ドライバーが業務中に免停になった場合の影響と会社の対応策について

プライベートはもちろん、仕事で車を運転する場合にも、必ず「運転免許」が必要です。

万が一、業務中に違反や事故を起こして「免停(免許停止)」になってしまったら、一定期間、運転業務に就くことができなくなり、働いている会社や取引先に迷惑をかけてしまいます。

そうなれば、業務外でも車の運転ができなくなるため、私生活への影響も少なくありません。

この記事では、ドライバーが業務中に免停になった場合の社会的影響と、それを防ぐための会社側の対応策について解説していきます。

「免停」とは?点数計算と一発免停の違反一覧

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「免停」とは「運転免許停止処分」の略で、行政処分により一定期間運転免許証の効力が停止され、運転ができなくなることを指します。

免停処分の発生件数は年々減少傾向にあるものの、令和5年度においては16万5,626件も発生しており、楽観できる数字ではありません。

この制度は、違反や事故を繰り返すドライバーを一時排除し、交通ルールの徹底を再度促すことで健全な交通環境を確保することを目的とされています。

参考:運転免許統計|警察庁

免許停止に至る点数の計算方法について

過去3年間の前歴免許停止
30日60日90日120日150日180日
0回6〜8点9〜11点12〜14点   
1回 4〜5点6〜7点8〜9点  
2回  2点3点4点 
3回   2点3点 
4回以上    2点3点

運転免許には「点数制度」が採用されていて、免停処分はこのルールによって決まります。

よく「この前切符切られて2点減点された」などといった話を聞くことがあるかもしれませんが、正確には0点からのスタートで、違反や事故の内容に応じて加点される方式です。

過去3年間の前歴がない場合は累積6点から免停処分となりますが、過去3年間での前歴があれば、その回数によって免停までのベース点数が減少していきます。

「前歴」とは、処分の対象になる違反行為のあった日からさかのぼり過去3年間に免許の停止などの行政処分を受けたこと」を指します。

「前歴」に該当するのは、以下の4つです。

  1. 免許の取消処分を受けたこと
  2. 免許の停止処分を受けたこと
  3. 免許の拒否に該当したこと
  4. 免許の保留に該当したこと

③の「免許の拒否」とは、運転免許試験に合格した人が、累積点数が取消基準に達した者であったり、重大違反唆し等があった者である場合に、処分に相当する期間が経過していなければ免許を与えず、残っている期間を欠格期間に指定する処分のこと。一例として、無免許運転をした場合などに処分が下されます。
④の「免許の保留」とは、仮免許中に違反して処分の点数に達した後に試験に合格した場合や、二輪で違反をしたあと普通免許の試験に合格した場合などに下される処分です。この場合の違反は保留処分となり、正式に試験に合格したあとでも保留期間内の免許取得ができません。この免許の保留も前歴として考慮されます。

さらに、免停期間が30日から180日まで存在し、点数や過去の違反歴によって適用が異なるので、注意しなければなりません。

上限は15点なので、累積または1回の取り締まりで15点に達すると、いわゆる「免取」、免許取り消しという重い処分となります。

出典:行政処分基準点数|警視庁

一発免停となる違反行為を一部紹介

点数が6点以上の一発免停となる違反行為を一部紹介します。

  • 酒気帯び運転(0.25mg未満)           13点 
  • 仮免許運転違反                 12点
  • 速度超過50km/h以上               12点
  • 速度超過30km/h(高速40km/h)以上 50km/h未満 6点
  • 無車検運行                     6点
  • 無保険運行                    6点

軽微な違反でも、繰り返せばいずれ免停となる可能性がありますが、さらに悪質・危険な行為をおこなえば、たった1回の違反でも免停となる場合があります。

違反行為の大小を問わず、違反のリスクを抑えるためにも安全運転を心がけることが大切です。

出典:交通違反の点数一覧表|警視庁

免停期間を短縮したい人は講習の受講を

免停処分を受けてしまった場合、所定の講習を受講することで免停期間を短縮させることが可能です。

これらの講習自体に強制力はなく、受講はその人個人の自由ですが、受けるメリットの方が大きいです。

また、受講できるのは月曜から金曜までの平日のみとなるため、会社員の方などは注意が必要です。

講習には2種類ありますので、紹介していきます。

違反者講習のメリットと受講条件

違反者講習を受講することで、自身が犯した交通ルールの再認識をおこなうことができます。

さらに「行政処分(免停)の取り消し」や「違反歴がつかない」ことが受講の恩恵にあり、今後安全運転を平常におこなうためにも受けておきたい講習です。

ただし、危険性の低いドライバーを対象としているため、受講には下記の条件全てに当てはまる必要があります。

  1. 過去3年以内に違反者講習を受けていない
  2. 過去3年以内に行政処分(免停など)を受けていない
  3. 3点以下の軽微違反による累計点数で6点となった

