自動車を運転する以上、「交通事故」は切り離せないリスクのひとつです。
日本の交通事故発生件数を見ると、2004年の95万2720件をピークに右肩下がりで減少し、ここ数年(2020年~2023年)は約30万件と、ほぼ横ばいで推移しています。
ピーク時と比べ、現在では約1/3にまでその数が減っており、良化傾向にありますが、それでも、毎年2000人以上の人が交通事故で亡くなっている事実から目を背けてはいけません。
この記事では、自動車業界が、交通事故を撲滅するため積極的に取り組む、面白い交通安全運動を一挙紹介していきます。
目次
グラフで見る交通事故発生状況の推移
まずは、今日に至るまでの交通事故発生状況をおさらいしてみましょう。
自動車産業発展にともなう事故増加
統計がはじまった1948年から、交通事故件数は増加していきます。
第1次ピークまでが戦後の高度経済成長期にあたり、国民の自動車保有率が増加したことに比例していると見られ、1970年には71万80件で一度目のピークを迎えます。
直後に起きたオイルショックの影響や、交通安全基本計画の策定など、国を挙げた政策の推進もあり、1980年に入るまでには事故件数が一旦落ち着くものの、自動車産業の発展とともに、約30年間、交通事故件数は再度増加し続け、2004年には95万2720件と統計史上最多件数を記録してしまいます。
この20年で交通事故が1/3まで減少
その後、道路交通法の強化や道路環境の整備、ABS(アンチロックブレーキシステム)やエアバッグといった自動車安全技術の進化もあり、交通事故件数は大きく減少します。
特筆すべきは2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言発令にともなって、人々の行動が制限されたことによる影響です。
数字を見てもその影響は明らかで、2019年と2020年を比較すると、交通事故件数が約7万件減少しています。
現在に至っては、事故件数が約30万件とほぼ横ばいに留まって推移しており、2004年のピーク時と比べれば、その数およそ1/3以下にまで減少しています。
しかし、それでも毎年2,000人以上の人が交通事故で亡くなっているのが現状です。
メーカーをはじめとした自動車業界の動き
自動車業界では交通事故防止の啓蒙も企業責務ととらえ、社会貢献活動の一環と考えており、各社、さまざまなアイデアで、ユニークな交通安全活動をしています。
ここでは、自動車業界にある企業がどのような活動をしているのか、詳しく紹介していきます。
トヨタ自動車|三位一体の取り組み
トヨタは「交通事故死傷者ゼロ」を究極の願いとして掲げています。
事故の回避はもちろん、衝突時の乗員保護といった安全な「クルマ」の開発をはじめ、講習会などを通じた交通安全への意識を高める「人」に対する啓発活動、信号設置や道路整備など「交通環境」整備への働きかけなど「クルマ」「人」「交通環境」の三本柱が連携する「三位一体の取り組み」を推進しています。
なかでも、「人」に対する意識啓発活動は、高度経済成長期の1960年代から推進しており、安心安全のモビリティ社会実現のため、「トヨタ安全かたる」の想いのもと、取り組んでいます。
出典:トヨタ安全かたる ~クルマと語る、人と語る、道と語る~
トヨタ交通安全センター「モビリタ」で車の限界を体感
モビリタは、トヨタが設立した安全運転専用の教育施設で、静岡県の富士スピードウェイ内にあります。
国内最大級の10万平米を誇る広大なフラットコースや、35度の傾斜バンクや滑りやすい低ミュー路を使って、「走る、曲がる、止まる」を通して車の限界や楽しさを安全に体感できます。
免許取り立ての初心者から、モータースポーツをたしなむ人まで、ニーズに応じたプログラムが用意されており、日本の運転免許を持っている人であれば誰でも受講することができます。
出典:TOP | トヨタ 交通安全センター モビリタ [mobilitas]
子ども向け学習サイト「トヨタこどもこうつうあんぜん」
