安全運転管理者の義務化とは?業務内容や選任義務違反のリスクを解説

安全運転管理者とは、安全運転に必要な取り組みを実践するために、企業で選任される重要な役割です。

近年では道路交通法改正によって選任義務違反の罰則が強化されるなど、安全運転管理者の重要性はますます高まっています。

本記事では安全運転管理者が義務化された背景に加え、業務内容や選任義務違反時のリスクなどについて解説します。

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安全運転管理者とは?

まずは安全運転管理者についておさらいしましょう。

安全運転管理者は従業員が交通ルールを順守し、安全運転を実行する上で欠かせない役割です。

本章では安全運転管理者の概要だけでなく、業務内容について解説します。

安全運転管理者の選任基準

以下にあてはまる事業所は安全運転管理者を選任する義務があります。

  • 乗車定員数が11人以上の自動車を1台以上使用している場合
  • その他の自動車を5台以上使用している場合

参照元:道路交通法施行規則第九条の八

加えて、自動車の使用台数に応じて、企業は以下のように副安全運転管理者も選任しなければなりません。

  • 自動車の使用数が20台以上40台未満……副安全運転管理者を1人選任
  • 自動車の使用数が40台以上……20台ごとに1人の副安全運転管理者を1人選任

参照元:道路交通法施行規則第九条の十一

ただし、運行管理者を置く必要のある貨物自動車運送事業者や、旅客自動車運送事業者の事業所は例外です。

対象車両の数え方

安全運転管理者の選任義務は、以下のような車両を使用している事業所に課せられます。

  • 乗車定員数が11人以上の自動車(マイクロバス等)
  • その他自動車(自家用自動車・トラックなど)
  • 大型二輪車や普通自動二輪車(50CC未満の一種原付は含まない)

参照元:道路交通法施行規則第九条の九

以上のような車両を有している事業所は、台数に応じて安全運転管理者あるいは副安全運転管理者を選任しなければなりません。

なお、リース・レンタル・カーシェアなどで車両を使用している場合も該当します。

ただし、従業員が通勤のみで使用するマイカーはカウントされません。

なお、車両の台数の数え方はやや特殊であり、注意が必要です。

車種に関わらず、自動車は1台ずつカウントしますが、大型二輪車・普通自動二輪者は1台につき0.5台でカウントします。

安全運転管理者の業務内容

安全運転管理者とは、安全運転を実践するために必要な業務を遂行することが役割です。

安全運転管理者の業務内容は大きく分けると以下の9つです。

業務業務内容
ドライバーの状況把握ドライバーの適性・技能・知識などを把握する
安全運転確保のための運行計画の作成安全運転の確保に留意して運行計画を作成する
長距離、夜間運転時の交代要員の配置長距離運転・夜間運転などに備え、必要な交代要員を配置する
異常気象時等の安全確保の措置異常気象や天災などが発生した際、ドライバーに必要な指示を出し、安全運転を確保するための措置を実施する
点呼等による過労、病気その他正常な運転ができないおそれの有無の確認と必要な指示点呼や日常点検整備を通じ、安全運転に必要な指示出しや、正常な運転を阻害する要素の有無を確認する
アルコール検知器を使った酒気帯び確認運転前後のドライバーに、目視やアルコール検知器を使って酒気帯びを確認する
酒気帯び確認後の記録と保存、アルコール検知器の常時有効保持アルコール検知器の常時有効状態を保持し、酒気帯びの確認をした際の記録を1年間保存する
運転日誌の備え付けと記録ドライバー名や運転開始・終了日時などを記録した運転日誌を導入し、ドライバーに記録させる
ドライバーに対する安全運転指導安全運転に必要な知識や技術の指導をおこなう
参照元:道路交通法施行規則第九条の十安全運転管理者の業務の拡充等 警察庁

いずれの業務も、安全運転の確保に不可欠なものです。

これらの業務を通じ、危険運転の防止や交通安全意識の向上を実現することが、安全運転管理者の職務です。

そのため、安全運転管理者は、すべての業務を不備なく実行するよう努めなければなりません。

なお、副安全運転管理者の業務は、安全運転管理者の補助です。

安全運転管理者の義務化とは?

