「タイヤ」は車と道路をつなぐ唯一の部品です。
車には「走る」「曲がる」「止まる」という、大きく分けて3つの要素があります。タイヤは、この3つの要素すべてに関係しています。
たとえ、エンジンやブレーキがどれほど高性能でも、タイヤが正常に機能しなければ意味がありません。
車を運転する上で、「安全を守る」ことは、全てのドライバーにとって永遠の課題です。とくに、運転する頻度が多い社用車は、走行距離も長くなる傾向にあり、事故や故障のリスクが高くなります。
雨の日に運転していて、交差点を曲がった拍子にタイヤがスリップ…なんてことは絶対に避けたいですよね。そうならないためにも、日常的にタイヤの点検を行うことが大切になります。
本記事では、日常的なタイヤの点検方法について詳しく解説していきます。
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目次
タイヤ点検の重要性
タイヤは、車と道路の唯一の接点であるため、その状態が適切であるかは、事故や故障などのトラブル発生に大きく影響します。
タイヤの状態が適切でないと、ブレーキ時に制動距離が延びて思うように減速できなかったり、カーブでスリップしてしまうなど、車の制御が難しくなることで危険が増します。
とくに、高速道路や雨天時の走行では、致命的な事態にも繋がりかねないので、安全運転のためにはタイヤの点検は日常的に欠かせない作業のひとつです。
タイヤの摩耗と劣化の影響
タイヤの主成分はゴムであり、そのゴムと路面の摩擦抵抗で走行します。
そのため、路面に比べてやわらかいゴムは少しずつ減り、いずれ限界を迎えれば穴が開きます。
また、タイヤは使用していなくても、紫外線などでゴムが劣化してひび割れが起きます。
タイヤの点検がもたらす安心感
タイヤの点検をすることで、ドライバーは安心感を得ることができます。その理由のひとつに「事故予防」があります。
タイヤの正常な機能を維持することは、運転の安全性を確保することにつながるからです。
予期せぬトラブルを回避することで、経済的、また精神的な負担を軽減できるメリットもあります。
タイヤの空気圧チェックと調整方法
タイヤの点検方法のなかでも、「空気圧チェック」は基本中の基本です。
JATMA(日本自動車タイヤ協会)の調査によると、2024年4月4日~18日にかけて全国6か所で実施したタイヤ点検で、タイヤの整備不良が確認できた車両のうち、「空気圧不足」が圧倒的1位という結果でした。
それだけ、空気圧の管理を軽視しているドライバーが多い状況です。
ここでは、空気圧不足によるタイヤへの影響と、空気圧チェック・調整方法を解説します。
出典:タイヤ点検 | 安全・技術・規格 | 一般社団法人 日本自動車タイヤ協会 JATMA
空気圧がタイヤに与える影響
タイヤの空気圧は、車種ごとに規定圧が決められています。
空気圧が低すぎると、タイヤと路面の抵抗が増加し燃費が悪化します。また、ハンドル操作の反応も鈍くなり、車線変更や旋回時の操作が不安定になります。
とくに、高速走行時にタイヤが波状に変形する「スタンディングウェーブ現象」が起こりやすく、変形によってタイヤが過剰に発熱し、最終的にタイヤが破裂(バースト)します。
一方で、空気圧が高い分には問題なさそうに思えますが、それは間違いです。空気圧が高すぎると、路面との接地面積が減少し、タイヤの中央部に摩耗が集中してしまいます。その結果、中央部の摩耗が早くなり、タイヤの寿命を縮めることに繋がります。
さらに、空気が過充填されたタイヤは非常に硬くなり、走行中の段差による衝撃が車内に伝わりやすくなります。これにより、乗り心地が悪化し、疲労感が増加します。
空気圧チェックの方法
空気圧を確認するための手順を説明していきます。
まず、車の規定空気圧を確認します。
取扱説明書を見るか、運転席のドア内側付近、または給油口裏側などに貼られている「空気圧表示シール」で規定量を確認しましょう
つぎに、「エアゲージ」を使用し、現在の空気圧を確認し、過不足があれば充填・減圧を行います。
点検するタイヤのエアバルブキャップを外したら、エアバルブにエアゲージを接続します。圧力計の針が示す数値(現在の空気圧)が規定空気圧に足りないようであれば充填、多いようであれば減圧して調整します。
エアーコンプレッサーを持っていない場合は、一般的にガソリンスタンドやカー用品店で無料貸し出しを行っていることが多いです。セルフ用としての貸し出しが多く、充填作業は自分で行わなければなりませんが、機器の操作方法がわからない場合は店員に声かけをして利用するのがよいでしょう。
タイヤの交換時期の目安
こまめにタイヤの空気圧を点検していても、徐々にタイヤはすり減るため性能は低下していきます。いずれは交換しなくてはいけません。
安心して運転するためには、タイヤ交換時期の目安を見極めることが必要です。
