社用車を使う場合、交通事故のリスクについて知っておく必要があります。
とはいえ、社用車で物損事故を起こした際、企業や従業員が負う責任についてご存じでしょうか?
この記事では、社用車で物損事故を起こした場合に企業や従業員が負う責任や負担、日頃から交通安全意識を高めるコツを紹介します。
「社用車を使う場合のリスクを知っておきたい」「社内の交通安全意識を高めて事故を減らしたい」という方は、ぜひご一読ください。
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目次
物損事故とは
物損事故とは、事故によって車や建物などに損害が発生した事故のことです。
具体例は以下の通りです。
- 車の操作を誤ってガードレールにぶつかり、運転者や同乗者に怪我はなかったが、ガードレールを損傷させてしまった
- 車同士がぶつかり、運転者に怪我はなかったが、車に傷ができてしまった
物損事故の場合、加害者は事故によって破損してしまった物の修理費、または買い替え費用を、損害賠償金として支払わなければなりません。
ただし、物だけでなく人にも被害が生じている場合は、人身事故に該当します。
物損事故とは、自身が運転している車を含む「物」だけが被害を受けた交通事故と覚えておきましょう。
社用車の物損事故で企業が負う責任
社用車で物損事故を起こした場合、企業は「使用者責任」「運行供用者責任」という2つの責任を負います。
それぞれの責任ついて、詳しく解説します。
使用者責任
使用者責任とは、従業員が第三者に損害を与えた場合、従業員だけでなく事業者(使用者)も責任を負うという法律上の制度です。
使用者等の責任 第715条
引用元:民法(e-GOV 法令検索)
- ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
- 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
- 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
使用者責任で焦点となるのは「業務中に第三者に損害を与えたこと」です。
そのため、社用車での事故だけでなく、業務中にマイカーで事故を起こした場合も対象となります。
また、物損事故だけでなく、人身事故を起こした場合も対象となります。
運行供用者責任
運行供用者とは、車の所有者のことです。
交通事故を起こした場合、事故を起こした当人だけでなく、車の所有者にも責任が発生します。
自動車損害賠償責任 第3条
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない
引用元:自動車損害賠償保障法(e-GOV 法令検索)
運行供用者責任は、「会社が従業員に社用車を運転させることで利益を得ている」という考えに基づいています。
たとえ休日に無断で社用車を使用したとしても、運行供用者責任は発生する場合があります。
社用車の物損事故で従業員が負う責任
社用車の物損事故で従業員が負う責任は「不法行為による損害賠償」です。
不法行為による損害賠償 第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用元:民法(e-GOV 法令検索)
企業が責任を負うとはいえ、実際に運転していたのは従業員です。
そのため、道路交通法の罰則は従業員自身が負わなければなりません。
具体的には、以下のようになります。
- 企業が負う責任:民事上の賠償責任
- 従業員が負う責任:行政上の責任、刑事上の責任(危険運転)
社用車の物損事故で企業が負う責任は勤務中・勤務外で異なる
社用車で物損事故が発生した場合、企業が負う責任は、事故が勤務中に発生した場合と勤務外に発生した場合で異なります。
勤務中の事故の場合
従業員が勤務中に社用車で物損事故を起こした場合、企業には使用者責任と運行供用者責任が発生します。
「勤務中」には、営業などの外出で社用車を使用した場合だけでなく、通勤など、業務のために必要があって社用車を使用する場合も含まれます。
勤務外の事故の場合
従業員が業務外に社用車で物損事故を起こした場合、企業には運行供用者責任のみ生じます。
業務外であるとはいえ、社用車の運行供用者は企業であるため、業務外の物損事故でも企業に対して運行供用者責任が発生します。
社用車の物損事故による負担
続いて、社用車の物損事故による負担について解説します。
賠償責任