安全運転管理者の選任義務について定めている安全運転管理者制度は、1965年6月に道路交通法一部改正によって制度化されました。

日ごろから業務で自動車を利用している企業にとって、従業員の交通事故や危険運転のリスクは避けなければならないものです。

しかし、事業主だけでは、従業員全員の運転状況の把握や管理は難しいでしょう。

そのため、従業員の安全運転を監督し、危険運転の防止に必要な業務を実施する安全運転管理者が選任されるようになりました。

加えて、事業所が使用する自動車の台数が多い場合、台数に応じた人数の副安全管理者の選任も義務化されています。

2022年の道路交通法改正では、安全運転管理者の選任義務違反(安全運転管理者の選任・解任・届出の未提出)に対する罰則が強化されています。

昨今は飲酒運転等の危険運転の社会問題化もあり、道路交通法改正により、安全運転管理者の業務はより拡充されました。

今後も、安全運転管理者の重要性はますます高まっていくでしょう。

安全運転管理者の選任義務違反のリスク

2022年より安全運転管理者の選任義務違反に対する罰則が強化されましたが、そこには危険運転に対する社会的な危機感が影響しています。

本章では罰則が強化された背景や、選任義務違反の罰則について解説します。

選任義務違反で企業に降りかかるリスクを回避する上でも、必ず確認しましょう。

選任義務違反の罰則

安全運転管理者の選任義務に違反した場合、以下のような罰則が科せられます。

  • 安全運転管理者および副安全運転管理者が未選任……50万円以下の罰金
  • 安全運転管理者の解任や是正措置命令に従わなかった場合……50万円以下の罰金
  • 選任や解任の届出を15日以内に実施していなかった場合……5万円以下の罰金

参照元:道路交通法第百十九条の二

改正前は未選任に対する罰金が5万円、届出をしなかった場合の罰金が2万円だったことを踏まえると、かなり罰則が強化されているとわかります。

また、企業にとって選任義務違反のリスクは罰金だけではありません。

もし従業員が危険運転による事故や交通規則違反を起こした場合、企業の社会的な信用は失墜し、事業の継続が困難になる可能性があります。

企業が社会的信用を守り、事業を安定して継続していく上でも、安全運転管理者の選任義務は順守しなければなりません。

罰則が強化された背景

選任義務違反への罰則が強化された背景には、千葉県八街市で起こった飲酒運転事故があります。

2021年6月28日、八街市でトラックが下校中の小学生の列に突っ込み、2人が死亡、3人が重傷を負う事故が発生しました。

事故を起こしたドライバーは飲酒しており、アルコールの影響で居眠り運転をしていたことが判明しました。

さらに、当時問題となったことが、ドライバーだけでなく、ドライバーを雇用していた企業の管理体制です。

ドライバーは日ごろから勤務中の飲酒を繰り返すなど、安全運転への意識が欠如していました。

しかし、事故を起こしたドライバーが従事していた企業は、ドライバーに注意するだけで、運転前にアルコールチェックをおこなうなどの対策をしていませんでした。

加えて、当該企業は2014年2月から事故当日まで、安全運転管理者を選任しておらず、不在の状況を放置していました。

つまり、危険運転が発生するリスクがあったにも関わらず、企業は交通事故防止に必要な管理や安全運転管理者を選任するという義務を怠っていたわけです。

八街市での事故をきっかけに、国は道路交通法改正に踏み切りました。

それにより、選任義務違反の罰則が強化され、安全運転管理者の業務にアルコールチェック等が追加されました。

安全運転管理者を選任する方法

本章では、安全運転管理者を選任する方法を解説します。

安全運転管理者の選任は、法的な要件をクリアしなければならない上に、対象車両や台数を把握する方法・届出の手順を把握しなければなりません。

安全運転管理者の資格要件

安全運転管理者及び、副安全運転管理者の資格要件は以下のように定められています。

安全運転管理者・20歳以上(副安全運転管理者を選任するなら30歳以上)
・2年以上運転管理の実務経験がある者、自動車運転管理に関してこれらの者と同等以上の能力があると公安委員会が認定した者のいずれか
・過去2年以内に公安委員会より解任命令を受けたことがない
・過去2年以内に一定の違反行為をしたことがない
副安全運転管理者・20歳以上
・1年以上の運転管理の実務経験あるいは3年以上の運転経験がある者、自動車運転管理に関してこれらの者と同等以上の能力があると公安委員会が認定した者のいずれか
・過去2年以内に公安委員会より解任命令を受けたことがない
・過去2年以内に一定の違反行為をしたことがない
引用元:道路交通法施行規則第九条の九

安全運転管理者は、運転管理の実務経験が2年以上ある従業員しか選任できません。

しかし、公安委員会が2年以上の実務経験と同等の能力があると判断した場合は、安全運転管理者として選任されます。

なお、「一定の違反行為」には、飲酒運転・無免許運転・スピード違反などの危険運転や交通ルール違反が含まれます。

また、酒気帯び運転の車両に同乗したり、運転すると知りながらドライバーに酒類を提供したりする行為も、一定の違反行為に含まれています。

業務中はもちろん、プライベートでの違反や行為も対象となるため、安全運転管理者を選任する際は注意しましょう。

届出手続の流れ

安全運転管理者や副安全運転管理者を選任した際、速やかに公安委員会へ届出をしなければなりません。

届出の際に必要な書類は以下のとおりです。

  • 届出書(安全(副安全)運転管理者に関する届出書)
  • 戸籍抄本または本籍の記載のある住民票の写し
  • 運転免許証の写し
  • 運転記録証明書(3年間もしくは5年間のもの)

