煽り運転の罰則強化!加害者として検挙されれば雇用企業もろとも社会的損失は甚大に

昨今、ニュースで「煽り運転」の文字をたびたび見かけるようになりました。

自分勝手な運転による痛ましい死亡事故が相次いだことで社会問題となり、「妨害運転罪」が新設されたのが令和2年(2020年)6月のことです。

もし検挙されれば、違反1回でも免許取消処分が確定。相手を負傷させれば15年以下の懲役刑が下される可能性があるなど、厳しい罰則が待っています。

この記事では、自身だけではなく会社にまで影響が及ぶ可能性がある危険行為「煽り運転」について徹底的に解説していきます。

社用車を運転する際、気付かぬうちに煽り運転の加害者になっていないか、被害者となった時にどうすればいいのか、ぜひ参考にしてください。

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煽り運転とは?基本の解説

「煽り運転ってどういうもの?」と聞かれたとき、多くの人は、前後の車に対して蛇行や急停止を繰り返し、嫌がらせを行っている車を連想するのではないでしょうか?

まさに、他の車に対し、故意的に妨害運転をおこなって交通を阻害する行為のことを煽り運転と呼びますが、具体的にどのような行為がそれに該当するのか、解像度を上げて考えてみましょう。

煽り運転と妨害運転の違い

よく疑問に思われる方もいますが、「煽り運転」と「妨害運転」はほぼ同義です。

いわゆる「煽り運転」については、2020年以前まで道路交通法上の明確な規定がなかったため、令和2年(2020年)6月の道路交通法一部改正により「妨害運転」として定義が明示されるとともに、罰則が創設されました。

「妨害運転」が法律上の正しい名称として定義されていますが、「煽り運転」はこれまでの通称としてきたので、どちらも間違いではありません。

煽り運転に該当する行為とは?

煽り運転というと、前方の車との車間を詰めたり、蛇行運転によって嫌がらせする行為が代表的です。

ほかにも執拗にクラクションを鳴らしたり、妨害を目的としてパッシングをおこなうこと。

さらには、進路を塞いで通行の邪魔をしたり急ブレーキを踏むなど、さまざまな方法を用いて、周囲の車に対して威嚇・挑発することを煽り運転と呼びます。

道路交通法 第百十七条の二の二の八 では、

他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした者

引用元:道路交通法第百十七条

と、違反者について定めています。

妨害運転の対象はざっくり10種類

出典:警察庁

それでは、具体的にどのような運転をすれば違反の対象となるのでしょうか。

改正道路交通法では、10類型をもとに妨害運転の違反対象となるかを判断しています。

・対向車線からの接近や逆走(通行区分違反)
・不要な急ブレーキ(急ブレーキ禁止違反)
・車間距離を詰めて接近(車間距離不保持)
・急な進路変更や蛇行運転(進路変更禁止違反)
・左車線からの追い越しや無理な追い越し(追越し違反)
・不必要な継続したハイビーム(減光等義務違反)
・不必要な反復したクラクション(警音器使用制限違反)
・急な加減速や幅寄せ(安全運転義務違反)
・高速道路などの本線車道での低速走行(最低速度違反(高速自動車国道))
・高速道路などにおける駐停車(高速自動車国道等駐停車違反)

これらの行為、または近しい行為をおこない、周囲の車に危険を感じさせてしまった場合、検挙対象となる可能性があります。

そんなつもりがなくても煽り運転に?

煽り運転の怖いところは、もし自分に悪気がなかったとしても、周囲や相手の車から「煽り運転だ」と判断されれば、検挙される可能性がある点です。

煽り運転に該当する10パターンを把握し「絶対に加害者にならないように」意識をもってハンドルを握ることが大切です。

ちょっと挑発・注意しようとしただけのつもりでも、結果として重大な事故・事件へ発展しやすいことから、運転時、誰しもに起こり得ることだと認知しておくべきでしょう。

煽り運転の罰則と点数について

もしも、煽り運転で検挙されたらどうなってしまうのか。

道路交通法の改正内容、そして、強化された罰則について見ていきましょう。

道路交通法の改正と煽り運転の罰則強化

東名高速道路などでの死亡事故発生を契機に、社会問題となった「煽り運転」。

令和2年(2020年)6月の道路交通法一部改正により「妨害運転」として定義が明示されるとともに、罰則が創設されています。

その罰則は、ドライバーにとって厳しい内容となっており、最悪の場合、逮捕もあり得る重大な違反行為となりました。

煽り運転の刑事罰と行政罰

出典:警察庁

道路交通法の妨害運転違反について罰則を抜粋すると、

  • 交通の危険のおそれがある妨害運転に対する罰則
    ほかの車両等の通行を妨害する目的で10類型の行為をおこない、交通に危険を生じさせた場合、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されることがあります(道路交通法第117条)。
    また、違反点数25点が加算されれば免許取消処分となり、さらに、免許を再取得することができない期間である欠格期間2年(前歴や累積点数がある場合には欠格期間最大5年)が科されます(道路交通法第103条道路交通法施行令38条)。
  • 著しい交通の危険がある妨害運転に対する罰則
    交通に危険を生じさせるような妨害運転をおこなったことに加え、重大な交通事故につながる危険を生じさせた場合には、5年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されることがあります(道路交通法第117条)。
    また、違反点数35点が加算され、運転免許取消処分となり、さらに、免許を再取得することができない期間である欠格期間3年(前歴や累積点数がある場合には欠格期間最大10年)が科されます(道路交通法第103条道路交通法施行令38条)。
    加えて、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止したり、著しく接近したりする運転などで人を負傷させた場合には、危険運転致死傷罪が適用され、15年以下の懲役、人を死亡させた場合には1年以上の有期懲役に処されることがあります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条)。