社用車で物損事故を起こした場合、賠償責任は車の所有者である企業と社用車を運転していた従業員の連帯責任となります。
両方に賠償責任が生じるため、被害者は企業と従業員のどちらにも賠償請求ができます。
とはいえ、支払い能力が高い方、つまり、企業への賠償請求が行われることがほとんどです。
企業は賠償金を支払った場合、その一部を従業員に請求できます。
この権利を「求償権」と呼びます。
一方で、従業員が賠償金を支払った場合でも、「逆求償」といって、一部を企業に請求できます。
従来であれば、逆求償は認められないと考えられていました。
しかし、2020年2月の最高裁で、逆求償を認める判決が下されたのです。
そのため、従業員が企業に対して逆求償できる場合があると考えておいた方が良いでしょう。
修理費
社用車の修理費は、企業が負担することがほとんどです。
労働基準法第16条で「従業員に対して事前に違約金や損害賠償を予定する契約をしてはいけない」と、定められているからです。
賠償予定の禁止 第16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する計画をしてはならない。
引用元:労働基準法(e-GOV 法令検索)
とはいえ、従業員に損害賠償を請求することや、修理費の負担を求めることを禁止しているわけではありません。
あくまで「契約書などで事前に決めてはならない」ということです。
例えば、
- 同じ従業員が何度も事故を起こして修理費が発生している
- 運転中にスマートフォンを使用して事故を起こした
- 無許可で社用車を使用して事故を起こした
といった場合は、修理費を請求できる可能性があります。
社用車の物損事故による負担に関する注意点
社用車の物損事故による損害を負担する場合、注意点を知っておかないと法律違反になる可能性があります。
ここからは、社用車の物損事故による負担に関する注意点を紹介します。
従業員に請求できる負担額は一部のみ
前述の通り、社用車で物損事故を起こした場合、企業と従業員の両方に責任があります。
そのため、賠償額や修理費の全額を従業員に請求することは難しいでしょう。
従業員に請求できる負担額は一部のみで、多くを企業が負担する必要があると考えておきましょう。
雇用契約書で賠償金・修理費の支払いを決めておくのは法律違反
前述した労働基準法第16条「賠償予定の禁止」にあるように、契約書などで事前に賠償金・修理費の支払いを決めておくのは法律違反に該当します。
ただし、賠償金・修理費を請求する「場合がある」という表現であれば、契約書などに明記できます。
就業規則に記載されていないペナルティを与えてはいけない
従業員が物損事故を起こした際、降格や減給といった処分を検討するかもしれません。
しかし、就業規則で処分をおこなう可能性が記載されていなければ、ペナルティを与えてはいけません。
また、就業規則に記載していても、降格や減給に関しては労働基準法でも決められています。
ペナルティを与える際は、就業規則や法律に違反していないか、しっかり確認しておきましょう。
修理費を給料から天引きすることは従業員の同意がないと法律違反
事故を起こした従業員に修理費の一部を求める場合、給料から天引きすることを検討するかもしれません。
しかし、給料からの天引きは、従業員の同意がない限り法律違反となります。
賃金の支払 第24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
引用元:労働基準法(e-GOV 法令検索)
この法律は、従業員の生活を守るためのものです。
従業員は、契約で決まった日に決まった金額が支払われることを見込んで生活しています。
しかし、突然支払いの予定が変わってしまうと、生活に大きな影響が生じます。
そのため、従業員の生活を守るために、労働基準法第24条で給料は全額支払わなければならないと決められているのです。
修理費に関して給料からの天引きを求める場合、必ず従業員の同意を得るようにしましょう。
従業員がマイカーで物損事故を起こした場合の企業の責任
実は、従業員が勤務中にマイカーで物損事故を起こしても、場合によっては企業に責任が発生することがあります。
勤務中と通勤途中の物損事故で企業が負う責任について解説します。
勤務中の事故の場合
勤務中に従業員がマイカーで事故を起こした場合、企業には次の2つの責任が生じます。
- 使用者責任:第三者に損害を与えているため
- 運行供用者責任:従業員の運転によって利益を得ているため
社用車で物損事故を起こした場合と同じですね。
もちろん、従業員自身にも責任が発生します。