出典:違反者講習|警視庁

停止処分者講習の種類と短縮日数

講習種類停止処分日数考査成績による短縮日数
短期講習30日292520
中期講習60日302724
長期講習90日454035
120日605040
150日706050
180日807060

「違反者講習」の受講条件を満たせなかった場合、「停止処分者講習」の対象となります。

講習の考査成績(適正検査、筆記テストなど)により、免停期間が短縮されます。

停止処分日数が短縮されることにより、停止処分相当の違反を犯した意識が希薄になりがちです。

受講時には自身の運転を見つめ直し、停止処分が明けた際には講習内容を安全運転の糧としてください。

出典:停止処分者講習の概要|警視庁

免停処分が仕事に及ぼす影響

前述の通り、免停とは、運転免許の効力が一時的に停止される処分であり、車を運転する必要のある職業の人にとって、その影響は大きくなってしまいます。

それらを防ぐためには、免停となってしまったあと周囲にどれだけの影響が出るのか、また自身にどんな不利益が生じるのか、認識しておくことも大切です。

業務遂行の制限

営業職や運送ドライバーなど、運転業務が必要な職種の場合、仕事の継続が難しくなります。

運転を必要としない内勤部署への異動処置が取られたりと、自分の希望する仕事ができなくなるかもしれません。

また、免停期間中は運転業務ができないことで、手当てが付かなくなるなど収入に影響が出る可能性もあります。

信用や評価の低下

業務中に運転ができなくなってしまった場合、会社ではフォロー体制を構築する必要が出てきます。

同僚や上司など、多くの人々に迷惑をかけることで、職場内での信用が低下してしまい、人事評価に影響することもあります。

さらには、担当者の変更やそれに伴う納品遅延などが発生すれば、顧客や取引先に不便を強いてしまう可能性もあり、個人の信用低下だけにとどまらず、企業としての評判を落とすことにもつながります。

会社としてドライバーの免停リスクや責任にどう向き合うか

ドライバーが業務中の違反または事故により免停となってしまった場合、会社としてリスクマネジメントを考える必要があります。

管理者の視点で、「個人」と「全体」と分けて対策を解説していきます。

ドライバー個人への対策

  1. 免停経緯の確認
    該当ドライバーに、免停に至った経緯を確認します。
    もともと累積点数があり、進入禁止などの軽微な違反がきっかけで免停になったのか、あるいは、大幅な速度超過や酒気帯び運転による重大な違反による一発免停なのか、状況に応じて対策を検討する必要があります。 
  1. ドライバーとの面談
    違反や事故を起こしたドライバーに落ち度があるのはもちろんですが、当事者なりの言い分もあるので、頭ごなしに叱責するのではなく、まずは傾聴の姿勢を持ちましょう。
    たとえば、「毎日残業が多く疲れが取れず、運転に集中できていなかった」「スケジュールがタイトで、遅刻しないようにスピードを出していた」など、違反に至った状況を聞き出すことで、背景にある免停の要因に気づくこともあります。
  1. 再発防止策を講じる
    免停経緯の確認、ドライバーとの面談から、今後の方針を決定します。
    ドライバー本人の反省状況や精神状態、運転スキルから鑑みて、免停期間終了後も運転業務に従事させるべきか、運転はリスクが高いと判断し配置転換をさせるのかなどを判定しましょう。
    運転業務を続けてもらう場合は、安全運転講習やメンタルヘルスケアを実施し、運転技術や注意力の向上を図ります。その後は、管理者による定期的なドライブレコーダーのチェックや同乗訓練など、継続的な指導をおこなう必要があります。

