車を使用した業務を遂行する上では、守らなければならない制度や規則が多くあります。
運転者台帳の作成・保存も、そのひとつです。
運転者台帳は法規制に則り、記載事項や保存期間などを順守しなければなりません。
本記事では記載事項や保存期間など、運転者台帳に関係する基本的な知識について解説します。
適切に運用するためにも、ぜひ参考にしてください。
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【基礎知識】運転者台帳の概要

まずは運転者台帳の概要を確認しましょう。
運転者台帳は法律で定義が定められているものです。
運用に際し、定義を正確に理解しましょう。
運転者台帳とは
運転者台帳とは、運送会社が選任した運行管理者が作成するものであり、ドライバーに関するさまざまな情報が記載されている台帳です。
運転者台帳の作成は、以下のように法律によって定められています。
一般貨物自動車運送事業者等は、運転者等ごとに、第一号から第九号までに掲げる事項を記載し、かつ、第十号に掲げる写真を貼り付けた一定の様式の運転者等台帳を作成し、これを当該運転者等の属する営業所に備えて置かなければならない。
出典:貨物自動車運送事業輸送安全規則第九条の五
運転者台帳の記載対象になる従業員は、企業が雇用しているドライバー全員です。
そのため、正社員・契約社員・アルバイトと、雇用形態に関わらずドライバーとして雇用しているならば、運転者台帳に情報を記載する必要があります。
半年程度の短期間のみ企業に在籍するドライバーや、ドライバーを兼任している経営者なども対象です。
ただし、以下に該当する従業員は運転者として雇用できないため、記載は不要です。
- 日々雇い入れられる者(日雇い労働者)
- 2カ月以内の期間を定めて雇用される者
- 試用期間中の者(14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は除く)
運転者台帳は単なる名簿ではなく、法律でも作成が義務付けられている重要な資料です。
事業者は法律に則り、適切な内容で記載しなければなりません。
運転者台帳の役割
運転者台帳はドライバーの交通違反歴・事故歴に加え、健康診断や適性診断の結果などを網羅し、より効果的な交通事故防止策を実施するために作成されるものです。
そのため、運行管理者は法律に則り、運転者台帳を適切に作成・運用しなければなりません。
なお、運転者台帳の書式に厳密な決まりはありません。
必要な記載事項さえあれば、各々の企業が設定した書式で作成できます。
昨今はインターネットにテンプレートが流通しているため、そのまま利用できます。
運転者台帳の保存期間
運転者台帳はたとえ対象者が退職したとしても、一定期間保存する必要があります。
運転者台帳の保存期間は以下のとおりです。
一般貨物自動車運送事業者等は、運転者が転任、退職その他の理由により運転者でなくなった場合には、直ちに、当該運転者に係る前項の運転者等台帳に運転者でなくなった年月日及び理由を記載し、これを三年間保存しなければならない。
出典:貨物自動車運送事業輸送安全規則第九条の五の2
運転者台帳は現職はもちろん、退職者のものも3年間保管しなければなりません。
保存する台帳に漏れがないか、定期的に確認しましょう。
特に人事異動や退職者が出た際には注意が必要です。
労働者名簿との違い
運転者台帳とよく似た言葉に労働者名簿があります。
労働者名簿は労働基準法施行規則に基づいて作成されるものであり、企業に属するすべての従業員について、以下の内容を記載しなければなりません。
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類
- 雇入の年月日
- 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む)
- 死亡の年月日及びその原因
労働者名簿は、一見する運転者台帳と似ているものです。
実際、運転者台帳は労働者名簿と同一の様式で作成でき、「運転者台帳兼労働者名簿」としての運用も可能です。
ただし、労働者名簿はドライバーであるかどうかにかかわらず、すべての従業員が記載の対象です。
運送業の場合、役員・整備士・バックオフィスの従業員なども記載の対象となるので注意しましょう。
乗務員台帳との違い
乗務員台帳は運転者台帳とほぼ同じ内容のものです。
ただし、運転者台帳が運送業が作成するのに対し、乗務員台帳はバスやタクシーなどのような旅客自動車運送業者が作成するものです。
いわば、旅客自動車運送業で作成する運転者台帳が乗務員台帳です。
そのため、乗務員台帳は運転者台帳と同じ項目を記載します。
なお、乗務員台帳は運転者台帳と違い、旅客自動車運送事業運輸規則が根拠法令です。
乗務員台帳を作成する際は、そちらを確認しましょう。
運送業界における運転者台帳の重要性

