今年も凍えるような寒い冬がやってきました。
この季節になると一気に気温が下がり、場所によっては11月ごろから霜が降りたり、雪が降る地域も出てきます。
車を運転する上でも、気温の低下による路面の積雪や凍結の影響は無視できないもので、ドライバーの運転意識や車の装備が夏のままでいると危険を招くこともあります。
とはいえ、「車の冬支度」は多岐に渡り、なかなか複雑なところがあるため、「冬は運転方法をどう変えたらいいのか」「路面凍結に気を付ける場所はどこなのか」「スタッドレスとチェーンどっちを用意しておけばいいのか」など、さまざまな疑問の声が聞こえてきます。
この記事では、冬の時期に安心で安全な運転をおこなうための積雪・路面凍結対策について解説します。
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目次
凍結路面の基本情報と発生条件
「路面凍結」は、交通事故のリスクを高める要因の一つです。
路面凍結と一口に言っても、気象メカニズムや場所などの条件が、多岐に渡って組み合わさることで発生し、実は種類もいくつか存在します。
路面凍結の原因とメカニズム
路面の凍結は、雨や雪が地面に留まり、夜間から早朝にかけた日照のない時間の冷え込みによって凍りはじめます。
なんとなく、0℃を下回れば凍結するものと理解している人も多いと思いますが、それは「気温」ではなく、路面上の「水分」の温度のことです。
外気温5℃以下になると、路面凍結が発生する可能性が高くなります。
特に、雲のない晴れた日の夜や翌朝は、地面からの熱が雲で跳ね返ることなく放出することで気温が下がる「放射冷却」現象が起こり、路面が凍結しやすくなるため、晴れた日にも注意が必要です。
参考:今さら聞けない? 放射冷却のメカニズムとは|ウェザーニュース
アイスバーンの種類
路面凍結を、別名「アイスバーン」とも呼びます。
アイスバーンは主に、
- 圧雪アイスバーン
- ミラーバーン
- ブラックアイスバーン
の3種類で、この中でも特にブラックアイスバーンは、単に濡れている路面か判別しにくく、注意が必要です。
凍結しやすい場所
冬季は、全ての道路で積雪・凍結による事故のリスクが高まりますが、特に注意したい場所は、「橋の上」と「トンネルの出入り口付近」です。
まず、橋の上は地熱の影響がなく、上下を風が通り抜ける構造のため、路面の温度が下がりやすくなります。
つまり、雪が降れば解けずに残り、さらに気温が下がれば凍結しやすくなるということです。
次に、トンネルの出入り口付近にも注意が必要です。
トンネル内には雪が入りにくく、天井があることで放射冷却の影響も少ないため、凍結しづらい場所ですが、出入り付近ではそれらの影響がなくなり、日陰になりやすく強風が吹き抜けやすい特性があり、凍結しやすくなります。
また、トンネル内部は凍結が起こりにくいため油断し、速度が出たままの勢いで出口付近にできたアイスバーンを踏むと、最悪の場合、大事故になる危険も考えられます。
凍結路面の危険性とスリップ事故の原因
車が走ったり止まったりするには、タイヤと路面の間に摩擦抵抗が必要になります。
しかし、積雪や凍結している路面は、乾燥している路面と比べて摩擦抵抗が少ないため、ブレーキや加速時にスリップしたり、旋回時にスピンしてしまう危険性が高まります。
JAFがおこなった、同一車両、ABS作動、スタッドレスタイヤ装着の条件において、路面状態別に制動距離を測定したテストでは、ウエット路面と比較して、圧雪路面で約2倍、氷盤路面とブラックアイスバーンでは約7倍も制動距離が伸びたという結果があります。
ブラックアイスバーンは、ウエット路面と見た目がほとんど変わらないにもかかわらず、制動距離はなんと50m以上の差が生まれています。
出典:路面は黒いけど、止まれない!「ブラックアイスバーン」とは…?|JAF
冬の運転に重要なタイヤとチェーン選び
車と路面をつなげている唯一の部品、それが「タイヤ」です。
ゆえに、冬の道路特性に備えたタイヤ選びは非常に重要になります。
ただ、冬用タイヤといっても、選択肢がスタッドレスタイヤだけではないようです。
ここでは、その種類や特性を詳しく解説していきます。
雪道の王道!スタッドレスタイヤの特徴と必要性
スタッドレスタイヤは、冬用タイヤとして選ばれている王道のタイヤです。
