FCEV・FCVの強みとは?HVやEVとの構造と燃料の違いを理解しよう!

「ガソリン車」と「ディーゼル車」しかなかった時代は、いまや昔のこととして語られるようになりました。

世界初の電気とガソリンで走る「HV(HEV)」、いわゆるハイブリッド車が世に出回ったのが1997年と、かれこれ30年近く前のことになります。

それからさらに時代は流れ、100%電気で走る「EV(BEV)」の普及が進んだことで、電気自動車は一般に広く認知されるまでになりました。

現在は技術がさらに進歩し、「FCEV(FCV)」という次世代の自動車も販売されています。

この記事では、次世代の自動車であるFCEV(FCV)の強みと、HV・EVとの構造や燃料の違いについて解説していきます。

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FCEVとHV・EVの違いとは?|基本構造と仕組み

「FCEV(FCV)」は「燃料電池車」とも呼ばれ、水素を燃料とする電気自動車のことを指します。

ガソリンとモーターで走る「HV(HEV)」とは異なり、どちらかといえば充電した電気のみで走る「EV(BEV)」に似たタイプです。

この説明だけを聞くと、「水素をガソリンの代替燃料とするFCEV(FCV)はHV(HEV)なのでは?」「そもそも燃料電池ってなに?」など、さまざまな疑問点が浮かぶ人も多いと思います。

まずは、「FCEV(FCV)」「EV(BEV)」「HV(HEV」それぞれの構造と走行する仕組みについて詳しく解説していきます。

FCEV(FCV)とは?燃料電池車の基本

FCEV(Fuel Cell Electric Vehicle:燃料電池車・FCVと同義)とは、水素を燃料として発電し、電気でモーターを動かして走る自動車です。

ガソリン車やディーゼル車は燃料を燃やして走るため、排出されるガス中には地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)、大気を汚染する窒素酸化物(NOX)や粒子状物質(PM)が含まれています。

その点、FCEVから排出されるのは水(H2O)だけなので、環境に非常に優しく、まさに次世代のエコカーといえるでしょう。

従来の車が燃料を給油する際、ガソリンスタンドを利用するように、FCEVでは水素ステーションで燃料となる水素を補給します。

その水素はFCEVに搭載されている「高圧水素タンク」に蓄えられ、この水素と空気中の酸素を「燃料電池」と呼ばれる発電装置で化学反応させることで電気を発生させます。

発生した電気でモーターを駆動することで走行が可能となり、化学反応によって発生した水は車外に排出される仕組みです。

なお、FCEVは電気のみで走行するため、水素を燃料としていますがエンジンは存在しません。

【代表的なFCEV車種(記事執筆時点)】
・トヨタ「MIRAI(ミライ)」「CROWN(クラウン)セダン」
・ホンダ「CR-V e:FCEV」「CLARITY(クラリティ) FUEL CELL」
・ヒョンデ「NEXO(ネッソ)」

参考:燃料電池車とはどんなクルマですか? | JAF クルマ何でも質問箱

普及が進むEV(BEV)

EV(Electric Vehicle・BEVと同義)は、ガソリンや軽油といった化石燃料を使わず、100%電気で走行する自動車です。

EVはすべての電気自動車の総称としても扱われていることから、BEVのほか、ハイブリッド車や燃料電池自動車など、電気エネルギーを利用する車種が含まれる場合があります。

EV(BEV)は、バッテリーに蓄えた電力でモーターを駆動し、排気ガスを一切出さないため環境負荷が低く、FCEV(FCV)の源流です。

走行するための電力は、自宅(戸建て住宅)の壁面や駐車場などにコンセントやスタンド、V2H機器を設置したり、マンションなどの集合住宅内に設置された共用充電設備やカーディーラー・商業施設にある充電スタンドから給電するのが一般的です。

【代表的なEV(BEV)車種(記事執筆時点)】
・日産「サクラ」「リーフ」
・ホンダ「N-VAN e」
・テスラ「Model シリーズ」

知名度・利便性の高いHV|PHEVとHEVの違い

HV(Hybrid Vehicle・PHEV/HEVの総称)は「ハイブリッド車」と呼ばれ、各自動車メーカーのラインナップも豊富で、知名度がもっとも高いです。

「ハイブリッド」とは「組み合わせる」という意味があり、エンジンとモーターを搭載しているのが特徴です。

HVは総称で、「プラグインハイブリッド(PHEV)」という外部充電ができるタイプと、「ハイブリッド(HEV)」といって、外部充電ができないものの減速時のエネルギー回生によって発生した電気を充電するタイプが含まれています。