これら以外にも、煽り運転に伴って、相手に危害を与えるような行為があった場合、暴行罪、傷害罪、脅迫罪などの罪に問われることがあります。

罰則を一覧にすると…

対象となる行為刑事罰行政罰
妨害を目的としたあおり運転3年以下の懲役、
または50万円以下の罰金
免許取り消し
違反点数25点
欠格期間2年
あおり運転で著しい交通の危険を生じさせた5年以下の懲役、
または100万円以下の罰金
免許取り消し
違反点数35点
欠格期間3年

違反点数は行政処分の前歴がない場合、煽り運転行為をおこなった時点で累積15点を超えるので、一発で免許取り消しとなります。

さらに人を負傷させた場合には、危険運転致死傷罪が適用される可能性が高くなります。

煽り運転をおこなえば、少なくとも免許取消(失格期間2年〜)、最悪の場合は懲役刑もあり得る厳しい罰則が待っています。

危険運転致死傷罪の改正

煽り運転により、人を負傷させた場合に罪に問われる可能性のある「危険運転致死傷罪」についても解説していきます。

改正の経緯

この危険運転致死傷罪の適用には、これまで「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する」ことが条件になっており、昨今のあおり運転に見られるような「高速道路等で徐行または停止させる」行為が危険運転に該当するかが曖昧でした。

そのため、令和2年(2020年)7月2日施行の自動車運転死傷行為処罰法改正では、以下のように危険運転致死傷罪で処罰される行為が2つ付け加えられています。

危険運転致死傷罪と新適用範囲

改正自動車運転死傷行為処罰法で書き加えられた処罰行為は

  • 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
  • 高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為

の2点です。

この改正により、煽り運転により高速道路等に停止させたり徐行させることによって、死傷事故に結びついた場合もまた危険運転致死傷罪の処罰の対象となっています。

出典:[Q]危険運転致死傷罪が適用される場合とは?|JAF クルマ何でも質問箱

煽り運転されたらどうする?適切な対応方法

出典:政府広報オンライン

もし煽り運転の被害者となった場合、どのように対応すればよいでしょう。

煽り運転されたら急ブレーキを避けるべき理由

煽り運転の被害を受けたとしても、仕返しとばかりに反撃してはいけません。

危険を防止するためにやむをえない場合を除き、急ブレーキをかけることは道路交通法で禁止されていることからも、煽り運転の仕返しに急ブレーキをかけることは、不要な急ブレーキと見なされ、法律違反になる可能性が高いのです。

また、急ブレーキをかけたことが相手方をさらに逆上させる可能性も考えられます。

加えて、何度もクラクションを鳴らすなどの行為も、相手の煽り運転に警告をするつもりだったとしても道路交通法の警音器使用制限違反となる可能性がある行為なので控えるようにしましょう。

警察への通報の流れと必要な証拠

「今あおり運転の被害に遭っている」
「あおり運転の相手とトラブルになっている」

など緊急性が高い場合には、迷うことなく110番通報をおこないましょう。

  • 交通事故に遭わない安全な場所(駐車場、サービスエリア等)に避難してから、車外に出ることなく110番通報をする。
  • 同乗者がいるときは、110番通報を同乗者に依頼し、運転者は安全な場所に車を避難させる。
  • 相手が追いかけてきた場合は、窓を閉め、ドアにロックをかけるなど、警察官が到着するまで車内に留まり待機する。

