業務中に交通事故を起こした場合、従業員が怪我を負うだけでなく、企業存続の危機に陥る可能性もあります。
従業員の交通安全に対する意識を高めることは、リスク対策の1つです。
道路交通法では、交通事故の防止や法令遵守のために、企業や団体が取り組むべきこととして安全運転管理者制度を規定しています。
しかし「自動車の台数が何台なら、安全運転管理者の届出が必要なのか」と疑問に思っている方はいませんか。
本記事では、安全運転管理者制度や選任が必要な車両台数について解説します。
業務で自動車を使用している企業は、ぜひ参考にしてください。
目次
安全運転管理者制度とは
安全運転管理者制度とは、自動車を使用する事業所において、交通事故の防止や道路交通法令を遵守するための制度です。
昭和40年6月に道路交通法により、以下のように規定されました。
車両等の使用者は、その者の業務に関し当該車両等を運転させる場合には、当該車両等の運転者及び安全運転管理者、副安全運転管理者その他当該車両等の運行を直接管理する地位にある者に、この法律又はこの法律に基づく命令に規定する車両等の安全な運転に関する事項を遵守させるように努めなければならない。
引用:道路交通法第七十四条の一
選任された安全運転管理者は事業主に代わって、安全運転の推進や交通事故の防止に向けて必要な指導や管理業務を行います。
具体的な業務は、運転者の教育や訓練、異常気象時等の措置、安全対策の策定などです。
企業に安全運転管理者の選任を求められる理由
従業員が業務中に交通事故を起こした場合、賠償責任を負うのは損害を発生させた従業員だけではありません。
従業員の不法行為により生じた第三者に対する損害に関しては、民法第七百十五条に基づき使用者である事業所も責任を負います。
警察庁が発表した「令和5年における交通死亡事故の発生状況」によると、交通事故による死者数は8年ぶりに増加してしまいました。
また、業務中や通勤時に発生した事故の割合は観光や娯楽時などと比較して多い傾向にあります。
企業は、従業員の安全運転に対する意識を高めて、交通事故を起こさせないことを求められています。
安全運転管理者の選任が必要な自動車の台数
事業所はどのような基準で安全運転管理者を選任しなければならないのでしょうか。
安全運転管理者に関して確認しておきたい事項を紹介します。
自動車の台数
以下のどちらかの要件を満たす場合、事業所は安全運転管理者を選任しなければなりません。
- 乗車定員11人以上の自動車を1台以上使用している
- その他の自動車を5台以上使用している
ただし、原動機付自転車を除く自動二輪車は1台を0.5台として計算しますので注意してください。
安全運転管理者の業務内容
安全運転管理者は、国家公安委員会の告示である「交通安全教育指針」に沿った安全運転教育や内閣府令で定める安全運転管理に関する業務を実施します。
内閣府令で定める安全運転管理者の業務は、以下のとおりです。
運転者の適性等の把握 | 自動車の運転に関する運転者の適性や知識、技能および運転者が道路交通法などの規定を守っているか把握するための措置をとること |
運行計画の作成 | 過労運転の防止やその他安全な運転を確保するために、自動車の運行計画を作成すること |
交替運転者の配置 | 長距離運転および夜間運転となる場合や、疲労などで安全運転ができない恐れがある場合は、交替するための運転者を配置すること |
異常気象時等の措置 | 異常気象や天災その他の理由により、安全な運転の確保に支障が生ずる場合は、安全確保に必要な指示や措置を講ずること |
点呼と日常点検 | 運転の予定がある従業員に対して点呼などを実施し、自動車の日常点検整備の実施および飲酒や疲労、病気などにより正常な運転ができないリスクの有無を確認する。安全な運転を確保するために必要な指示を与えること |
酒気帯びの有無の確認 | 運転前後の運転者に対し、酒気帯びの有無について当該運転者の状態を目視、またはアルコール検知器を用いて確認を行うこと |
酒気帯びの有無の確認の記録保存・アルコール検知器の常時有効保持 | 酒気帯びの有無の確認内容を記録し、一年間保存する。またアルコール検知器を常時有効に保持すること |
