企業ドライバーが知っておきたい電動キックボードの特性|転倒リスクの高さと統計が示す事故急増の背景

2023年7月、道路交通法改正が施行されたのはまだ記憶に新しいところです。

この改正では、長さ190cm、幅60cm以下、最高時速20km/h以下などの条件を満たす電動キックボードを含む電動モビリティが「特定小型原動機付き自転車」と定義され、16歳以上であれば運転免許不要で誰でも公道利用ができる乗り物となりました。

さらに、スマートフォンひとつあれば貸出〜返却まで一括して行えるシェアリングサービスの充実や、首都圏を中心にシェアリングポートが拡充されたことも相まって、電動キックボードの利用者は飛躍的に増えています。

しかしその一方で、電動キックボードが関連する交通事故数が大きく増加する問題が起きてしまっています。

この記事では、電動キックボードという乗り物の特性や、交通違反の検挙数や事故発生数などの統計データから電動キックボードの交通事故増加の背景を探りつつ、社用車を運転する企業ドライバーが、電動キックボードに対するリスクをどのように回避していけばいいのか紹介していきます。

特定小型原付での交通違反検挙数と事故発生件数を分析

まずは、特定小型原動機付自転車の定義付けがなされた2023年7月の法改正から2024年12月までの期間中、電動キックボードの運転中に起きた交通違反数・事故発生数の統計データを紹介します。

特定小型原付の交通違反件数推移と統計

まずは、電動キックボードを含む特定小型原付の交通違反検挙件数を見てみましょう。

違反別\年月2023年(7月〜12月)2024年(1月〜6月)2024年(7月〜12月)違反別合計
通行区分3,44010,40314,22528,068
信号無視2,6855,0404,79812,523
一時不停止4639931,6503,106
歩行者妨害1723755531,100
その他
(うち酒気帯び)
370
(37)
1,217
(157)
1,992
(221)
3,579
(415)
年月合計7,13018,02823,218

違反類型別の内訳をみると、「時速6km以上での歩道走行」や「道路の右側や反対車線の通行」にあたる「通行区分」が期間中の合計2万8,068件で全体の58%、次点に「信号無視」が1万2,523件で全体の26%と、先述した上位2つの違反内容のみで全体の84%の大勢を占めています。

3位以降は「一時不停止」が3,106件で全体の7%、「歩行者妨害」が1,100件で全体の2%、「その他」が3,579件で全体の7%(うち「酒気帯び」が415件)となっています。

気軽に乗れるようになり利用者が拡大した半面、それに比例して交通違反が多発したことが統計から推測でき、2023年7月から2024年12月までに4万8,376件(2025年2月27日時点・警察庁)が検挙されていることがわかります。

※件数と百分率は2023年7月〜2024年12月の合計

出典:特定小型原動機付自転車に関連する交通違反・事故の発生状況|警察庁

警視庁が発表した最新の事故件数と死傷者数

次に、電動キックボードの事故件数とそれに伴う死傷者数を見てみましょう。

区分\年月2023年
(7月〜12月)
2024年
(1月〜6月)
2024年
(7月〜12月)
合計
事故件数85134204423
死者数0011
負傷者数86140210436
※特定小型原付が第1当事者または第2当事者(死傷者数は第3当事者以下を含む)となった人身事故で、警視庁に報告のあった件数を集計(2025年2月27日時点)

この表にある通り、2023年7月〜2024年12月に電動キックボードが第1当事者または第2当事者となった交通事故件数は423件発生し、死者数は1人、負傷者数は436人となっています。

そのうち、2024年度中の特定小型原付に関連する交通事故件数は338件、死者数は1人、負傷者数は350人でした。

特定小型原付に認められる電動キックボードは、最高時速20km/hの制限がかかっていることもあり、高速度域での走行ができません。

制限によって、速度超過など重大事故につながりやすい違反が起こりずらいことから、バイクや自動車に比べて死者数が少なく、重大な死傷事故につながりにくい側面が統計から見受けられます。