タイヤの摩耗
タイヤの使用限度は残り溝1.6mm以上と定められていて、それ以前にタイヤを交換する必要があります。そこに至るまでの走行距離は、3万km~5万kmが一般的と言われています。
タイヤは走行することで溝が減ります。溝が少なくなると、濡れた路面を高速走行した際、タイヤと路面の間に水膜が発生しやすくなります。
これにより、ハンドルやブレーキが効かなくなる「ハイドロプレーニング現象」が起こりやすくなり大変危険です。
この残り溝を知るためには、「スリップサイン」を確認しましょう。タイヤ溝の中にスリップサインと呼ばれる小さな突起物があります。この突起が溝から露出すると、残り溝が1.6mm以下になっている合図で、タイヤの交換時期となります。
また、残り溝が1.6mm以下のタイヤでは車検を通すことができません。その状態で運転することは法律で禁止されています(道路運送車輌法の保安基準第9条)。
タイヤの使用年数
使用開始から4~5年以上経過したタイヤは、たとえ残り溝が十分残っていても交換を推奨します。
タイヤのゴムは紫外線などを受けると劣化し、柔軟性が失われていきます。
ゴムが硬くなると、タイヤ本来の性能を発揮できず、ブレーキをかけてから停まるまでの距離が延びたり、スリップしやすくなります。
また、外的衝撃に弱くなるため、タイヤ側面のひび割れが起こり、進行すれば破裂する危険性もあります。
タイヤの側面には、製造年週番号が刻印されています。これを見ればタイヤが製造されてからどれくらい経ったかを把握することができるので、確認してみましょう。
タイヤの側面に刻印された4桁の数字を読み、たとえば「1423」と刻印されていた場合、2023年の14週目に製造されたことを表しています。
タイヤの損傷
タイヤに、釘などの異物が刺さり損傷した場合は、即座にタイヤ修理か交換が必要です。
また、縁石などにタイヤをぶつけてしまった場合、空気が抜けていなくてもタイヤ側面にコブのような膨らみが見られれば交換が必要です。
これは、「ピンチカット」といわれる症状で、タイヤ側面にある金属繊維が断裂した状態です。この症状は修理することができず、タイヤの強度も大きく低下している状態となるため、使用できません。
スタッドレスタイヤの交換基準
冬用のスタッドレスタイヤには、上記の交換目安に追加して「プラットホーム」と呼ばれる基準があります。これは、スリップサインと同じくタイヤ溝の中にあり、溝の深さが3mm以下になると露出します。
プラットホームはスタッドレスタイヤとしての性能限界を知らせるサインで、プラットホームに達すると、排水性が悪くなり、雪道や凍結路面での性能が著しく低下します。
スリップサインと違い、法律による強制力はありません。しかし、スタッドレスタイヤを装着する意味を考えれば、早めの交換を検討するべきです。
タイヤ点検の頻度と時期
少なくとも、1ヶ月に1回はタイヤの点検をしましょう。
性質上、正常なタイヤでも少しずつ空気が抜けていくものです。
乗用車のタイヤは、約1ヶ月で5%ほど空気圧が低下するため、定期的にタイヤの空気圧を点検し、合わせてタイヤの残り溝や損傷がないかも確認しましょう。
また、高速走行や長距離走行をする際にはタイヤに大きな負担もかかるため、運転前にタイヤの状態を確認しておくと安心です。
季節の変わり目でノーマルタイヤとスタッドレスタイヤを履き替える際にも、長期間の放置で空気圧が低下している可能性が高いので、忘れずにタイヤの点検をおこないましょう。
タイヤの不良とその対処方法
タイヤの不良には多くの要因があり、それぞれ対処方法が異なります。
放置すれば事故やトラブルに発展する可能性もあるため、日々のタイヤ点検による早期発見と早期対応が重要です。
主要なタイヤ不良への対処方法をまとめたので、参考にしてください。
パンク
釘やガラス片などの異物がタイヤに刺さることでパンクします。また、縁石などの硬い所にぶつけた衝撃でもパンクすることがあります。
パンクが発生した場合、応急処置としてはスペアタイヤへの交換、またはパンク修理キットを使用した処置があります。これらはあくまでも応急処置なので、その後、整備工場等でタイヤ点検を依頼し、正規のパンク修理かタイヤ交換を行うことが必要です。
バースト
空気圧不足や摩耗したタイヤで走行したことが原因で、タイヤはバーストします。
バーストが発生した場合、その場での応急修理は不可能なので、車に積載されているスペアタイヤに交換するか、スペアタイヤがなければロードサービスを要請する必要があります。
その後、整備工場等に入庫し、タイヤ交換を依頼します。
偏摩耗
タイヤの摩耗でも、片側が異常に減っていたり、中央分だけが減っていることを「偏摩耗」といいます。