運転日誌の備付け | 運転者名や運転の開始および終了の日時など、運転の状況を把握するために必要な事項を記録する日誌を備え付ける。運転を終了した運転者に記録させること |
安全運転指導 | 運転者に対し「交通安全教育指針」に基づく教育や自動車の運転に関する技能・知識、その他安全な運転を確保するため必要な事項について指導を行うこと |
運転者の適性を把握するためには、従業員ごとに免許の更新日や運転可能な車種などの情報をまとめた台帳を作成するのがおすすめです。
適性検査や健康診断の結果なども指導に関する記録として記載するのも有効といえます。
また、従業員がプライベートで交通事故や違反行為があった場合に、迅速に会社に報告させる仕組みづくりも重要です。
安全運転管理者の選任基準
事業所単位で選任される安全運転管理者は、以下の要件を満たさなければいけません。
- 年齢20歳以上の者
- 自動車の運転の管理に関して2年以上の実務経験を有する者、自動車運転管理に関してこれらの者と同等以上の能力があると公安委員会が認定した者のいずれか
- 過去2年以内に飲酒運転やひき逃げなど違反行為をしていない者
副安全運転管理者も選任する場合は、20歳以上の従業員しか選任できないので注意してください。
安全運転管理者の必要人数
安全運転管理者は、自動車を使用する本拠地ごとに必ず1人を選任する必要があります。
使用中の台数が10台でも100台でも、安全運転管理者は1人を選任すれば問題ありません。
副安全運転管理者の選任が必要な自動車の台数
事業所の自動車台数が20台以上になると、安全運転管理者だけでなく、副安全運転管理者の選任が必要です。
副安全運転管理者の概要と安全運転管理者との違いについて紹介します。
自動車の台数
副安全運転管理者は、事業所等が20台以上の自動車を保有する場合に、20台ごとに1名選任する必要があります。
自動車を20台保有する場合は1名、40台保有する場合は2名のように副安全運転管理者を選任しなければなりません。
副安全運転管理者の業務内容
副安全運転管理者は、安全運転管理者を補助しながら同じ業務を行います。
副安全運転管理者の選任基準
副安全運転管理者は、以下の基準を満たす必要があります。
- 年齢20歳以上の者
- 1年以上の運転管理の実務経験または3年以上の運転経験を有する者、自動車運転管理に関してこれらの者と同等以上の能力があると公安委員会が認定した者のいずれか
- 過去2年以内に交通事故や違反行為をしていない者
交通違反例は、ひき逃げや酒気帯び運転、麻薬等運転、無免許・無資格運転、最高速度違反、自動車使用制限命令違反、妨害運転などです。
安全運転管理者と実務経験が異なるので、選任する際は注意しましょう。
副安全運転管理者の必要人数
副安全運転管理者は、自動車の乗車定員を問わず自動車の台数が20台以上であれば選任しなければなりません。
自動車の台数が20台ごとに、副安全運転管理者を1人追加しなければいけない点に注意してください。
自動車の台数 | 副安全運転管理者の人数 |
---|---|
1~19台 | 不要 |
20~39台 | 1人 |
40~59台 | 2人 |
安全運転管理者等を選任後の届出方法
事業所が安全運転管理者や副安全運転管理者を選任した後の流れを、以下の項目に分けて紹介します。
- 届出先
- 届出に必要な書類
届出先
道路交通法第七十四条三第五項によると、選任後15日以内に自動車の使用本拠地を管轄する警察署を経由し、公安委員会に届け出るのが義務づけられています。
以前は、所轄警察署や交通課窓口まで行く必要がありました。
しかし、2022年1月4日から「警察行政手続サイト」から各種手続きがオンライン申請できるようになりました。
届出に必要な書類
選任に関する届出に必要な書類は以下のとおりです。
- 安全(副安全)運転管理者に関する届出書
- 運転の管理に関する経歴証明書
- 運転記録証明書(2年以上のもの)
- 運転免許証や住民票などの写し
運転記録証明書は、過去3年もしくは5年間の証明が必要になり、事前に自動車安全運転センターへの申し込みが必須です。
届出に関する書類は、警察庁または各都道府県警察のホームページからダウンロードできます。
必要な書類は、管轄する警察署によって異なる場合があるので事前に確認しましょう。
安全運転管理者等を選任しなかった場合はどうなる?