トヨタは、子ども向けの交通安全教育にも力を入れています。
その取り組みのひとつに、「犬のおまわりさん」が案内するウェブサイトがあります。
このサイトでは、「すごろく」「絵本」「ぬり絵」などを通じて、子どもたちが楽しみながら交通安全を学べるコンテンツを用意しています。
さらには、保護者向けに「自転車ヘルメットの着用」や「幼児バスの置き去り事故」といった、タイムリーなコンテンツも取り扱っているので、子どもと一緒に学習することができます。
出典:犬のおまわりさんといっしょに学ぼう|トヨタ こども こうつうあんぜん
日産自動車|ハローセーフティーキャンペーン
日産は、1972年から「ハローセーフティーキャンペーン」という交通安全啓発活動を実施しています。
地域社会の交通事故防止に向けた取り組みで、これまでの活動内容としては、幼児向け啓発DVDや紙芝居、高齢運転者向け啓発冊子の提供、反射材ストラップや飲酒運転撲滅キーホルダーの配布などがあります。
高齢者交通安全|ハンドルぐるぐる体操
「ハンドルぐるぐる体操」は、日産と新潟大学が立ち上げた交通安全プロジェクトのひとつです。
高齢ドライバーの安全走行を支援するため、日々の生活の中で運動習慣をつけ、筋力と認知力を高めること目的としています。
実際の車に付いているハンドルでおこなうのではなく、ハンドルを模したリング状のアイテムで体操をします。
体操は、血流を良くするリフレッシュ、少しハードな筋力アップ、脳を刺激する認知力アップの3種類があります。どれも覚えやすいように、3秒間4カウントで構成されていて、仲間内や家族で楽しむことができます。
出典:日産自動車、高齢ドライバーの安全走行を促進・啓発する『ハンドルぐるぐる体操』を新潟大学と共同で創案
おもいやりライト運動
交通事故は、「薄暮」と呼ばれる16時〜18時に一番多く発生すると言われています。
「おもいやりライト」は、この薄暮時間帯に、ヘッドライトを早期点灯させることで、事故を減らそうという啓蒙活動です。「見えやすさと見られやすさの光がつながれば、夕方の事故はきっと減らせる」などの想いが込められ、「おもいやりライト」と名付けられました。
この活動は、2010年から取り組まれており、市民参加型の会議やイベントの開催、SNSや専用ウェブサイトを活用した賛同の呼びかけや啓発活動を積極的に実施し、全国の他産業、NPO団体、個人と広く浸透しています。
専用ウェブサイト内では、「おもいやりライトタイム」として、毎月日没30分前の時間を目安に、北海道から沖縄まで9エリアに分けて紹介しています。
出典:おもいやりライト
本田技研工業|交通事故ゼロ会社へ
ホンダには、グローバル安全スローガン「Safety for Everyone」という言葉があり、ひとりひとりに寄り添った安全を追求していくホンダの姿勢や、社会を構築する人々の安全が向上すれば社会全体がより安全になり、「事故に遭わない社会」を実現できると考えています。
ホンダは、「2050年に全世界でホンダの二輪車・四輪車が関与する交通死者ゼロを目指す」と表明しており、その中間目標地点として、まずは2030年、全世界でホンダの二輪車・四輪車が関与する交通事故死者半減を目指しています。
交通教育センターで参加型の実践教育
その取り組みのひとつとして、参加体験型の実践教育をおこなう、交通教育センターがあります。
全国7カ所あるホンダの交通教育センターでは、運転のスキルアップから運転復帰支援、オーダーメイド可能な企業ドライバーの運転研修まで、参加型の実践教育を各種用意しています。
四輪車だけでなく、ホンダが得意とする二輪の講習もあり、子どもから高齢者まで、交通社会に参加する全ての人を対象とした交通安全活動に力を入れています。
ダイハツ工業|Light you up アクション
「Light you up」とは、ダイハツグループのスローガンです。
そのスローガンを体現するためのアクションとして、「お客様や地域との接点拡大」を推進した取り組みをおこなっています。