偏摩耗は、タイヤの空気圧が不適切な状態で長期間走行すると発生します。しかし、タイヤの空気圧が適切でも偏摩耗が続く場合は、サスペンションなどの足回り部品に問題がある可能性が高いので、整備工場等での点検・修理が必要です。
ゴムの劣化
タイヤのゴムは、直射日光や雨に当たることで劣化します。ゴムが劣化することでひび割れが発生し、硬化したタイヤは性能が低下します。
ひび割れは進行するとパンクの原因にもなるので、早めのタイヤ交換が必要です。
また、空気を充填するエアバルブもゴムでできています。タイヤと同じように劣化すれば空気が漏れてしまいます。交換はホイールからタイヤを取り外さないとできないので、安価なエアバルブはタイヤと同時に交換することを推奨します。
タイヤと燃費の関係
車が進もうとする力はタイヤと路面の抵抗によるものです。そのため、タイヤの状態と燃費は大きく関係しています。
タイヤの状態や特性を維持することは、車の燃費に大きく影響するため、より良いタイヤ選びや日々のメンテナンスが重要です。
燃費を向上させることで、ランニングコストの削減や環境保護にも繋がります。
空気圧不足が燃費におよぼす影響
出典:タイヤの空気圧不足、燃費への影響は?(JAFユーザーテスト) | JAF
タイヤの空気圧が低すぎると、通常よりタイヤと路面の接地面積が大きくなり、抵抗が増加します。これにより、タイヤを回転させるためのエネルギー量が増え、より燃料を消費するので、結果的に燃費が悪化します。
JAF(日本自動車連盟)のユーザーテストでは、タイヤの空気圧が適正値から30%減ると燃費が4.6%悪化し、60%減ると12.3%悪化するという結果が出ています。
それだけ、タイヤの空気圧が燃費に影響するので、少なくとも月に一度は空気圧の点検を行いましょう。
燃費向上を目的としたタイヤ
最近では、従来のタイヤ性能を維持しつつ、転がり抵抗を低く設計した「低燃費タイヤ」が販売されています。
低燃費タイヤは、転がり抵抗性能を「AAA」「AA」「A」の3段階、ウェットグリップ性能を「a」「b」「c」「d」の4段階で評価し、わかりやすくタイヤにラベル表示されているものです。
通常のタイヤに比べて価格が高くなる傾向にありますが、燃費向上には有効な選択となるので低燃費タイヤの導入を検討してみるのもよいでしょう。。
タイヤの寿命を延ばすポイント
タイヤは車の安全性に直結する部品でもあり、性能を維持するための適切な管理がドライバーに求められます。
日常点検でのタイヤ空気圧管理によって、タイヤの寿命を延ばすことにもつながります。
空気圧管理のほかにも、タイヤの寿命を延ばすポイントがあるので紹介します。
定期的なタイヤローテーション
車のタイヤは、前後左右で摩耗のしかたが異なります。これは車の駆動形式による特性から影響されるものです。
定期的なタイヤローテーション(タイヤ位置交換)をおこなうことで、タイヤの摩耗を均一にし、タイヤを長持ちさせましょう。
フロントタイヤとリヤタイヤを入れ替えることが基本で、ローテーション時期の目安は約5,000kmごとです。とくにFF車(前輪駆動車)は、フロントタイヤに負荷がかかり、摩耗しやすいので、FR車(後輪駆動車)より早めのローテーションをおすすめします。
前後のタイヤサイズが異なる車種や、タイヤの種類によってはローテーション不可となる場合もあるので、事前に取扱説明書やタイヤパターンを確認しましょう。
過激な運転を避ける
「急加速」「急ブレーキ」「急ハンドル」といった、「急」のつく操作は、タイヤに大きな負担がかかり、摩耗を早めてしまいます。
過激な運転は不安全を招くだけではなく、タイヤの負担も増やすなどデメリットが圧倒的に多いです。普段の運転時から急激な操作は避け、丁寧な運転を心がけましょう。
タイヤの保管方法を見直す
夏季のスタッドレスタイヤなど、使用していないタイヤを不適切に保管すると、ゴムが劣化を早め、タイヤの寿命を縮めてしまうおそれがあります。
直射日光や湿気の多い場所を避け、できるだけタイヤカバーなどで保護しましょう。
また、長期間使用しない場合は、タイヤを立てて保管しないようにしましょう。時間の経過とともにタイヤの自重で接地面が変形する「フラットスポット」が発生するので、タイヤを横に寝かせて保管しましょう。
まとめ
本記事では、安全運転のための、日常的なタイヤの点検方法について解説しました。
空気圧チェックなど、タイヤの点検は安全運転を維持するために欠かせない作業です。
タイヤの摩耗や劣化は車の性能にも大きな影響を与え、放置すればパンクやバーストといったトラブルが発生し、事故につながるリスクもあります。
タイヤの状況を把握することは、ドライバーにとっても安心して運転に集中でき安全運転につながります。
JAF交通安全トレーニングでは、タイヤの日常点検方法についても詳しく学べます。
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