近年は、若者のクルマ離れがささやかれており、「運転免許を取得したものの、社会人になるまで運転する機会がなく、ペーパードライバーになってしまった」という従業員が入社してくることも珍しくないでしょう。
運転にブランクがあると、公道を走ることを不安に感じる上に、何よりも危険が伴います。
そのため、ペーパードライバーの事故原因について把握し、事故を起こさないための対策を講じることが必要です。
この記事では、ペーパードライバーによる事故の現状と、事故防止のために企業が取るべき対策について解説します。
運転経験の浅い従業員への施策をお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
ペーパードライバーによる事故の現状
運転免許を取得しているのに運転をしていない人、または運転をする機会がない人のことを、ペーパードライバーといいます。
ペーパードライバーの方は、免許を取得してから長期間運転していないため、運転操作や車両の感覚、標識の意味などが曖昧で、自動車の運転に対して苦手意識を持っている傾向があります。
そのため、経験豊かなドライバーに比べると、運転経験の浅いペーパードライバーは交通事故を起こしやすいのが現状です。
以下の表は、令和4年の「自動車等による死亡事故発生件数(第1当事者)の免許取得後経過年数別内訳」を示しています。
免許取得後経過年数 | 発生件数(割合) |
---|---|
1年未満 | 75件(3.4%) |
2年未満 | 74件(3.3%) |
3年未満 | 43件(1.9%) |
4年未満 | 45件(2.0%) |
5年未満 | 39件(1.8%) |
10年未満 | 153件(6.9%) |
10年以上 | 1,767件(79.5%) |
無免許・不明 | 28件(1.3%) |
表を見ると、免許を取得してから1年未満、2年未満のドライバーほど、交通事故を引き起こしていることがわかります。
つまり、「運転経験の浅いドライバーは交通事故を起こしやすい」といえます。
ペーパードライバーも「運転経験の浅いドライバー」に該当するといって良いでしょう。
そのため、ペーパードライバーは交通事故を起こしやすく、事故防止のための対策が必要だといえます。
ペーパードライバーの事故原因
ペーパードライバーは、どのような理由で交通事故を起こすのでしょうか。
経験不足
運転経験の豊富なドライバーであれば、他車の危険行為に遭遇するなどヒヤリハットの経験をしています。
こういった経験から、危険感受性が高まることで危険を予測し、「かもしれない運転」に活かすことができます。
運転経験の不足から予測による予防運転ができていない場合があります。
そのため、
- 後方死角から接近する自転車に気づかず左折時に巻き込んでしまった
- 公園から飛び出してくる子どもと接触してしまった
など予測したうえでの減速や安全確認ができず、危険を回避できないケースもあります。
安全確認を怠る
運転中は前方や後方、左右の安全確認をしなければなりません。
経験豊富なドライバーは当たり前にしている安全確認も、ペーパードライバーは忘れてしまうことがあります。
その結果、以下のように交通事故につながるケースがあります。
- 右折時に前方確認を怠り、対向車と衝突してしまった
- 左折時に後方確認を怠り、自転車と接触してしまった
- 車線変更時に周囲の確認を怠り、変更先の車線を走っている車に接触してしまった
ほかにも、一時停止の左右確認や合流時の確認を怠ることで、交通事故につながるケースもあります。
車間距離不保持
前方を走る自動車と適切な車間距離を確保せず、追突事故を起こしてしまうケースもあります。
安全な車間距離は、前の車が急停止をしても追突しない距離です。
一般的には、前方の自動車と3秒以上の車間距離が適切といわれています。
3秒間で進む距離は以下の通りです。
速度 | 3秒間に進む距離 (安全な車間距離) |
---|---|
40km/h | 33.33m |
50km/h | 41.67m |
60kn/h | 50.01m |
しかし、「前方の自動車と3秒以上」という距離感をつかむには、慣れが必要です。
ペーパードライバーの場合、この距離感がつかめないため、追突事故を起こしてしまうことがあります。
交通ルールや標識の誤認識
ペーパードライバーは、交通ルールや標識を正しく認識できていない場合があります。
また、緊張で視野が狭くなり、信号や標識を見落としてしまうこともあります。
運転操作を誤る
ペーパードライバーは運転操作に慣れていないため、操作ミスによって交通事故を起こしてしまうことがあります。
具体的な操作ミスの例は以下のとおりです。
- アクセルとブレーキの踏み間違い
- ハンドルの操作ミス
- ギアの入れ間違い
また、普段は問題なく運転操作ができていても、パニックになると適切な操作ができなくなることもあります。
駐車に慣れていない
多くのペーパードライバーは、駐車に慣れていません。
特に、バック駐車に対して苦手意識を持つ人が多くいます。
実際の駐車場は教習所と違って目印がなく、ハンドル操作のタイミングがわからなくなるからです。
そのため、「車幅感覚がわからない」「緊張して適切な運転操作ができない」といった理由で、交通事故を起こしてしまうケースがあります。
また、後ろに人がいることに気づかず、接触してしまうこともあります。
漫然運転
漫然運転とは、顔は前方を向いているのに、頭がボーッとしていたり、考え事をしていたりと、運転に集中できていない状態のことです。
ペーパードライバーは運転に不慣れなため、過度な緊張感をもって運転しがちです。
その影響で集中力を長く持続できず、集中しているつもりでも、漫然運転に陥る場合があります。
運転に集中できていないため、以下のようなことが起こります。
- 歩行者や信号、標識に気づきにくくなる
- ブレーキ操作が遅れる
- ハンドル操作が鈍くなる
- 気づかないうちに車間距離を詰めすぎてしまう