激昂した相手ドライバーが迫ってくるなど二次被害の恐れもありますので、防犯のために車外に出ずに対処することが大切です。

ドライブレコーダーによる証拠記録の重要性

ドライブレコーダー等の映像は、有力な証拠資料となる場合があるので、加工・消去せずに大切に保管するようにしてください。

しかし、運転者自身が車を運転しながら、スマートフォン等を持ち、相手の違反行為を撮影することは非常に危険です。

全てを記録したい気持ちはわかりますが、道路交通法の違反にも該当してしまいます。

まずは安全な場所に移動してから通報、ドアロックなどを行ってから状況の記録などをおこなうようにしましょう。

煽り運転を防止するためにできること

煽り運転をする側が悪いのは確かなことですが、何事にも原因はあるものです。

煽られる原因が自身の運転になかったのか、見つめ直すことも大切です。

ドライブレコーダーの設置とその効果

まずは、ドライブレコーダーを車に装着することです。

録画中であることを他車にアピールすることで、煽り運転の被害を未然に防ぐ効果があります。

煽り運転を受けた場合、ドライブレコーダーの映像や相手の情報などの証拠があれば、後日でも被害届を提出することができます。

ナンバーや車体、顔を撮影されていては逃げ場がなくなるため、ドラレコ装着には抑止効果があると言われています。

円滑な交通を意識する

煽り運転をする側の心理として「前の車が邪魔だな」「急いでいるのに」など、負の感情に気づいてもらおうと、妨害運転を行ってしまうケースがあります。

例えば、高速道路で追い越し車線を走り続けたことで、後続車に煽られるケースを考えてみましょう。

高速道路の追い越し車線は、あくまで前の車を追い越すための車線です。

法定速度内であっても、走行車線に戻ることなく追い越し車線を走り続けていれば「通行帯違反」にあたります。検挙対象となるだけでなく、円滑な交通を妨げているとして他車からの反感を買いやすくなるので、注意が必要です。

思いやりの意識が大切

そのほか、法律違反ではないという場合でも、交通の流れからみて、明らかに他の交通の円滑さを損ねていることがあれば、他のドライバーの気分を害していることも考えられます。

「後ろの車に追いつかれたから譲ってあげよう」
「今、車線変更をしたらびっくりさせてしまわないかな」

このように、相手を思いやる心で運転をおこなえば、煽り運転の被害を未然に防ぐことができるはずです。

煽り運転の社会的影響とその解決策

ここまで解説してきたように、煽り運転をおこなって検挙されれば、ドライバーとしてはもちろん、勤務している会社にまで、社会的制裁が降りかかることになるでしょう。

ましてや、煽り運転を会社の看板を背負う社用車でおこなえば、その後どうなるかは想像に難くありません。

煽り運転による社会的損失

従業員が、業務中に煽り運転をおこなった場合には、仮に事故を起こさなくても企業イメージの毀損のおそれがあります。また、事故を起こせば、企業に法的責任が発生する可能性も。

日本の法律では、従業員が業務中に第三者に損害を与えた場合、使用者である企業が使用者責任を負うことが定められています。

あおり運転が業務中におこなわれた場合、企業が責任を免れるのは難しいといえるでしょう。

運送業従事者の例

例えば、運送業に従事する従業員が配送中に煽り運転をおこない、事故を引き起こした場合、企業はその事故による損害賠償を求められる可能性があります。

さらに、従業員が法的処分を受けた場合には、企業の管理監督責任も問われる可能性があるのです。

企業は、従業員のあおり運転が直接企業に影響を及ぼすことを認識し、適切な監督と予防策を講じておかなければなりません。

教育・啓発活動による煽り運転防止策

ドライバーに言えることは、意図的な妨害運転などはもっての外であるということ、ただひとつです。

運転中に負の感情を感じた時には、一旦心の中を整理するマインドセットを持ち、深呼吸をおこなうなど、まずは気持ちを落ち着かせることが大切です。

ドライバーの性格は、ひとそれぞれ異なりますから、一貫した煽り運転対策として社内教育が必要になります。

定期的に教育の場を設けることが困難な企業には、eラーニングシステム「JAF交通安全トレーニング」がおすすめです。

JAF交通安全トレーニングでは、スマートフォンやPCなどがあれば誰でも好きなタイミングで学習できます。

また、管理者は誰がどこまで学習したかを確認できるので、従業員の学習状況を簡単に把握できます。

「従業員に安全運転教育をおこないたいけどよい方法がわからない」とお悩みの方は、JAF交通安全トレーニングの利用を検討してみてください。

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まとめ|煽り運転加害者にならないために

本記事では、煽り運転の厳罰化された罰則やリスクについて解説しました。

・先を急いでいる時、前者との車間距離を不必要に詰めていませんか?
・目の前に無理に割り込まれたことに腹を立て執拗なパッシングをしていないですか?

これを読んでいるあなた自身が加害者になり得る煽り運転。

煽り運転をおこなえば、その瞬間だけわずかな満足感が得られるかもしれませんが、代わりに失うものの大きさは甚大です。

その運転が、相手にとって危険を感じる運転となっていないか、自問自答を繰り返し、企業の看板を背負っている自覚を持って運転に臨むことが大切です。

リスクをしっかりと頭に入れ、日々の交通安全に活かしてみてください。

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JAF交通安全トレーニング

毎日の学習で交通安全意識の向上へ。通勤・通学・あらゆる事故を減らしたい。そんな想いからJAFが長年培ってきた交通安全のノウハウをeラーニング「JAF交通安全トレーニング」として教材化しました。
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オノデラマコト
1991年生まれ、東京生まれ東京育ち。グラフィックデザイナーとして就職するも、気づけば乗り物全般に濃く携わる編集者の道へ。出版社を渡り歩き、独立後は若年層向けの雑誌創刊や、メディアローンチを手がけるなど、特にZ世代への訴求方法を模索。交通安全普及を考える一方で、映像分野にも明るく、マルチなコンテンツクリエイターとしても活動している。