通勤中の事故の場合
通勤途中の物損事故の場合、「業務との連続性」によって責任の所在が変わります。
例えば、普段と同じルートで通勤・退勤している際に物損事故を起こした場合、業務と連続性があると見なされ、企業には使用者責任と運行供用者責任が発生します。
一方で、通勤・退勤途中に普段のルートを外れて私用を済ませた場合は、業務との連続性がなくなるため、企業に責任が発生することはありません。
とはいえ、業務との連続性については、個別具体的な判断が問われます。
例えば、コンビニや銀行に寄った程度では、連続性が切れると見なされることはないでしょう。
しかし、退勤途中に家族と食事に行った場合、友人と買い物に行った場合などは業務との連続性がないため、企業に責任は発生しないと考えられます。
社用車での物損事故を防ぐための方法
社用車の物損事故を防ぐには、日頃からの意識付けや組織作りが大切です。
ここからは、社用車での物損事故を防ぐためのポイントを紹介します。
日頃から社内に安全運転意識を植え付けて、事故を防げるようにしましょう。
定期的な研修で交通安全への意識を高める
従業員によって、運転の頻度やレベルはさまざまでしょう。
プライベートでもよく運転する従業員もいれば、普段はほとんど運転しない従業員もいます。
とはいえ、交通事故のリスクは誰にでもあるものです。
そのため、定期的に従業員を対象とした交通安全研修を開催しましょう。
主な方法としては、自動車学校の企業向け講習に参加する方法があります。
最近では、交通安全について学べるeラーニングも登場しています。
- 時間や場所を問わず学習できる
- 講座の質が均一である
- 学習の進捗状況を一元管理できる
- 個々の傾向に合ったフィードバックができる
といったメリットがあるので、検討してみてはいかがでしょうか。
また、無事故の従業員を表彰する福利厚生を設けることも、交通安全の意識向上が期待できます。
社用車を使う際のルールを設ける
社用車を使う際のルールを、社用車使用規則や就業規則に盛り込みましょう。
- 業務時間外に社用車で事故を起こした場合の責任
- マイカーを社用車として使う場合のルール
などを決めておくと、事故防止に効果的です。
ただし、事故が起きた場合の負担金額を決めておくことは、労働基準法第16条「賠償予定の禁止」に違反するので注意してください。
ルールを決めるときは、企業と従業員の話し合いで負担内容を決める旨を明記しておくと良いでしょう。
社用車を初めて運転する従業員への教育を徹底する
新入社員や異動などで初めて社用車を運転することになった従業員には、教育を徹底しましょう。
必ず就業規則や社用車使用規則の内容を伝え、事故が起きた場合の対処フローを把握してもらいましょう。
従業員の体調管理をおこなう
従業員の体調管理も、事故防止に効果的です。
運転前に
- アルコール検査
- 健康状態の確認
- 睡眠状態の確認
などを行いましょう。
厚生労働省によると、睡眠時間が6時間未満の者は、追突事故や自損事故の頻度が高いことが報告されています。
そのため、社用車を運転する従業員が十分に睡眠をとれているか確認することは、事故防止に効果的といえます。
また、長時間労働が続いていないか、疲労が蓄積していないかを確認することも重要です。
参考:健康づくりのための睡眠指針2014 P22(厚生労働省健康局)
車両管理システムを導入する
車両管理システムを導入して、社用車の情報を一元管理する方法もあります。
従業員1人ひとりの運転を細かく把握できるようになり、データに基づいた適切な指導が可能に。
その結果、安全運転への意識向上が期待できます。
まとめ:日頃から交通安全への意識を高めよう
従業員が社用車で物損事故を起こした場合、企業には使用者責任と運行供用者責任が、事故を起こした従業員には不法行為による損害賠償責任が発生します。
交通事故は誰にでも起こり得るものですが、リスクはできるだけ減らしたいですよね。
そのため、日頃から交通安全への意識を高めることが重要です。
弊社では、JAFが長年培ってきた交通安全のノウハウをeラーニング「JAF交通安全トレーニング」として教材化しました。
短時間で学べるコンテンツが多く、毎日の学習によって交通安全意識を高められるように設計しています。
また、PCだけでなく、スマートフォンやタブレットでの受講もできます。
社内の交通安全意識の向上にお悩みの方は、ぜひご活用ください。
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