昨今、あらゆる業界で2030年問題が話題になっています。
2030年問題とは、労働人口の減少や生産性の低下など、少子高齢化によって生じるさまざまな問題の総称であり、経済にも打撃を与える可能性があるものです。
2030年問題がもたらす影響は深刻であり、企業は今からでも乗り越えるための取り組みを検討しなくてはなりません。
しかし、自社の業界で起こる2030年問題の概要や、発生する原因を理解していなければ、適切な対応は難しいでしょう。
本記事では、物流業界における2030年問題について、発生する原因や乗り越えるための取り組みについて解説します。
目次
そもそも2030年問題とは?
まずは、2030年問題についておさらいしましょう。
2030年問題とは、昨今の少子高齢化によって、2030年に表面化する可能性が高い問題を総称した用語です。
現在、日本は少子高齢化によって労働人口が減少の一途を辿っています。
一方で高齢者の割合は年々増加しており、2030年には高齢者が日本の総人口の約3分の1に達すると見込まれています。
労働人口の減少は、人件費の高騰・人材獲得競争の激化をもたらすなど、企業や経済に多大な影響を及ぼすものです。
また、総人口減少による、企業の生産性の低下・市場の縮小なども、企業にとって無視できません。
2030年問題は、企業を存続させる上で、いずれ向き合わなければならないものです。
そのため、あらゆる業界で2030年問題の対策が検討されています。
【基礎知識】物流業界における2030年問題とは?
ここでは、物流業界における2030年問題について解説します。
物流業界は現在でもさまざまな課題を抱えていますが、2030年問題に直結しているものもあります。
有効な対策を講じるためにも、物流業界における2030年問題について、あらためて確認しましょう。
2030年問題の深刻さ
物流業界における2030年問題において、最も深刻な問題は輸送能力の不足です。
2022年に開催された「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2030年にはドライバーの不足により、物流業界の輸送能力が19.5%も不足すると推定されました。
以下の表を見てみましょう。
出典:持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ |国土交通省
表にあるとおり、現在でも不足している輸送能力が、2030年度にはより不足していくことがわかります。
現状のままだと、需要に対して十分な供給ができない状況が続くでしょう。
運送は社会に不可欠なインフラであり、輸送力が低下すれば、それだけ経済に悪影響を及ぼします。
そのため、官民問わず、物流業界の2030年問題に向けて対策を講じなければなりません。
2024年問題との関係性
2030年問題は、物流業界における2024年問題と密接に関係しています。
元々物流業界は人手不足が深刻化しており、特に若いドライバーが不足しています。
その結果、物流業界はドライバーの長時間労働によって輸送力を維持する傾向がありました。
しかし、働き方改革の推進により、物流業界は大幅な時間外労働への対策を求められるようになりました。
2024年から施行される時間外労働の上限規制により、ドライバーの長時間労働に対する制限はますます強化されています。
時間外労働の上限規制は、ドライバーの労働環境を改善できる一方で、輸送力をより低下させるリスクが懸念されます。
2024年問題に対し、有効な手立てがない状況が続けば、より深刻な2030年問題を招くことになるでしょう。
物流業界における2030年問題の原因
物流業界における2030年問題には、さまざまな原因がありますが、いずれも2024年問題と共通しています。
いずれの原因も、昨今の物流業界における課題と関連しているため、企業は適切に対応しなければなりません。
ここでは、それぞれの原因について解説します。
ドライバー不足による物流コストインフレ
2010年以降、日本では物流コストインフレが顕著になりました。
宅配便をはじめとする道路貨物輸送サービス価格は高騰の一途を辿っており、2010年後半にはバブル期の水準を超えた過去最高額を記録し、現在も高い水準で推移しています。
物流コストインフレの原因は、ECサイトの台頭や、多品種・小ロット輸送によるトラックの積載率低下・燃料費の高騰などが挙げられます。
なかでも、2024年問題に代表されるドライバー不足の影響は深刻です。
特に中距離・長距離ドライバーは、若手の担い手が少なく、解消の目途は立っていません。
ドライバー不足は人件費の高騰を招き、物流コストインフレに拍車をかける重大な原因です。
2024年以降は時間外割増賃金の引き上げもあり、物流コストインフレの増大は、より深刻化すると推定されています。