しかし、負傷者数(第1当事者・第2当事者含む)は事故1件あたり1人以上発生していることから、事故が起きれば、程度に限らず怪我をしやすい、またさせやすい乗り物であるといえます。

出典:特定小型原動機付自転車に関連する交通違反・事故の発生状況|警察庁

相手当事者別に見た交通事故の発生内訳

さらに同期間の交通事故発生件数から、相手当事者別にした交通事故発生件数を見てみましょう。

相手当事者\年月2023年(7月〜12月)2024年(1月〜6月)2024年(7月〜12月)
単独344555
四輪244371
歩行者172032
自転車92232
二輪車1211
その他023
合計85134208

この統計では、単独事故が、四輪相手と同程度に多い点に注目です。

法改正がおこなわれた直後より半年の期間(2023年7月〜12月)では、対四輪の事故よりも単独事故が多く発生しています。

法改正に伴い急増した利用者の中には、電動キックボードという乗り物の特性を理解しないまま運転をおこなうひとも少なくありません。

今後もしばらくは電動キックボード利用の普及が進むと予想されますが、それと同時に車両の扱いに不慣れな利用者も増え続けることもイコールとして考えなければなりません。

車のドライバーは、自車周辺の電動キックボードの利用者が単独事故を起こす可能性が高いことや、交通法規に対して未習熟な可能性についても十分考慮しておく必要があります。

出典:特定小型原動機付自転車に関連する交通違反・事故の発生状況|警察庁

電動キックボードの転倒リスクを理解する|事故の主な原因と事例

ここでは、電動キックボードの事故がなぜ起きやすいのか、実際に起こった事故例とともに原因を探るとともに、万が一事故を起こしてしまった時のリスクを紹介します。

事故原因の分析|転倒リスク

電動キックボードの事故原因のひとつに「転倒」があります。

一般的な電動キックボードのほとんどは、タイヤが細くて小さく、路面の影響を受けやすい構造になっているため、自転車やバイクなどの大径タイヤの乗り物に乗っている時と同じ感覚で走行していると転倒リスクが高まってしまうのです。

たとえば、グレーチング(側溝などにはめられている網目上の蓋)などの上を走行した際、溝にタイヤがはまりロックしてしまう可能性も考えられ、そうなれば運転者だけが道路上に放り出されることも。

そのため、自動車などを運転している周囲のドライバーは、電動キックボードを確認した場合に「段差でつまずきやすい」「ハンドルを取られやすい」「バランスを崩しやすい」乗り物であることを考慮しながら、運転をおこなう必要があります。

転倒しやすい路面とは?

電動キックボードは、路面のわずかな凹凸に対して大きな衝撃となって乗り手に伝わる構造となっていることが多く、その余波でハンドルを制御できずに転倒してしまったり、立て直すために車道の中で大きく膨らんでしまったりすることも考えられます。

さらにタイヤと地面の接地面積が小さいのでグリップ力にも欠け、雨天時などには、スリップが起こりやすくなります。

さらに、立ったままの姿勢で運転する電動キックボードは、乗車時の重心が高くなるため、バランスを崩しやすいことも構造上の問題点といえるでしょう。

車やバイクを運転中、前方や周囲に電動キックボードの走行を確認した場合には「路面の状況からこういう動きをするかもしれない」「もしも今転倒したら回避できるか」「不用意に近づきすぎていないか」など、リスクを踏まえた危険予測行動をとりましょう。

特に、追い抜き、追い越しをかける際には、電動キックボードと十分な距離を保っておこなうべきです。

具体的な事故例|死亡事故や重大事故

2022年9月、東京都中央区で、電動キックボードを運転中だった会社役員の男性(当時52歳)が転倒して死亡した痛ましい事故が発生しました。

警視庁は同11日、男性を道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで容疑者死亡のまま書類送検しています。

