あなたは、路線バスに乗るとき、運転手が発進前に「左よし!前よし!右よし!」と声に出して確認しているところを見たことありませんか?
これを「コメンタリー運転」といい、リアルタイムで変化する目の前の交通状況を声に出して確認しながら運転することで、事故防止などに役立てられています。
運転業務を主とした仕事に就いてる方は、会社方針で「コメンタリー運転」を実践していたり、同業他社で取り入れている話も聞いたことがあるのではないでしょうか?
運送業界でも、事故防止に効果があるとみて取り入れている企業が多くあります。
この記事では、コメンタリー運転が安全運転教育に活用できる理由を、過去、実際にコメンタリー運転の指導を受けられた方の感想を交えながら解説していきます。
車両管理システム × 安全運転教育で効果最大化!
目次
コメンタリー運転とは?|その発祥と歴史について
まずは、コメンタリー運転とは何をするのか、そして、どのようにして発祥したのか歴史を振り返ります。
コメンタリー運転とはなにか?
コメンタリー運転とは、運転中、刻一刻と変化する交通状況から、見たもの、感じたこと、判断したこと、操作したことを、だれかに逐一説明するよう声に出しながら実況し、運転する方法を指します。
この手法は、安全運転のトレーニングや事故防止に役立つとされ、トラック・バス・タクシーなどの人流・物流企業でも取り入れられています。
コメンタリー運転の発祥と歴史
コメンタリー運転の発祥は、1960年代のイギリスまでさかのぼります。
当時、イギリスの「ロンドン警視庁」で、警察ドライバーの運転技術向上のため、訓練用に開発されました。
イギリス警察は、コメンタリー運転がパトロールや緊急時など高度な判断を求められる環境で有効とし、この手法を採用することにより、考えを整理しながら状況を把握し、迅速な予測行動が取れるように訓練をおこないました。
時は流れ、日本でも、事故防止や運転スキル向上のための有効な手段として広く認知され、今では大企業の交通安全教育や企業研修にも採用されるまでに発展しています。
出典:平成30年度版 交通事故の実態|神奈川県自動車交通共済協同組合
事故防止のために!コメンタリー運転の実践方法
ここでは、さらに深堀りして、事故防止につながるコメンタリー運転とはどのような方法なのか、また、コメンタリー運転のポイントや実施例を紹介します。
コメンタリー運転の基本的なやり方
コメンタリー運転の基本は「発声」で、視覚情報を言語化することからはじまります。
例として、信号機のない横断歩道を通過しようとしている状況では、「横断歩道あり」など、周囲の状況を言葉にして説明します。
次に、運転の判断材料を見つけたら、自分が取ろうとしている行動を言葉にします。信号機のない横断歩道に歩行者が近づいていれば、「歩行者確認、一時停止」と発声します。
独り言を言うようで気恥ずかしさがあるかもしれませんが、発声をおこなうことで、自分の行動の正当性や安全性を再確認することができます。
効果的なコメンタリー運転のポイント
コメンタリー運転をおこなう際の注意点としては「大きな声でハッキリと発声」しすぎないこと。
あくまで、主体は「車の運転」なので、発声することに意識が取られすぎてしまえば、状況判断や運転操作に悪影響を及ぼす可能性があります。
効果的にコメンタリー運転をおこなうには、冷静に落ち着いた口調で話すのがよいでしょう。
そうすることで、ドライバー自身に心の余裕が生まれ、周囲の状況を的確に整理し、安全運転意識を自然と保つことができます。
場面によるコメンタリー運転の実例
実際のコメンタリー運転の実例を紹介します。
- 出発時:「周囲の状況よし、ルームミラー・サイドミラー位置よし」など
- 左折時:「青信号よし、歩行者(または自転車)巻き込みなし、歩道上よし」など
- 車線変更時:「後続車なし(ミラー確認・目視確認)、ゆっくり車線変更」など
あくまで例として挙げましたが、「こう言わなくてはいけない」といった決まりはないので、自分が言いやすい言葉や会社で決められているルールがあれば、その方法に従いましょう。
ポイントとしては、長い言葉で話すより、短く簡潔でわかりやすい言葉で表現した方が、自分の判断を整理しやすくなり、メリハリのある安全運転につながります。ぜひ参考にしてください。
安全運転教育におけるコメンタリー運転のメリット
安全運転教育においてコメンタリー運転を導入することで、多くのメリットが生まれます。
特に、認知力と判断力の強化が顕著で、運転中の安全性を向上させる効果が期待できます。
事故防止への具体的な効果
運転中に自分が見た情報や判断内容を言語化することで、周囲の状況に対する意識が高まり、見落としが減少します。
歩行者や自転車などの小さな動きにも一段と気づきやすくなり、交通状況を的確に把握できるようになります。
イレギュラーな事態に遭遇しても、瞬時に状況を整理し、対処できる力がコメンタリー運転によって身についているので、事故を未然に防ぐことにつながるのです。
ドライバーの危険予測能力と交通安全意識の向上
コメンタリー運転では、状況を見て感じた危険を言葉にするため、ドライバーは潜在的なリスクを予測しやすくなります。
例えば、信号機のない横断歩道に歩行者が近づいていれば、そのまま横断してくると予測し、前もって減速することで、いつでも停止できる態勢に入れます。
リアルタイムで状況を言語化することで、起こり得るリスクを整理しながら運転する習慣が身に付きます。
さらに、JAF交通安全トレーニングを受講すれば、危険感受性を獲得することができます。
コメンタリー運転に必要な、危険予測能力を高める講座を毎月配信しているので、社内で受講を検討してみてはいかがでしょうか。
車両管理システム × 安全運転教育で効果最大化!