その一環として、「ダイハツ社員による立哨(りっしょう)活動」があります。
ダイハツ各職場の地域で実施し、朝の通勤や通学時間の横断歩道に立って、地域の子どもたちの安全を確保しています。
出典:Light you up アクション|ダイハツ工業株式会社
マツダ|交通安全クイズ
マツダの交通安全活動には、子ども向け「交通安全クイズ」があります。
ウェブ上で解答できるクイズで、「クルマに乗るときの交通安全」「自転車に乗るときの交通安全」「歩いているときの交通安全」の3ジャンルの全30問の中から、毎回違う9問のクイズが出題されます。
ちょっとした気分転換にも適した長さで、隙間時間に手をつけられそうな気軽なコンテンツになっています。
三菱自動車工業|クルマの学校
三菱は、交通事故のない社会の実現を目指して、グループ会社、販売店とともに、地域と連携して、高齢者ドライバーに向けた少人数制のドライビングスクール「クルマの学校」開催しています。
自治体と協力した自転車・自動車シミュレーター体験の提供や、地域の警察署による運転適性テスト等を実施しています。
また、三菱製のセーフティ・サポートカー(サポカー)を使用し、踏み間違い衝突防止アシスト機能の体験もおこなっています。
日本自動車連盟(JAF)|交通安全の推進
日本自動車連盟(以下、JAF)は、ロードサービスを基幹事業としていますが、交通事故防止、交通環境改善のための活動にも注力しています。
JAFの行動指針にも「交通安全の推進」を掲げています。
交通安全ドレミぐるーぷ
JAFは交通安全運動の一環として、ボランティアグループを主体とした「JAF交通安全ドレミぐるーぷ」を2007年4月に結成しました。
この活動は、子ども向け交通安全教育を目的とし、幼稚園児・保育園児や保護者を対象におこなう、歌や寸劇を通じた交通安全啓発活動です。
公演は全国各地で回っており、地域の幼稚園や保育園を訪問して、子どもたちに交通ルールの大切さを伝えています。
交通安全3分トレーニング(危険予知クイズ)
「交通安全3分間トレーニング」とは、短時間で交通安全意識を高めることができるオンラインプログラムです。
クイズ形式の動画で毎日異なった内容(※)が出題され、動画を観て解答すると、危険度ランクや注意すべきポイントの解説が確認できます(※クイズは一定周期で繰り返されます)。
さらにJAFは、このトレーニングを企業・団体向けに拡充した「JAF交通安全トレーニング」というe-ラーニングコンテンツを提供しています。
業界屈指のロードサービス対応をおこなうJAFが、これまで蓄積してきた交通安全のノウハウを、企業や職業ドライバーの社内安全教育に活かすことが可能です。
「JAF交通安全トレーニング」には、管理機能を実装・提供しているので、習熟度のチェックも楽におこなえます。
スマホやタブレットでの受講も可能
まとめ:社会全体がひとつになって交通安全に取り組もう
本記事では、自動車業界が取り組んでいる面白い交通安全活動を紹介しました。
企業がおこなっている活動に共通して言えるのは、「子ども」や「高齢者」に対しての啓蒙に力を入れているところです。
交通事故ゼロ社会を目指して、それぞれの企業が交通事故防止に真剣に取り組んでいこうとする姿勢を強く感じます。
「ヒヤリハット」の経験を共有し、運転中の潜在的なリスクに対する意識を高める安全運転教育をしたくても、「具体的になにをすればいいのか」「どこから手を付ければいいのか」と取捨選択に迷うこともあるかもしれません。
「JAF交通安全トレーニング」では、ウェブ上で受講ができる、JAFの交通安全活動のノウハウを活かした企業・団体向けの教材を多数用意しています。
JAFならではの実践的なコンテンツで日ごろから継続的にトレーニングを受講することができれば、交通安全意識を向上させることができます。社内の安全運転教育にぜひ役立ててみてはいかがでしょうか?
スマホやタブレットでの受講も可能