漫然運転は死亡事故につながるケースが多い傾向があります。
重大な事故を引き起こす可能性が高いので、未然に防げるようにしましょう。
参考:令和5年における交通事故の発生状況について|警察庁交通局
ペーパードライバーに向けた運転のポイント
ペーパードライバーでなくなるためには、運転の練習をする必要があります。
練習のポイントは、運転免許を取得した際に学んだことをひとつずつ復習することです。
具体的には以下のとおりです。
- 正しい乗車姿勢を確認する
①ひじの角度:直角よりも少し伸ばし、軽く曲がっている状態
②足の位置:アクセル・ブレーキの両ペダルがしっかり踏み込める位置
③背中と腰の位置:背中と腰全体をシートに預ける
④後頭部:ヘッドレストに預ける - 車の機能を把握する:ウインカー、ワイパー、給油口の位置など
- 運転中は視線を高く保つ:視野を広くするため
- 交差点ではしっかり減速する
- ウインカーを早めに出す
また、初心者マークを付けるのもひとつの方法です。
運転免許を取得して1年未満のドライバーは、初心者マークを付けることが道路交通法で義務付けられています。
しかし、取得から1年以上経ったドライバーでも、運転に自信がない場合は初心者マークを付けても構いません。
なお、初心者マークを付ける位置は以下のように決められているため、注意してください。
法第七十一条の五第一項から第四項まで及び第七十一条の六第一項から第三項までに規定する標識は、地上〇・四メートル以上一・二メートル以下の位置に前方又は後方から見やすいように表示するものとする。
引用元:道路交通法施行規則第九条の六|e-GOV法令検索
なお、以下の記事では、運転初心者に向けて安全運転のポイントを解説しています。
ペーパードライバーの運転練習にも役立つ内容なので、ぜひ参考にしてください。
ペーパードライバーが事故を起こさないためにできる対策
ペーパードライバーが交通事故を起こす大きな要因は、運転経験や運転スキルの不足です。
とはいえ、業務上どうしても運転してもらわなければならない状況もあるでしょう。
そこで最後に、ペーパードライバーが事故を起こさないためにできる対策を紹介します。
運転しやすい車両を用意する
ペーパードライバーには、運転しやすい車両を用意しましょう。
具体的な特徴は以下のとおりです。
- 車体が小さくて小回りが効く
- 座席の位置が高めで視野が広い
- ボンネットの先端まで運転席から見える
- 前方・後方・斜め後ろなどが見やすい
- メーターなどの計器類が見やすい
運転席からの死角が多い車両や、後方が見えにくい車両は避けましょう。
また、自動ブレーキ機能や、ブレーキとアクセルの踏み間違いを防ぐ装置といった安全機能が搭載された車両であると、より安心です。
ベテランドライバーに同乗してもらう
ペーパードライバーを一人で運転させると、緊張で思わぬミスをしてしまうかもしれません。
一方で、隣に運転経験豊富な先輩社員が乗っていると、安心感から緊張が和らぎ、運転に集中しやすくなります。
また、運転中疑問に感じたことをすぐに質問できるので、先輩社員の知識やテクニック、「かもしれない運転」に必要な知識を吸収することも可能です。
ペーパードライバー講習を活用する
自動車教習所では、「ペーパードライバー講習」を実施している所があります。
運転時の正しい姿勢や基本的な運転操作などをプロの指導員に教えてもらえるので、運転に自信のない方におすすめです。
安全に、効率良く運転スキルを身に付けられます。
基本的に教習所内で練習をして、その後路上教習に進むという流れなので、実践経験を積むことが可能です。
教習車には補助ブレーキが付いているため、万が一のときは指導員がブレーキをかけてくれます。
また、交通ルールや標識について学びたい場合は、学科講習もセットで受けられます。
最近では出張型のペーパードライバー講習も増えているので、自動車教習所に行くのが難しい場合は、検討してみると良いでしょう。
ドライブレコーダーを設置する
近年設置が増えているドライブレコーダーは、ペーパードライバーのスキルアップにも有効です。
記録した映像を確認することで、自分の運転を客観的に評価できるからです。
運転中には気づかなかった悪い癖がわかったり、改善点を見つけたりと、運転スキルの向上に役立ちます。
安全運転に関する教育制度を整える
安全運転に関する教育制度を整えることも重要です。
従業員一人ひとりの交通安全意識を高めることで、交通事故防止だけでなく、会社のイメージアップや信頼の醸成につながるからです。
「外部講師による研修」や「eラーニング」などを活用して、日頃から交通安全について学ぶ機会を設けましょう。
定期的な意識付けをおこなうことで、ペーパードライバーだけでなく、会社全体の事故防止に効果を発揮します。
JAFトレでは、さまざまなシーンで危険感受性を高め「かもしれない運転」に必要な、予測するための知識が豊富に学べます。
ベテランドライバーとの同乗に近い効果を期待できますので、ペーパードライバーの独り立ち支援に最適です。
スマホやタブレットでの受講も可能
まとめ:ペーパードライバーが事故を起こさないために対策をしよう
ペーパードライバーは交通事故を起こしやすい傾向があり、いきなり一人で公道を運転させるのは危険が伴います。
業務上どうしても運転してもらう必要がある場合は、運転しやすい車両を用意したり、先輩社員を同乗させたりするなどの対策を取りましょう。
また、ペーパードライバー講習で運転スキルを磨くことや、交通安全教育をおこなって意識の向上を図ることもおすすめです。
JAFメディアワークスでは、交通安全について学べるeラーニング「JAF交通安全トレーニング」を提供しています。
短時間のコンテンツを毎日継続することで、交通安全意識の向上が期待できます。
ペーパードライバーや若手社員の交通安全教育についてお悩みの企業担当者様は、ぜひご活用ください。
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