ノーマルタイヤと比べ、雪や氷の上での走行に適した設計がなされており、低温下でも柔軟性を保つ専用ゴムを使用することで、凍結路や雪道で強いグリップ力を発揮します。
主な特徴としては、雪の積もっていない乾燥路面でも問題なく使えること。
冬本番の前にあらかじめ交換しておけば、通常の乾燥路面はもちろん、急な積雪や路面凍結に備えることができるので、スタッドレスタイヤは広く重宝されています。
ただし、ゴムの柔らかいスタッドレスタイヤは、雪や氷のない乾燥路面での走行で摩耗が早まるので、凍結や積雪が予測されないシーズンには、ノーマルタイヤでの走行がコスト面から推奨されています。
知名度上昇!オールシーズンタイヤの利点と見分け方
オールシーズンタイヤは、その名前の通り、1年を通してさまざまな気候条件の中で使用することができるタイヤです。
季節ごとのスタッドレスタイヤとノーマルタイヤの交換が不要で、その手間やコストを削減できるメリットがあります。
一見、スタッドレスにもノーマルにも見えるため、見た目だけでの判別は難しいのですが、タイヤ側面に「M+S」と刻印されているのがオールシーズンタイヤの特徴です。これは、英語で「Mud(泥)」「Snow(雪)」の頭文字を意味しています。
また、高速道路の冬用タイヤ規制に対応している証である「スノーフレークマーク」が刻印されている製品もあります。
スタッドレスタイヤにも刻印されているもので、山の中に雪があるマークが目印です。オールシーズンタイヤを購入する際にはスノーフレークマークのあるものを選ぶとよいでしょう。
スタッドレスタイヤとオールシーズンタイヤの違い
ここまでの説明を読んで「それなら、ずっとオールシーズンタイヤだけ履いていればでいいのでは?」と思う方がいるかもしれませんが、積雪・凍結路面でのグリップ力は、冬専用を謳うスタッドレスタイヤより劣ります。
JAFがおこなったタイヤテストでも、氷盤路の制動距離ではノーマルタイヤとほぼ変わらない数値が出ており、冬の道路を安心して走行するにはやや心許ない結果に。
オールシーズンタイヤは便利なタイヤですが、その性能を過信しすぎないようにしましょう。
出典:「オールシーズンタイヤ」って、どんなタイヤですか? | JAF クルマ何でも質問箱
最強の冬装備!タイヤチェーンの使用上の注意点
大雪時など、路面状況が極端に悪化する場合には、一定区間の道路で「全車両チェーン装着規制」が出されることがあります。
その場合、スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤを装着していたとしても、チェーン装着なしでは、指定区間を通行することができなくなるため、冬季の「タイヤチェーン」準備は大切です。
積雪・凍結路での制動性・走行安定性において、タイヤチェーンに勝るものはありません。
しかし、スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤのように、いつでもどこでも使い続けることができないデメリットもあります。
雪上・氷上でしか使用できないのは、もし乾燥路面で使用し続ければ、チェーンが傷み、最悪切れてしまうとタイヤや車体が損傷する恐れがあるためです。
天候や路面状況に応じて、着脱する必要があります。
タイヤチェーンを常に装着する状況はあまり多くありませんが、冬季は車内に携行しておくと安心なアイテムです。
タイヤチェーンの種類には、「金属」と「非金属」があり、「金属チェーンは時速30キロ以下」「非金属チェーンは時速50キロ以下」を守って走行しましょう。
凍結防止剤(融雪剤)の効果と使用の注意点
車に装着するタイヤやチェーン以外にも、路面凍結の対策方法があります。
道路に撒くことで、凍結を防止したり雪を溶かす「凍結防止剤」です。
融雪剤と呼ばれることもありますが、凍結しやすい急な坂道や、橋のたもとに設置されているのを見たことのある人もいるかもしれません。
ホームセンターやネット通販などでも大小さまざまな袋入りで売られていて、気軽に購入することができます。
車に悪影響も?凍結防止剤の種類・効果・散布方法
凍結防止剤は、見た目が白い粒状の形をしていて、主成分は塩でできています。
水は通常0℃で氷や雪になりますが、そこに塩分が混ぜると、凝固点(液体が固体になる温度)を0℃よりも低くすることができます。これを凝固点降下といいます。
この現象を利用することで雪や氷を解かすことが可能になり、路面凍結を防止することができるのです。