ガソリンエンジンをメインに走行するHEVに対し、ガソリンを給油する必要はあるものの、バッテリー容量が大きいので電気のみで走れる距離が長く、燃費が良いとされているのがPHEVです。

また両種の属するHVはFCEV(FCV)・EV(BEV)と異なり、電気のみで走行可能な距離が非常に短いものの、エンジンとモーターの特性を活かして、従来のガソリン車よりも燃費性能を向上させつつ排気ガスも削減可能なエコカーです。

【代表的なHV車種(記事執筆時点)】
・トヨタ「プリウス」
・日産「ノート e-POWER」
・三菱「アウトランダー PHEV」

FCEV・EV・HV特徴の比較

FCEV(FCV)・EV(BEV)・HV(PHEV/HEV)いずれも「電気自動車(EV)」という大きな括りでは共通していますが、それぞれ異なった特徴があります。

ここでは仕組みと構造、そしてメリット・デメリットを比較して解説していきます。

仕組みと構造

  • FCEV(FCV)
    ・水素タンクに蓄えた水素と空気中の酸素を化学反応させ、電気を発生させる
    ・発生した電気でモーターを駆動させ走行し、反応の副産物として水だけを放出する
  • EV(BEV)
    ・給電設備を利用してバッテリーを充電する
    ・その電気を使用してモーターで駆動し、排出ガスは発生しない
  • HV(HEV・PHEV)
    ・ガソリンスタンドで燃料を給油する(PHEVはさらに給電設備による充電も必要)
    ・走行状況に応じてエンジンとモーターを切り替え、減速時はモーターで発電してバッテリーを充電する(回生ブレーキ)

メリットとデメリット

メリットデメリット
FCEV(FCV)・CO2排出ゼロ(水のみ)
・燃料充填が早い(3~5分)
・長距離走行が可能
・走行音が静か
・水素ステーションが少ない
・車両価格が高い
(量産していないため)
・水素の製造
・運輸コストが高い
EV(BEV)・CO2排出ゼロ
・維持費が安い
(燃料・オイル代不要)
・静粛性が高い
・充電時間が長い(30分前後)
・航続距離が短いものもある
HV(HEV・PHEV)・ガソリンスタンドで燃料補給ができる
・同型ガソリン車に比べて燃費が良い
・同型ガソリン車と比べて車両価格が高い

水素を使った未来の技術

前項でFCEV(FCV)の特徴を簡単に解説しましたが、ここでは水素について深く掘り下げていきましょう。

水素とは?

宇宙で最初に生まれた元素として、元素記号の中でも一番目に列挙される「水素(H)」。

名前は耳にする機会が多いものの、その性質についてはあまりよく知られていないかもしれません。

水素は全元素の中で最も軽く、空気の約1/14の重さを持っています。

温度が約20℃、圧力がほぼ1気圧といった常温常圧の環境下において、無色・無臭・無味の気体で、非常に燃えやすく空気中で点火すると青白い炎を上げて燃焼します。

単位質量あたりのエネルギーが高い性質から、FCEVの燃料など次世代のクリーンなエネルギー源として注目されています。

次世代エネルギー「水素」のつくり方

水素の製造は大きく3つのタイプに分かれます。

化石燃料をベースとしてつくる「グレー水素」、グレー水素の製造工程で排出されたCO2を回収したり貯留したりして再利用する「ブルー水素」、そして再生可能エネルギー(再エネ)などを使って製造工程でCO2を排出しない「グリーン水素」です。

それぞれのつくり方としては、グレー水素、ブルー水素がガスから水素をつくる「改質法」、グリーン水素は水からつくる「電解法」が用いられます。

改質法は、化石燃料を燃焼させてガスにし、そのガスの中から水素を取り出す製造方法ですが、この方法はすでに確立されており、原材料の低コスト化が実現できれば、水素燃料の普及拡大や、供給安定に役立つとされています。