ドライバーの長時間労働
物流業界の2030年問題は、ドライバーの長時間労働も主要な原因です。
以前より物流業界では、ドライバーの労働時間の長期化が問題とされていました。
以下のグラフを見てみましょう。
参照:【資料1】 国土交通省提出資料トラック運送事業の働き方をめぐる現状|国土交通省
グラフのとおり、全産業の平均と比較すると、大型トラック・中小型トラックドライバーの労働時間は約2割長いことがわかります。
近年は働き方改革の影響もあり、長時間に及ぶ時間外労働は徐々に減少しつつあります。
しかし、人手不足による各ドライバーの負担増加もあり、物流業界全体での抜本的な解決はまだ実現していません。
人手不足を見据えた有効的な対策を講じない限り、労働環境のさらなる改善は難しいでしょう。
脱炭素による業界への制約
物流業界の2030年問題は、環境問題に対する取り組みの影響を受けている一面もあります。
近年は、地球温暖化対策のために脱炭素に向けた取り組みが世界中で実践されています。
この傾向は、日本においても例外ではありません。
物流業界においても、次世代型自動車の配備・脱炭素輸送の効率化・物流DXによるサプライチェーンの推進など、脱炭素を実現する取り組みが求められるようになりました。
物流業界の2030年問題を乗り越える取り組み
物流業界の2030年問題を乗り越えるために、昨今では官民一体となって、さまざまな取り組みが検討されています。
昨今は技術の発展もあり、物流業界のさまざまな課題に対応できる施策が考案されるようになりました。
それぞれの取り組みがどのようなものか解説します。
物流DXによるSCMの構築
DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略であり、デジタル技術によって業務の効率化や生産性の向上を目指す取り組みを意味します。
一方のSCMとは「サプライチェーンマネジメント」の略称であり、企業の一連の業務を一貫した戦略によって管理し、プロセスを最適化する取り組みです。
物流DXによるSCMの構築は、製造・在庫管理・流通・販売など、さまざまなプロセスをデジタル化によって一括管理できる体制を実現します。
すべてのプロセスを効率的に運用できれば、リードタイムの短縮や人件費の削減などにより、物流コストの抑制が可能です。
また、各プロセスの情報共有が円滑化するため、業務中に発生した不測の事態にも対応しやすくなります。
共同配送等を活用した物流改革
より効率的な輸送を実現するなら、共同配送等を活用した物流改革も有効な取り組みです。
近年は、複数の企業や事業者が連携する共同配送や、配送センターの自動化など、さまざまな施策による物流改革が実践されています。
特に共同配送は、人手不足の解消・リードタイムの短縮・長時間労働の改善などの効果を得られる施策です。
また、複数の企業の商品をまとめて配送することにより、車両台数を減らせるため、CO2の削減にもつなげられます。
2030年問題を乗り越える上で、複数の企業による連携は、互いのノウハウを活用できる有効な手段です。
積極的に実践すれば、物流業界の課題を解決するきっかけを得られるでしょう。
IT技術の導入による労働環境の改善
IT技術の導入による労働環境の改善も有効な施策です。
昨今は、さまざまな業界でIT技術を積極的に導入し、業務の効率化や作業負担の軽減を実現したケースが増加しています。
物流業界も例外ではなく、IT技術によって煩雑な作業を効率化したり、発注や検品を自動化することで作業時間を短縮したりした事例があります。
また、IT化によって適切な勤怠管理を実現すれば、ドライバーの勤怠状況を把握しやすくなり、過度な時間外労働の抑制が可能です。
過剰な業務負担や、時間外労働の削減を実現すれば、ドライバーが定着しやすくなります。
加えて、新たな人材を採用する際にも、応募を集めやすくなるでしょう。
まとめ:2030年問題の解決が物流業界の重要な課題
物流業界の2030年問題は、ドライバー不足や脱炭素実現に向けた取り組みなどによって、業界全体の輸送能力が不足する事態を指すものです。
2030年問題を乗り越えるには、物流業界にあるさまざまな問題に目を向けなければなりません。
昨今では、DXによるSCMの構築や、共同配送等の施策による物流改革など、2030年問題を乗り越えるさまざまな取り組みが実践されています。
いずれの取り組みもコストの削減や生産性の向上につながるものであり、実現できればさまざまな恩恵をもたらします。
2030年問題を乗り越える取り組みは、物流業界はもちろん、自社の課題を解決する上でも有効です。
企業を成長させるきっかけを掴むためにも、物流業界の2030年問題と向き合っていきましょう。