種類がある凍結防止剤|聞き覚えのある「塩カル」もそのうちのひとつ
凍結防止剤に使われている主成分は塩ですが、実はこれにもいくつか種類があり、それぞれ効果の違いがあるので紹介します。
- 塩化ナトリウム
名前の通り「塩」ですが、いわゆる「食塩」とは違い食べることはできません。
塩化ナトリウムの水溶液は、凝固点が-20℃程度まで下がります。
持続性が高く、供給が安定しているので価格が安めです。
- 塩化マグネシウム
「にがり」の主成分として、豆腐づくりにも使用されています。
塩化マグネシウムの水溶液は、凝固点が-30℃程度まで下がります。
性質は塩化ナトリウムに近いですが、人体への影響が少ないのが特徴です。
- 塩化カルシウム
通称「塩カル」とも呼ばれています。
塩化カルシウムの水溶液は、凝固点が-50℃程度まで下がるため、厳寒地の使用に適しています。水に溶けると発熱効果があるため、短時間で雪や氷を溶かすことができます。
効果が高い反面、皮膚に付着すると炎症を引き起こす恐れがあるので、素手で触らないようにしましょう。
出典:雪が降ったら塩をまく?凍結防止剤のはなし|東京ソルト株式会社
雪が降る前と後どっちがベスト?凍結防止剤散布のタイミングと方法
凍結防止剤は、雪が降る前に散布するのがベストタイミングです。雪解け水が再結晶するのを防ぐことができます。
もちろん、雪が降った後でも散布すれば効果が期待できます。
降雪後に散布する際は、除雪後の氷が薄い状態や踏み固められた凍結した道路へ撒く方法が有効です(降り積もった深雪等には効果が薄い)。
ムラなく均一に散布した上で、傾斜があれば頂点付近を中心に多めに散布すれば、溶け出した水溶液が下に流れて一帯の凍結防止効果が上がります。
付着したあとの放置は危険!凍結防止剤の成分が車に与える影響
凍結防止剤の主成分は「塩」のため、車の金属部に付着することで部品や外装が錆びる原因にもなるため注意が必要です。
特に、金属がむき出しの車体の下回りや、塗装面に傷がある箇所は腐食の進行が早まってしまいます。
塩害による錆の発生から車を守るためには、冬場でもこまめに洗車して塩分を洗い流すこと。洗いにくい下回りの洗車には、高圧洗浄機があると便利です。
コイン式の洗車機などにも、下回り洗車のオプションが備えられていることがあるので、近くのガソリンスタンドや洗車場の機械の仕様を確認しておくのも、冬備えのひとつといえるでしょう。
アイスバーンでの運転方法
アイスバーンの発生が懸念されるような状況で運転を迫られたときには、万が一に備え、滑ることを前提とした運転が必要です。
アイスバーンでの運転は、雪道以上によく滑ることを理解した上で、慎重に操作しなくてはなりません。
特に発進や停止、カーブでの「急」のつく動作は絶対厳禁です。
路面が凍っているときのブレーキにはコツがあります。まず、停まりたい地点よりもずっと手前から減速を始め、その際には、数回に分けてブレーキを踏む「ポンピングブレーキ」をおこないましょう。
氷の上でのブレーキングは、「停まりたい手前から減速」「強く踏み込まない」「数回に分けて踏む」と覚えておきましょう。
ABS(アンチロックブレーキシステム)搭載車は、ブレーキを強く踏み続けた方が短く停まれるとされていますが、アイスバーンではかえって制動距離が伸びてしまう場合があるので、特性を理解した使用が大切です。
まとめ:事前の準備と慎重な運転が大切
本記事では、冬の時期に安心で安全な運転をおこなうための、積雪・凍結路面対策について解説しました。
車の冬支度は、「スタッドレスタイヤへの履き替え」「タイヤチェーンの携行」といった事前準備が重要になり、安心感にもつながります。
運転に自信がある人でも、ノーマルタイヤで雪山に挑むような行為は無謀といえます。安全のためにも絶対に避けなくてはいけません。
また、凍結路面に遭遇した場合には、乾燥路面よりもさらに「急」のつく運転動作を控える意識が必要です。
「JAF交通安全トレーニング」では、冬季の凍結路をはじめ、季節に応じた交通安全教材を多数用意しています。
毎月配信するe-ラーニング形式のコンテンツは、JAFならではの実践的な教材となっていますので、うまく活用して冬の交通事故を防止しましょう。
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