事故前に飲食店で飲酒していたという情報などが、その後の血液検査や、捜査によって明らかになっていて、電動キックボードを酒気を帯びて運転した疑いがあると判断された事例です。

事故原因は、中央区内のマンション1階の車止めにぶつかり転倒したことと見られており、酒気帯びとはいえ、車両の転倒のしやすさが露見した事例となりました。

なお、この死亡事故は、電動キックボードが絡む事故で全国初となる死亡者発生の事例でした。

参考:電動キックボードで酒気帯び運転容疑 転倒して死亡の男性を書類送検|朝日新聞

まだ交通ルールの理解が浅い電動キックボード利用者

電動キックボードの公道走行が免許不要で気軽におこなえることもあり、つい自転車のような感覚で利用してしまうひとも多いようです。

ここでは、企業ドライバーが電動キックボードの特性を理解するために、

予測外な動きをする電動キックボードに注意

電動キックボード=自転車となんとなく考えたまま運転をおこなう人が多く見受けられるようです。

曖昧な認識のまま運転をおこなえば、運転中に交通ルールの正解がわからなくなってしまうことや、それに伴って他の歩行者や自動車が予測する「ルール上電動キックボードはこう運転をするだろう」といった共通認識から大きく逸脱する可能性もあり、その齟齬は交通事故を引き起こす原因となりえます。

実際、先述した事故統計でもダントツで検挙数の多かった「通行区分」違反は、道路交通法上での電動キックボードの立場を理解していないと遵守が難しくなります。

たとえば、電動キックボードで「歩道の自転車レーン」を走ることは道路交通法違反ですが、車道の左端にある自転車専用通行帯や、最近路上で見るようになってきた自転車ナビマーク部分などの「自転車レーン」であれば、電動キックボードでも走行可能です。

「自転車が走れるところなら電動キックボードもOKだろう」と安易に考え、特に通行区分を間違ってしまう電動キックボード利用者が多く発生しています。

どちらかといえば、自転車よりも原付バイクに寄ったルールが多いのが公道上での電動キックボードの立場ですが、利用者は周囲に混乱を招かないようしっかりと電動キックボードの交通ルールを理解しなければなりません。

企業ドライバーをはじめとした周囲の交通利用者は、電動キックボード利用者の交通ルールへの理解がまだ浅いということを前提にした危険予測・運転をおこなうとよいでしょう。

免許不要で乗れることの弊害?飲酒運転の常態化が懸念

安全かつ快適な交通社会は、各々が運転する車両に沿ったルールを守ることで成り立っており、交通社会新参ともいえる電動キックボードの利用者も、交通ルールを覚え理解し同時に遵守していく必要があります。

2024年の統計では、電動キックボードの飲酒運転摘発事例が378件も報告されており、2023年の検挙件数より増大傾向にあることなどから、今後の常態化が懸念されています。

自転車の飲酒運転は、これまで飲酒の程度にかかわらず禁止されていたものの、いわゆる酩酊状態で運転する「酒酔い運転」のみが処罰の対象(2024年11月の法改正で厳罰化)でした。

しかし、車やバイクに比べて自転車の酒気帯び運転は厳罰化となったのが最近のことで、それまで飲酒運転が常態化していた経緯があり、現在、自転車と同じ感覚で利用される傾向にある電動キックボードでも飲酒運転がおこなわれやすい要因となっています。

万が一、夜間などにふらふらと走行している電動キックボードを見かけたら、飲酒運転の可能性を疑って不用意に近づかないなど危険予測を踏まえた運転をおこないましょう。

ヘルメット着用率の低さが重大事故のリスクを増大

電動キックボードの利用者に警察庁がアンケートをおこなったところ、9割を超える利用者がヘルメットを着用していないことがわかったといいます。

現在の道路交通法では、電動キックボードを運転する際のヘルメット着用については努力義務とされており、着用しなかったからといって違法とはなりませんが、ヘルメットを着用する・しないで、万が一交通事故をおこしてしまったときのリスクが変わってきます。