運送業界において、運転者台帳はただ従業員の情報が羅列されたリストではありません。
運転者台帳は従業員が事故を起こした際の調査や、安全運転管理をスムーズに実施するために用いられるものです。
運転者台帳には自社に所属する各従業員の特性や履歴などが記載されているため、事故の原因分析や安全運転教育において大いに役立ちます。
もちろん、従業員の体調や特性に合わせた運行管理計画を策定する際にも運転者台帳は活用できます。
運転者台帳は運送業が安全に配慮しつつ、事業を適切に運用していく上で不可欠なものです。
日々の業務と並行して作成することは簡単ではありませんが、滞りなく業務を遂行し、万が一に備えるためにも、運転者台帳は適切に作成しましょう。
運転者台帳の記載事項

運転者台帳の記載事項は全部で10個の記載項目があります。
それぞれの内容について、順番に解説します。
作成番号および作成年月日
まずは作成番号と作成年月日を記載しましょう。
作成番号に決まりはなく、企業が自由に設定できます。
重複がないように、通しの番号を記載しましょう。
社員番号などをそのまま流用しても問題ありません。
なお、作成年月日と運手者の入社年月日を混同しているケースがあるため注意しましょう。
事業者の氏名または名称
事業者名(個人事業主の場合)、あるいは法人名を記載する項目です。
法人の場合、「株式会社」や屋号まで正確に記載しなければならないので注意が必要です。
複数の営業所がある場合は、営業所まで記載しましょう。
一方で、本社のみの場合は「本社営業所」などと記載します。
運転者の氏名・生年月日・住所
ドライバーの氏名・生年月日・住所と、基本的な情報を記載する項目です。
結婚・引っ越し・転勤などで情報が変わった際は、必ず変更しなければなりません。
雇い入れおよび運転者に選任された年月日
当該ドライバーを雇い入れた、あるいは運転者に選任された年月日を記載します。
なお、「雇い入れ」と「運転者に選任」は、似ているようで意味合いが異なります。
雇い入れは「企業に雇用されたタイミング」を指す言葉です。
対して、ドライバーに選任された年月日は「研修などを終えてドライバーとして稼働し始めた年月日」を意味します。
道路交通法に規定された運転免許に関する事項
この項目では運転免許証に記載された情報を記載します。
記載する内容は以下のとおりです。
- 運転免許証の番号
- 運転免許証の有効期限
- 運転免許証の年月日
- 運転免許証の種類
- その他付されている条件
なお、以上の内容を直接記載しなくても、運転免許証のコピーを添付しても問題ありません。
運転免許証を更新した際は新しい内容に変更する必要があります。
交通事故・交通違反の記録
運転者台帳では交通事故や交通違反の有無についても記載しなければなりません。
交通事故は、当該ドライバーが第一当事者だった場合のみ、以下の内容を記載します。
- 交通事故の発生日時
- 交通事故が発生した場所
- 損害の程度を含む交通事故の内容
あるいは、交通事故に関する記録のコピーを添付する方法でも問題ありません。
なお、当該ドライバーが第二当事者の場合は、運転者台帳に記載する必要はありません。
第一当事者・第二当事者のいずれかに該当するか不明確な場合は、第一当事者であるか否かの判断を保留する旨を記載しましょう。
一方の交通違反については、以下の内容を記載しましょう。
- 違反の種別
- 違反があった場所
- 違反を起こした年月日
基本的に運転者台帳に記載する交通違反は、公安委員会から使用者に対する通知(道路交通法百八条の三十四の規定に則った通知)を受けたものとされています。
しかし、ドライバーの情報を把握し、適切に教育するためにも、通知の有無に関わらず、交通違反履歴があった際は記載することが推奨されています。
運転者の健康状態
ドライバーの健康状態・健康診断の実施日について記載する項目です。
以下の対応であれば、直接記載しなくても問題ありません。
- 健康診断個人票(労働安全衛生規則第五十一条の規定に則って作成されたもの)
- 健康診断結果通知のコピー(労働安全衛生規則第五十一条の四の規定に則って作成されたもの)
- 健康診断の受診日を記載した上で健康診断結果を別途保存(「診断結果は別紙」と記載)
特定の従業員に対する指導や監督指導実施・適性診断の受診状況
当該ドライバーが指導・監督指導・適性診断を受けた場合も、運転者台帳に記載します。
この項目で記載する指導・監督指導・適性診断とは、貨物自動車運送事業輸送安全規則第十条に基づくものです。
指導・監督指導の場合は、実施した年月日と内容を記載しましょう。
なお、業務に必要な資格が別である場合、そちらの状況についても記載しなければなりません。
適性診断の場合、以下の診断の年月日・所見を記載します。
- 初任診断
- 適齢診断
- 特定診断
企業が実施したものはもちろん、ドライバーが個人で一般診断を受信した際も記載する必要があります。
診断内容はドライバーの状態や事故の分析などに用いられるものです。
記載漏れや虚偽がないように最新の注意を払いましょう。
運転者台帳作成6カ月以内の運転者の写真
運転者台帳を作成する6カ月以内に撮影した写真も必要です。
写真は以下の様式を守ったものにしましょう。
- 単独
- 上3分身
- 無帽
- 正面
- 無背景
運転者台帳に載せる写真は、運転免許証のコピーのものとは別にしなければなりません。
運転者でなくなった理由と年月日
運転者台帳に記載されたドライバーが退職・異動などによって業務から離れた場合、ドライバーでなくなった理由と年月日を記載する必要があります。
この項目は退職や異動だけでなく、当該ドライバーが亡くなった場合でも同様に記載しなければなりません。
前述したように、ドライバーでなくても当該ドライバーの情報は3年間保存しなければならないため、誤って破棄しないように注意しましょう。
運転者台帳を作成する際の注意点