参照元:安全運転管理者等法定講習|警視庁

ただし、警察署によって必要書類が微妙に異なる場合がある点には注意しましょう。

提出する際は、事業所がある都道府県の警察署のWebサイトを確認してください。

なお、安全運転管理者・副安全運転管理者を選任した際の届出書は、規定の様式のものでなければなりません。

申請に必要な書類一式は、警視庁のサイトからダウンロードが可能です。

届出に必要な書類が揃ったら、所轄の警察署にある交通安全課の窓口に提出するか、警察行政手続サイトからオンラインで申請しましょう。

なお、特定の状況に該当する際は以下の書類が追加で必要です。

  • 居住証明書(やむを得ない場合で免許証と住所が異なる場合)
  • 勤務証明書(通勤圏外を除く、事業所の所在地から離れた場所に居住し、そこから通勤している場合)

参照元:安全運転管理者等法定講習|警視庁

安全運転管理者を解任・変更する際は、以下のように対応しましょう。

解任届出書を提出
変更届出書を提出
※事業所の本拠が移転する場合は移転先に変更届を提出
※本拠が他府県に移転する場合は解任届出をした後に、移転先の公安委員会に選任届を提出
参照元:安全運転管理者|警視庁

また、企業に関して以下のような変更があった際は、記載事項変更届を提出する必要があります。

  • 企業・事業所の名義の変更
  • 移転による自動車を利用する本拠の変更
  • 業種の変更
  • 使用する台数に増減が発生したとき
  • 提出した届出の記載内容の変更

参照元:安全運転管理者|警視庁

安全運転管理者選任後の注意点

安全運転管理者を選任しただけでは、企業の安全運転に対する取り組みが十分であるとはいえません。

ドライバーへ定期的な教育の実施や事故発生時の適切な対応など、継続的な取り組みが重要です。

安全運転管理者が変更になった場合の手続きや安全運転管理者自身が受けなければならない法定講習、ドライバーへの指導など、選任後にもさまざまな注意点があります。

具体的にどのようなものがあるか、改めて確認しておきましょう。

安全運転管理者を変更・解任した場合

安全運転管理者が解任・交代する場合、変更が生じた日から15日以内に管轄の公安委員会に届出をしなければなりません。

この手続きを怠ると、道路交通法違反として5万円以下のペナルティが科せられます。

一般的な手続きは『前任者解任→後任者選任→公安委員会へ届出』といった流れでおこなわれており、書類の提出方法は『窓口へ提出』『郵送』『オンライン申請』の3つです。

具体的な手続きは、管轄する警察署によって異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。

企業・事業者に関する情報の記載事項が変更された場合

事業に関する情報に変更が生じた際は、変更届の手続きが必要です。

具体的には社名や所在地の変更、安全運転管理者に関する情報、社用車やドライバー数の増減などが該当します。

これらに変更があった場合は、所定の書類をそろえて15日以内に管轄の警察署へ提出しましょう。

届出を怠ると法令違反とみなされ、ペナルティを科せられる恐れもあるため、注意が必要です。

安全運転管理者の法定講習受講

安全運転管理者には、毎年1回の法定講習の受講が義務付けられています。

法定講習は、道路交通法に基づいておこなわれ、自動車の安全運転に関する知識やスキルを習得し、事故防止に努めるために実施するものです。

講習では道路交通法をはじめとする関連法規や交通事故状況、安全運転のための具体的な方法など、幅広い内容が学べます。

開催日時や場所は各都道府県によって異なり、都合が合わない場合は、事前に連絡することでほかの会場での受講も可能です。

ただし、代理受講や途中退席は認められていないため、必ず安全運転管理者自身で参加するようにしましょう。

近年では、オンラインで講習が実施されるケースも増えています。

各都道府県警察のホームページなどで最新の情報を確認し、受講方法を選択しましょう。

ドライバーへの安全運転指導

安全運転管理者はドライバーに対し、法令を守ることや安全運転に必要な知識・技能を習得させ、安全意識を高めるための指導監督を実施することが義務付けられています。

関係法令に基づき運転者が遵守すべき事項に関する知識のほか、運行の安全を確保するために必要な運転に関する技能及び知識を習得することを目的とし、運行管理者は、運転者に対する適切な指導及び監督を行わなければいけません。

引用元:国土交通省-運転者に対する指導監督の概要

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まとめ:安全運転管理者の義務化に対応して安全運転に努めよう

2022年の道路交通法改正により、安全運転管理者の選任義務が強化され、違反時の罰則が強化されました。

その背景には2021年に八街市で起こった痛ましい飲酒運転事故が影響しています。

この事故は、ドライバーの飲酒だけでなく、安全運転管理者の選任すらしていなかった企業の管理不足も原因のひとつでした。

企業にとって、危険運転や交通規則違反による交通事故の発生は、怪我や死亡という最悪の事態はもとより、企業の信用損失を招く重大なリスクです。

リスクを回避するためにも、企業は安全運転管理者に係る法規定を学び、適切に対処しなければなりません。

本記事を参考に、従業員が安全運転を実行できる体制作りを実践しましょう。

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