事業所が、安全運転管理者と副安全運転管理者を選任しなかった場合の罰則やリスクを解説します。
罰則
安全運転管理者および副安全運転管理者を選任しなかった場合、50万円以下の罰金が課せられます。
選任後の届出を怠った場合は、5万円以下の罰金が課せられるので注意しましょう。
参考:道路交通法第百二十条
2022年4月27日に改正道路交通法施行規則が施行され、安全運転管理者の選任義務違反等に対する罰則が厳しくなりました。
安全運転管理者としての責任が強く求められているといえます。
リスク
罰則以外にも安全運転管理者を選任しない、届け出を怠った場合のリスクは計り知れません。
安全運転管理者を選任せず、万が一交通事故を起こしてしまうと、企業や組織の社会的信用を著しく失う可能性が高いです。
事業継続が困難になったり、事故責任の係争や損害賠償訴訟の際にも不利な状況に陥ったりするかもしれません。
さらに、従業員や業務上の安全を軽視していると捉えられ、社内の人材が流出してしまうリスクにも注意が必要です。
安全運転管理者等を届出した後にすべきこと
安全運転管理者等の届出後に発生した変更に関する処理方法や、法定講習の受講について紹介します。
安全運転管理者等法定講習の受講
安全運転管理者等法定講習とは、公安委員会による安全運転管理者等に必要な知識や基本的業務が学べる講習です。
道路交通法第七十四条の三によると、公安委員会から法定講習の通知を受けた企業や事業所は、安全運転管理者にそれを受講させる義務があります。
主な受講内容は以下のとおりです。
- 自動車および道路交通に関する法令
- 安全運転管理についての心構え
- 交通安全教育に必要な知識
- 交通事故と賠償事業所における実践事例
法定講習は警察署の管轄区域ごとに実施されるため、講習日程は都道府県によって異なるので注意しましょう。
なお、代理受講は認められていません。
受講しなかった場合の罰則は特にありませんが、必ず安全運転管理者本人が受講してください。
安全運転管理者等の変更・解任
安全運転管理者等を変更または解任する場合も、届出が必要です。
前任者の解任手続と後任者の選任手続に関する届出を、管轄する警察署の交通課へ届出をしてください。
手続きの書類は、変更または解任後15日以内に提出することを忘れないようにしましょう。
安全運転管理者等が解任される事例は以下を参考にしてください。
- 自動車の台数が基準以下になった場合
- 事業所が別の警察署管内に移転および事業所を閉鎖した場合
- 安全運転管理者等が資格要件を満たしていない場合
- 職責を果たしてない、または違反行為があった場合
公安委員会が安全運転に関する管理を怠っていると判断した場合、安全運転管理者等の解任を命ずることも可能です。
解任命令を受けた管理者は解任日から2年間を経過しないと、再び安全運転管理者の資格を与えられないので注意してください。
事業者に関する情報の変更
所在地の変更や自動車の台数など事業所に関する情報に変更があった場合にも、届出が必要です。
変更を証明する書類と一緒に、届出書類を管轄の警察署に提出しましょう。
安全運転指導の業務効率化を目指すならeラーニングがおすすめ
交通事故を予防するためには、日頃から従業員の交通安全に対する意識を高める必要があります。
効率的に交通安全に関する知識や法令を学習するなら、場所や時間を問わず受講できるeラーニングを活用しましょう。
その中でも「JAF交通安全トレーニング」は、JAFが長年培ってきた交通安全ノウハウを従業員向けに配信しているのでおすすめです。
安全運転に関する知識や運転者としての心構えなど、短時間で学べる実践的なコンテンツが盛り沢山です。
安全運転管理者には専用のアカウントも発行できるので、従業員の学習結果と進捗状況を常に確認できます。
複雑になりがちな管理業務も可視化でき、個別フォローも行えるので、管理者業務の負担軽減にも役立ちます。
まとめ:安全運転管理者の選任は車両台数により異なるので注意しよう
安全運転管理者の選任は、事業所が使用する自動車の台数によって決まります。
20台以上の自動車を使用している事業所等は、安全運転管理者とは別に副安全運転管理者の選任が必須です。
届出書類や提出方法は、事業所がある地域を管轄する警察署によって異なります。
安全運転管理者を選任しなかったり、届け出を忘れたりすると罰則があるので注意が必要です。
不明点や疑問点は警察署に問い合わせるなど、適切な対応を心がけましょう。