運転者台帳を作成する際は、いくつかの注意点を意識しましょう。
適切に運転者台帳を作成・運用する上で守らなければならないポイントもあるので、ぜひ参考にしてください。
退職者が出た際の対応に留意する
退職者が出た際の対応には留意しましょう。
たとえ退職・死亡したとしても、当該ドライバーの運転者台帳は保存しておかなければなりません。
運転者台帳は交通事故が起こったり、法定監査を受けたりした際に、当該ドライバーの情報をスピーディに照会できるようにする必要があります。
また、運転者台帳の適切な保存・運用は、企業の透明性・信頼性を守る上で不可欠な取り組みです。
退職者が出た際の対応にミスがないよう、最大限注意を払いましょう。
運用しやすい書式にする
運転者台帳を作成する際は、運用しやすい書式を心がけましょう。
運転者台帳の書式には決まりがないため、インターネットで流通しているテンプレートをそのまま利用できます。
しかし、不適切なレイアウトの書式だと、作成時はもちろん、確認や修正をする際にも手間がかかります。
運転者台帳は緊急時に内容を確認するケースも想定されるため、運用しにくい書式だと業務に支障をきたしかねません。
また、わかりにくい書式だと作成や修正を行う際にミスが発生するリスクを高めます。
運転者台帳を作成するなら、ほかのテンプレートを参照しつつ、自社にとって運用しやすいものにしましょう。
不備・未作成には罰則がある
運転者台帳の不備や未作成は罰則の対象となります。
運転者台帳の不備・未作成に対する罰則は以下のように定められています。
【未作成に対する罰則】
事項 | 罰則の内容 |
5名以下未作成 | 初違反の場合:警告 再違反の場合:10日車 |
6名以上未作成 | 初違反の場合:10日車 再違反の場合:20日車 |
すべて未作成 | 初違反の場合:20日車 再違反の場合:40日車 |
【記載事項の不備・保存義務違反に対する罰則】
事項 | 罰則の内容 |
記載事項などの不備 | 初違反の場合:警告 再違反の場合:10日車 |
保存義務違反 | 初違反の場合:警告 再違反の場合:10日車 |
〇日車とは、「〇日間1台の車両を使用停止にすること」です。
10日車の場合、罰則が科せられると1台の車両が10日間使用できません。
デジタル化も検討する
運転者台帳を作成・運用する際は、デジタル化も検討しましょう。
紙媒体で運転者台帳で作成している企業も多いですが、デジタル化した方が効率的な運用が可能です。
特に、ドライバーの人数が多い企業だと、比例して運転者台帳の情報量も増加します。
そのため、紙媒体のままだと照会に時間がかかったり、管理する手間が増えたりする恐れがあります。
運転者台帳をデジタル化すれば、スピーディに照会できる上に、修正にも手間がかかりません。
ドライバーの人数が増加した際は、積極的に運転者台帳のデジタル化に取り組むことがおすすめです。
その際はドライバーの管理に役立つツールの導入も検討しましょう。
近年は、運転者台帳をクラウドで管理するサービスが販売されており、より効率的な運用ができるようになりました。
運転者台帳の作成・管理・修正はもちろん、運行管理・点呼・労務情報の管理など、さまざまな機能を搭載しているツールもあるため、業務の効率化に役立ちます。
運転者台帳はExcelなどを利用してオリジナルでも作成できますが、従業員数が多い企業だと管理が煩雑になりがちです。
特にITスキルが低い企業だと、オリジナルで作成すると管理が属人化したり、運用に支障をきたしたりするリスクを高めます。
従業員数が多い企業なら、ツールの導入も効果的な選択肢です。
まとめ:運転者台帳はルールに沿って適切に作成しよう

運転者台帳は企業がドライバーの情報を適切に把握し、交通事故や交通違反に適切な対策を立てる上で重要なものです。
そのため、運転者台帳は法律に沿って適切に作成・運用しなければなりません。
もし運転者台帳の記載事項に不備があったり、保存ができていなかったりした際は、行政より罰則が科せられます。
企業の信頼性を守り、交通事故や交通違反に適切に対処するためにも、運転者台帳は慎重に作成・運用しましょう。
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