どもがそれを追従してくると予測し、減速か停止をして様子をみます。

また、自転車やキックボードに乗っている子どもがいたら、急な進路変更や転倒の可能性を考慮して距離を取り、いつでもブレーキを踏めるように構えておきましょう。

そのほか、視線を広く持って先の状況を確認するなど、日常の運転習慣を見直すことで事故のリスクを大きく減らすことができます。

信号機のない横断歩道・見通しの悪い交差点での対応

子どもの飛び出し事故が多発するのは、信号のない横断歩道や見通しの悪い交差点などです。

子どもに多い行動特性として、「左右を確認せず飛び出す」「交通ルールの理解が不十分」が挙げられます。

信号機のない横断歩道の対策として、もし子どもが横断歩道付近に確認できたら、横断の意思があるかどうかにかかわらず、横断歩道手前から減速して様子をみましょう。

もし対向車が横断歩道前で停止していれば、自車から見えない位置に子どもが存在する可能性も考慮し、自車も一時停止を行うなど、予測した行動も求められます。

また、見通しの悪い交差点では、建物や塀に子どもが隠れている場合があるので、進入前から徐行し、急な飛び出しに警戒しましょう。

薄暮(夕暮れ時)や雨天時などには、早めにライトを点灯させて自車の存在に気づいてもらう工夫も大切です。

事故を防ぐ速度コントロール

急に飛び出す子どもに対応するためには、ブレーキを踏んでから止まるまでの距離(停止距離)をどれだけ縮められるかが大事です。

時速40km/hで走行している時の停止距離は約22mですが、時速30km/hでは約14mまで短くなります。

子どもの通行が多いエリアでは、より速度を落とすことで、安全に止まれる可能性が大きく上がります。

出典:走行中の適切な車間距離は? | JAF クルマ何でも質問箱

予測と視野を広げた安全運転

子どもは小柄なので車側から物理的に見えなかったり、衝動的な行動で予測が難しいところがあります。

それでも、「子どもがいるかもしれない」「急に飛び出してくるかもしれない」といった“かもしれない運転”を常に意識することで、とっさの緊急行動にも余裕が生まれます。

また、目の前の状況だけを見て漫然と運転するのではなく、子どもの声が聞こえればいつでも止まれるよう心の準備をおこなうなど、次の状況を想像した「先読み運転」を心がけることが大切です。

むやみやたらに「ゾーン30」には入らない

屋外, 人, 男, 建物 が含まれている画像

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「ゾーン30」とは、生活道路における歩行者や自転車の安全確保を目的とした交通安全対策のひとつです。

指定された区域(ゾーン)は制限速度が時速30km/hに定められ、車のスピードや通り抜けを抑制します。

ゾーン30は、幹線道路等に囲まれた住宅街・学校・公園といった生活道路を対象エリアとしており、子どもたちの行動範囲とも一致するため、ドライバーからすれば飛び出しが発生する可能性が高い場所ともいえます。

そのためにも、ゾーン30の標識や道路標示を見落とさないように注意し、区域に入ったら時速30km/h以下の慎重な運転をするように努めましょう。進入禁止時間帯でなければ通行することは問題ないですが、別のルートがあるなら極力避けて通るべきでしょう。

出典:ゾーン30とは?|警視庁

ASV(先進安全自動車)に搭載されているAEB(衝突被害軽減ブレーキ)の活用

ASV(先進安全自動車)とは、AIなどの先進技術を利用してドライバーの認知・判断・操作をサポートし、安全を支援するシステムを搭載した自動車です。ASVは交通事故の防止、交通被害の軽減を目的としています。

そして、ASVに搭載されている運転支援システムのひとつ、「AEB(衝突被害軽減ブレーキ)」が子どもの飛び出しによる事故を減少させる可能性のある機能として注目されています。

AEBは前方の障害物を検知し、衝突の危険があれば自動でブレーキを作動させ、ドライバーのヒューマンエラーを補助してくれる機能です。

この機能を搭載している車を運転していれば、万が一子どもが急に飛び出してきたとき、ドライバーが反応できない状況でも停止できる効果が期待できます。

しかし、背丈の小さい子どもに対しては本来よりも検知精度が低下し、作動が間に合わないケースもあります。

たとえAEBが搭載された車を運転していても、機能を頼りきらず、まずは安全運転を心がけましょう。その上で、その性能と作動条件を理解することが大切です。

出典:ドライバーを支援する最新システム「先進安全自動車(ASV)の紹介」 | JAF

まとめ:子どもの行動は予測できないからこそ大人が守る

この記事では、子どもの飛び出し事故の特徴を踏まえ、ドライバーとして実践できる運転行動や意識の持ち方について解説していきました。

子どもを守るのは大人の仕事です。ドライバーとして「止まる準備」と「気づく力」で子どもの飛び出し事故を防ぐ最前線に立ちましょう。

危険な場所やタイミングを予測できるドライバーほど、事故回避能力が高くなっていきます。

危険予知トレーニング(KYT)を実施することで、交通状況のどこにリスクが潜んでいるかを考える習慣が身につきます。

交通事故防止には単純な運転技術だけでなく、日ごろの訓練が必要不可欠です。

習慣化したKYTによる意識の改革が事故防止には求められます。そこで、JAF交通安全トレーニング(JAFトレ)です。

JAFトレでは実際の交通状況を再現したKYTや、子どもの接触事故を題材にした講座など、JAFが長年培ってきた交通安全のノウハウがふんだんに盛り込まれた教材を多数用意しています。

これらはすべてe-ラーニングコンテンツなので、すき間時間を利用してパソコンはもちろん、スマホやタブレット使っていつでも受講が可能です。

子どもたちの未来を守るためにも、JAFトレを活用して運転習慣を見直してみましょう。

JAF交通安全トレーニング

毎日の学習で交通安全意識の向上へ。通勤・通学・あらゆる事故を減らしたい。そんな想いからJAFが長年培ってきた交通安全のノウハウをeラーニング「JAF交通安全トレーニング」として教材化しました。

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