安全運転教育での活用方法
安全運転教育の現場では、教習車での実習時やシミュレーション学習の際に、コメンタリー運転を取り入れています。
バスやタクシーなど、二種免許が必要な旅客運送をおこなう場合には、特に乗客の安全を確保した運転が求められるため、コメンタリー運転での安全確認が有効とされています。
コメンタリー運転は、持続的な安全意識の向上に役立つとされ、ドライバーの運転教育の場でも重宝されているのです。
コメンタリードライビングのデメリットと対応策
ここまで、コメンタリー運転のメリットをたくさん紹介してきましたが、デメリットも存在するようです。
運送会社でコメンタリー運転を経験していた方への取材内容をもとに、デメリットとその対策について考えてみましょう。
注意不足によるリスク
矛盾しているように思えますが、運転中に状況を説明しようと意識しすぎた結果、注意力が散漫になる危険性があります。
「人通りの少ない住宅街」と「人通りの多い商店街」をイメージしてみましょう。
閑散とした道路であれば、安全確認すべき箇所も少なくなるので、歩行者や自転車が現れたときの危険予測も容易です。
しかし、歩行者や自転車が激しく往来する商店街の中を運転している場合には、一体何から言葉に出せばいいのかと、迷いが生まれてしまうことも。
コメンタリー(解説)をすることに気を取られてしまえば、運転操作に支障が出てしまうことが弊害としてあります。
はじめから、完璧にコメンタリー運転をする必要はないので、慣れるまでしばらくは、交通量が少なくゆとりのある道路で実践してみることをオススメします。
複雑な交通状況下では、無理してコメンタリー運転をする必要はなく、まずは、運転操作に集中しましょう。
形骸化して自己満足に陥りやすい
コメンタリー運転に慣れてくると、交通状況をスムーズに声に出して説明することができるようになるでしょう。
一方で、徐々に緊張感が薄れ、コメンタリー(解説)を維持することが目的となり、交通安全に活かすという本来の目的が失われていく可能性もあります。
つまりそれは、「自分はいつもコメンタリー運転をしている」という、自己満足に陥ることであり、「横断歩道よし」と発声していても、実際は声に出しただけで注意を向けていない場合があります。
このように、コメンタリーが形骸化してしまう状況を防ぐには、第三者の目が必要です。管理責任者に同乗してもらい、評価とフィードバックをもらうことで、定期的に自分自身の運転を見直してみましょう。
他者からのアドバイスには、自分では気づかない新たな発見があるので、指摘や助言があれば、謙虚な姿勢で耳を傾けてみるのが大切です。
国土交通省が推奨する運輸安全マネジメント|リーフレットの活用
「運輸安全マネジメント」とは、国土交通省が推奨している制度で、運輸事業者(交通機関や物流業者など)がおこなう、輸送の安全性を高めるための体系的な管理体制のことです。
大枠のガイドラインはありますが、具体的な施策は事業者ごとに決めることができます。その取り組みのひとつに、「コメンタリー運転」を取り入れている企業もあります。
出典:射水運輸|安全管理
安全運転マネジメントとは?
2006年10月から、運輸安全マネジメントの導入に伴う貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律および「貨物自動車運送事業に係る安全マネジメントに関する指針」が施行されました。
これにより、輸送の安全に関わる基準が明確に定められ、国土交通省が管理監督する中で、事業者は適切な安全管理の実施が義務付けられています。
運輸安全マネジメントでは、事業者が自主的に安全管理体制を構築し、PDCA(計画・実行・確認・改善)サイクルにより継続的な改善を図り、安全性を向上させることを目的としています。
出典:「運輸安全マネジメント」の義務づけ事業者になった | 全日本トラック協会
国土交通省提供のリーフレットを活用する
国土交通省のホームページから、運輸安全マネジメント制度についてのリーフレットが閲覧、ダウンロードしてみましょう。
リーフレット内のQRコードを読み取ることで、運輸安全マネジメント制度の概要を見ることができます。
ガイドラインの項目別ポイントを確認すれば、より理解を深めることができるので、コメンタリー運転と合わせて活用することで、より一層の安全管理に役立ててください。
まとめ:コメンタリー運転は目的ではなく手段のひとつ!
本記事では、コメンタリー運転が安全運転教育に活用できる理由について解説しました。
コメンタリー運転は、60年以上の歴史がある運転教育手法のひとつで、その有用性は運送・旅客業界でも認められ、多くの企業が実際に取り組んでいます。
一方、コメンタリー運転を導入する際は、目的を履き違えないように注意することが大切です。コメンタリーは交通安全手段のひとつであり、何のために交通状況を声に出して説明するのかをよく考えてみましょう。
ときには、同僚や上司と安全運転についてディスカッションすることで、コメンタリー運転のメリット・デメリットを再確認することも必要です。
JAF交通安全トレーニングでは、安全運転に関する教育方法をはじめ、さまざまな知見を基にした教材も用意しています。
車両管理システム × 安全運転教育で効果最大化!