ちなみに、都市ガスなどから自宅で電気やお湯を同時につくる「エネファーム(家庭用燃料電池コージェネレーションシステム)」は、この技術を応用した家庭用燃料電池です。

一方、電解法は水を電気で分解して水素を製造する方法で、原理は理科の実験などで一般の方にも馴染みのある水上置換法に近い製法です。

電解法は、改質法と比べてCO2を排出しないエコな製造方法ですが、水を電気分解するには大規模な電力が必要となるため、再エネ由来の太陽光発電や風力発電などから、できる限り安価な電力を使用するなど、コストをいかに抑えるかが課題とされています。

出典:次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?|資源エネルギー庁

水素ステーションの仕組み

ガソリン車がガソリンスタンドで給油するように、FCEVは水素ステーションで水素を補充する必要があります。

水素ステーションは大きく分けて3タイプあり、ステーション内で水素を製造する「オンサイト型」、ガソリンスタンドのようにタンクローリーで水素を運搬する「オフサイト型」、複数の場所で運営可能な「移動式」があり、多くの水素ステーションはオフサイト型を採用しています。

以下は、水素ステーションの基本的な構成要素です。

構成要素役割
水素製造装置(オンサイトの場合)・水素を製造する
・多くは都市ガスやLPGを水蒸気改質するが、再生可能エネルギーの電力を利用して水を分解し、水素を製造している例もある
圧縮機(コンプレッサー)・水素を車載タンクに充填するために80MPa(≒800気圧)程度まで昇圧させる
蓄圧機(高圧タンク)・圧縮された水素を一時的に貯めるタンク
プレクーラー・急速充填時の発熱を抑えるため、水素を-40℃まで冷却する
ディスペンサー・水素をFCEVに充填し、その量を計測する
・充填のためのノズルがあり、安全のため水素の充填が終わり減圧されるまで外れない仕組みになっている

水素ステーションでの、FCEVへの水素充填は以下のような流れでおこなわれます。

  1. FCEVが水素ステーションのディスペンサーに到着
  2. ノズルを接続して水素を充填
  3. 圧縮機で高圧の水素を送り込む
  4. 約3~5分で充填完了
  5. 自動停止後ノズルを外して終了

まとめ:FCEVが水素エネルギー社会のきっかけに

本記事では、FCEVの強み、そしてHV・EVとの構造や燃料の違いを解説しました。

電気自動車は、ガソリンとモーターで駆動する「HV(HEV)」からはじまり、100%電気で走行する「EV(BEV)」も次いで普及しました。

現在では、次世代エネルギーの水素を活用した「FCEV(FCV)」が広まりつつあり、排出されるのは水だけという特性から、CO2を一切出さない「究極のエコカー」として注目されています。

ただ残念ながら、車両価格が高いことなどを理由に買い控えられ、補助金や助成金が組まれているにも関わらず、普及が十分に進んでいるとはいえないのが現状です。

さらに水素ステーションの数もまだ十分ではなく、利便性が低いことも課題として挙げられています。

しかし、FCEVが抱える課題は多いものの、FCEV市場や水素社会の展望には明るい兆しも見えています。

2021年に、東京オリンピック・パラリンピックの公式輸送手段として、水素バスが採用されて以降、その運用が日本全国に広まりつつあることです。

また、日本をはじめ、各国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、水素エネルギーの活用は重要な柱となっており、自動車産業に限らず、家庭・建物・航空・船舶といった業界にも水素活用の動きがあります。

FCEVは、インフラ・技術・コストの壁を乗り越えようとする過渡期にあり、今後、エネルギー多様化と脱炭素の時代の中で、その存在感が増していくのではないでしょうか。

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イイダユウジ
高校在学時、アルバイトでこつこつ貯めた資金で「S13シルビア」を愛車に迎えたのを機に、車に目覚める。進学先で自動車整備を学び「国家1級整備士」資格を取得。卒業後はカーディーラーに就職し、車の基礎と社会の厳しさを叩き込まれる。現在は、個人で中古車販売・整備を主に手掛ける一方で、その経験・知識を最大限活かし、交通安全普及のための広報活動に勤しむ。整備士の目線で独自の切り口を模索するなど、幅広く活動している。