参考:危険予知で安全運転!事故リスクを軽減させるためのトレーニングとは|JAF交通安全トレーニングコラム

会社組織としての対策

  1. 事案の共有と他人事としない意識
    業務中の従業員免停事案が発生した際、社内でしっかりと情報共有することで組織としての再発防止につながります。
    注意したいのは、当事者ではない場合に「誰が免停になったか?」「どんなペナルティーがあるのか?」などが槍玉に上がってしまうことです。再発防止のための要である、免停に至った原因については「他人事」となりやすく、情報共有の趣旨からはずれてしまう危険性をはらんでいます。
    業務中の違反や事故を防止するためには、日ごろから、管理者によるリスクマネジメントが継続的におこなわれることが重要です。ドライバーの交通安全意識の醸成を目指しましょう。
  1. 免停を未然に防ぐ仕組みづくり
    免停の再発防止には、組織的な意識改革とそれに伴った行動が必要です。たとえば、「運転記録証明書」や「累積点数等証明書」の提出を定期的におこなうことで、ドライバーの交通違反や事故、点数の状況を随時把握し、違反点数が累積し免停リスクが高まった場合には注意を促すことができます。
    また、免停の背後要因に労働環境が影響しているなら、無理のないスケジュール作成、確実な休憩時間の確保など、勤務状況を見直し改善を図ってみるのも手段のひとつです。
    最近では、法人向け通信型ドライブレコーダーが多く普及しています。管理者が遠隔でドライバーの運転状況を確認したり、収集したデータからドライバーごとの安全運転スコアを作成することができるタイプもあるので、これらを導入してリスクマネジメントに活用することもできます。

参考:安全運転の意識向上に効果的なことは?企業が取り組むべき行動を紹介|JAF交通安全トレーニングコラム

免停が原因で逮捕?最悪のトラブル事例

ここでは、過去に実際あった免停が原因のトラブル事例を考察も含めて紹介していきます。

【ケース① カラーコピーでごまかし】
タクシー運転手のAさんは、免許停止期間中にもかかわらず、免許証のカラーコピーを提示することで勤務するタクシー会社の点呼を通過し、通常通りの業務を続けていました。
しかしある日、乗客を乗せて走行中に物損事故を起こしてしまいます。
Aさんは駆けつけた警察官に無免許運転であることを申告し、結果、道路交通法違反の疑いで逮捕されてしまいました。

このケースでは、Aさんのモラルの低さが事件に大きく影響しています。

モラルは善悪の判断を伴う個人の感性ではあるものの、タクシー会社としても倫理観に対する指導・教育や、乗務員が不正をおこなわないように徹底した管理体制を構築することが必要です。

日本の運転免許証はICチップ内蔵型になっているため、業務開始前にIC免許証リーダーを活用した点呼などが有効です。

【ケース② 身代わり出頭】
トラック運転手のBさんは、最高速度50キロの道路を95キロで走行し、速度違反を自動で取り締まる「オービス」により検挙されました。
しかし、Bさんの勤務する運送会社の会社役員Cさんは、Bさんが免停になることで業務に支障が出ることを避けたいと考え、「自分が違反を犯した」と虚偽の申告しました。
警察は「オービス」に映った運転手と、会社役員の免許証の写真の顔が違うことから捜査をし、犯人隠避の疑いでCさんを書類送検しました。

このケースでは、業務に支障が出ないようCさんが良かれと思って取った行動だったのかもしれませんが、結果的にはBさんもCさんも処罰を受ける結果となりました。

Bさんに対しては、日ごろから速度違反をしないような運転教育が必要だったかもしれませんが、Cさんについても、管理者として冷静に正しい判断ができなかったことが最悪の事態を招いた原因と言えます。

まとめ:個人たけではなく組織全体としての意識を高める

本記事では、ドライバーが業務中に免停になった場合の社会的影響と会社の対応策について解説していきました。

免停になるということは、それだけ重い罪を犯してしまったということの証左です。

安全運転を疎かにすれば、違反や事故を起こすリスクは大きく増えてしまいます。

累積にしても一発にしても、「たまたま運が悪かった」と考えるのは非常に危険で、そこに至るには必ず原因があります。

継続的に組織としての安全運転意識を高め、安全風土を醸成していくことが大切です。

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イイダユウジ
高校在学時、アルバイトでこつこつ貯めた資金で「S13シルビア」を愛車に迎えたのを機に、車に目覚める。進学先で自動車整備を学び「国家1級整備士」資格を取得。卒業後はカーディーラーに就職し、車の基礎と社会の厳しさを叩き込まれる。現在は、個人で中古車販売・整備を主に手掛ける一方で、その経験・知識を最大限活かし、交通安全普及のための広報活動に勤しむ。整備士の目線で独自の切り口を模索するなど、幅広く活動している。