出典:電動キックボードの衝突実験(JAFユーザーテスト)|JAF

JAFがおこなった電動キックボードの衝突実験

JAFがおこなったテストで、電動キックボードにダミー人形を乗せてレールにセットし、6km/hもしくは20km/hの一定速度で「縁石」「歩行者」「自転車」「自動車」に衝突させ、その際の頭部損傷を示す値(HIC値)をそれぞれ計測し、怪我のリスクを検証したものがあります。

・HIC値とは
Head Injury Criterionの略で、衝突や落下などの衝撃による脳や頭蓋骨への損傷程度を表す数値のこと。HIC1000を超えると脳損傷の可能性があり、HIC3000を超えると非常に高い確率で重篤な傷害が発生するという。

ダミー人形を乗せた電動キックボードを20km/hでけん引し、高さ10cmの縁石に衝突させたテストでは、HIC値は以下のような結果が出ました。

ヘルメット着用のHIC値ヘルメット非着用のHIC値
1231.87766.2

ヘルメット着用している場合でも、基準となるHIC値が1000を超える結果となり、頭蓋骨骨折のリスクがあるほどの衝撃だった結果となりました。

一方で、ヘルメット非着用の場合は、HIC値が基準の1000を大幅に超える7766.2と、ヘルメット着用している場合の約6倍の数値となり、重篤な頭部損傷になるリスクや死亡するリスクが高いということです。

このように、万が一転倒して地面に頭部を打ちつけてしまった場合、ヘルメット未着用だと致命傷となることがわかるので、電動キックボードに乗る際には必ずヘルメットを装着して自分の身を守りましょう。

企業ドライバーは、ヘルメットを着用していない電動キックボード利用者を見かけた際には、自身の運転の影響や接触などによって転倒させてしまった場合のリスクを考え、特に近くを通行する場合には安全運転を心がけることが大切です。

出典:電動キックボードの衝突実験(JAFユーザーテスト)|JAF

ヘルメット着用の重要性

今後、警察庁はシェアリング事業者に対し、ヘルメットの貸し出しをするように促す方針とのことで、このまま着用率が上がらなければ、近い将来ヘルメット着用が努力義務であったものから義務化へと変わっていくかもしれません。

電動キックボードは、転倒すれば小さな怪我で済まない可能性が高いため、日常的に利用する方は特にヘルメット購入・利用をすぐに検討することをおすすめします。

また自動車を運転するドライバーは、電動キックボードと事故を起こすと、頭部を強く打ったりすることなどによる重大な事故となる可能性があることを覚えておきましょう。

出典:電動キックボード、ヘルメット未着用9割超 事業者の貸し出し促進へ|朝日新聞

まとめ|電動キックボードの特性を理解することが大切

電動キックボードは、シェアリングサービスの拡充などによって街中で気軽に乗れるようになり利用が拡大した半面、交通違反が多発し、2023年7月から2024年12月までに4万8,376件(2025年2月27日時点・警察庁)が検挙されています。

事故件数も右肩上がりに増えていることから、利用する際には公道上を走行する自覚を持ち、交通ルールをしっかりと頭に入れてからハンドルを握らなければなりません。

一方、電動キックボードを運転する人はもちろん、周囲を走行する可能性のある自動車のドライバーやバイクのライダーも、その車両特性を理解し危険予測に活かすなど、事前に備えておく必要があります。

JAF交通安全トレーニング」では、電動キックボードの特性についてさらに詳しく解説するe-ラーニング形式の講座をご用意しています。

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オノデラマコト
小野寺マコト
1991年生まれ、東京生まれ東京育ち。グラフィックデザイナーとして就職するも、気づけば乗り物全般に濃く携わる編集者の道へ。出版社を渡り歩き、独立後は若年層向けの雑誌創刊や、メディアローンチを手がけるなど、特にZ世代への訴求方法を模索。交通安全普及を考える一方で、映像分野にも明るく、マルチなコンテンツクリエイターとしても活動している。