近年において、交通事故による死傷者は減少の傾向を見せています。しかし、依然として年間数千人もの方が亡くなっており、事故防止への取り組みは重要な課題です。
安全運転管理者制度は、事業者が自動車の使用に伴う交通事故の防止を目的とした制度です。
しかし、事業を営む企業の中には「安全運転管理者の選任は必要ないのではないか」と、疑問を感じることもあるのではないでしょうか。
この記事では「安全運転管理者の必要性を判断するための基準」と「導入するためのコスト」「コストを抑えながら効果的な安全運転対策をおこなう方法」について解説します。
安全運転管理を効果的におこなう方法もお伝えしていますので、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
安全運転管理者制度とは
道路交通法に基づき、一定台数以上の自動車を使用する事業所において安全運転の管理者を配置することを義務付けたのが、安全運転管理者制度です。
この制度の目的は、事業主と安全運転管理者の責任を明確化し、法令遵守の徹底と交通事故の防止を実現することです。
具体的には、安全運転管理者は、ドライバーへの教育や指導、運行計画の作成、車両の点検整備、事故発生時の対応など、安全運転に関する総合的な業務を担当します。
この制度により、事業者は安全運転に対する意識を高め、職場全体の安全な運行環境に寄与することができます。
安全運転管理者の要件
安全運転管理者・副安全運転管理者は、ともに一定の要件を満たしていなければなりません。
安全運転管理者 | 副安全管理者 |
20歳以上(副安全運転管理者が置かれる場合は30歳以上) | 20歳以上 |
自動車の運転の管理に関し、2年以上の実務の経験を有する者など | 自動車の運転の管理に関し1年以上の実務の経験を有する者など |
安全運転管理者の主な業務
安全運転管理者に課せられる主な業務には、以下のようなものがあります。
引用:安全運転管理者制度の概要
- 運転者の状況把握
- 安全運転確保のための運行計画の作成
- 長距離、夜間運転時の交代要員の配置
- 異常気象時等の安全確保の措置
- 点呼等による過労、病気その他正常な運転をすることができないおそれの有無の確認と必要な指示
- 運転者の酒気帯びの有無の確認(目視等で確認するほか、アルコール検知器を用いた確認を実施)
- 酒気帯びの有無の確認内容の記録・保存、アルコール検知器の常時有効保持
- 運転日誌の備え付けと記録
- 運転者に対する安全運転指導
安全運転管理者の選任は、事業における交通事故の防止を目的とした重要な制度です。対象事業所は安全運転管理者を適切に選任し、その業務の円滑な遂行が求められます。
安全運転管理者を選任した際は、選任した日から15日以内に都道府県公安委員会への届出が必要です。
※参照:安全運転管理者制度の概要│警視庁
安全運転管理者が必要ないケース
安全運転管理者は、事業者が業務で使用する自動車の安全運転を確保するために選任された責任者です。
しかし、すべての事業者に選任義務があるわけではなく、必須ではないケースもあります。
ケース1:マイカー通勤のみの場合
従業員が所有するマイカーを通勤のみに使用している場合は、たとえ台数が多くても安全運転管理者の選任義務はありません。
マイカー通勤は、車両の使用状況の管理監督ができないため、事業者の責任範囲外になります。
ケース2:リース車両・レンタカーを5台未満で使用する場合
リース車両やレンタカーを業務として使用している場合は、車両の名義に関係なく安全運転管理者選任の対象自動車として台数に数える必要があります。
5台未満であれば、安全運転管理者の選任は義務付けられていませんが、5台未満であっても安全運転対策は推奨されており、6台以上になると選任が必要です。
ケース3:白ナンバー車両を5台未満で使用する場合
白ナンバー車両は、5台未満であれば安全運転管理者の選任は必須ではありません。
ただし、5台未満であっても安全運転指導は有効で、定員11人以上の白ナンバーを使用している場合は安全運転管理者の選任対象です。
ケース4:運転管理者が配置されている場合
緑ナンバーの事業用自動車を管理する運行管理者が配置されている事業所においては、白ナンバー車両を5台以上使用していても安全運転管理者の選任は不要とされています。
運行管理者は、車両運行に関する管理監督をおこなう責任者です。
安全運転管理者とは異なる役割を担っているため、両方の選任は義務ではありませんが、安全運転対策の相乗効果は期待できます。
ケース5:その他のケース
1~4以外にも、安全運転管理者の選任が不要になるケースがあります。
- 自家用自動車を業務に使用しない場合
- 二輪車を10台未満使用する場合
- 農林水産業で使用する特殊自動車を使用する場合
特殊な業種・車両には独自の規定が適用される場合があるので、詳細については最寄りの陸運局に問い合わせが必要です。
安全運転管理者が必要かを判断する基準
一定規模以上の事業所において、事業者がおこなう自動車の安全運転の確保を目的として定められているのが「安全運転管理者制度」です。
しかし、安全運転管理者の選任はすべての事業所に義務付けられているわけではなく、選任するかどうかの基準には道路交通法に基づく条件があります。
必須条件
道路交通法に基づいて安全運転管理者の選任が義務付けられているのは、以下のいずれかに該当する事業所です。
- 乗車定員が11人以上の自動車を1台以上使用する事業所
- その他の自動車を5台以上使用する事業所
任意選任
必須条件を満たしていない事業所であっても、安全運転管理者を任意で選任できます。
任意選任には、以下のようなメリットがあります。
- 従業員の安全意識の向上
- 労務管理の効率化
- 企業イメージの向上
- 交通事故の防止による損害賠償リスクの低減
判断基準
必須条件を満たしていない事業所が、安全運転管理者を任意選任するかどうかを判断する際には、以下の要素を考慮することが重要です。
- 事業内容:自動車の使用頻度や運行距離、ドライバーの勤務時間帯など
- 過去の交通事故歴
- 従業員の安全意識
- 経営状況
判断フロー
以上を踏まえ、次の判断フローを参考に、安全運転管理者の必要性を判断できます。
- 必須条件を満たしているか確認する
- 任意選任のメリットを検討する
- 判断基準に基づき、総合的に判断する
事業所が安全運転管理者の選任義務を満たしているか確認するには、最寄りの警察署に問い合わせるか、各都道府県の警察本部Webサイトに掲載されている「安全運転管理者制度」のページを確認しましょう。
安全運転管理者制度は事業者による自主的な安全運転の取り組みを促進するものであり、法令遵守はもとより、事業所の社会的責任を果たすためにも重要です。
安全運転管理者を導入するためのコスト
安全運転管理者以外にも、安全運転にかかる人員の導入には、導入する対策の種類や規模、導入する企業の状況によって大きく異なりますが、一般的には以下のような項目に分類できます。
人件費
人件費は安全運転導入における、最も大きなコスト項目の一つです。
安全運転管理者 | ・安全運転管理者講習の受講料(安全運転管理者4,500円、副 安全運転管理者3,000円) ・安全運転管理者の給与 ・資格取得費用 ・研修費など 安全運転管理者の経験や資格、担当する事業規模によってコストが変動 |
安全教育担当者 | ・安全教育を実施する担当者の給与(教育教材や研修先を手配する工数) ・研修費用 ・外部講師を招請する場合は講師料など |
安全パトロール担当者 | ・安全パトロールを実施する担当者の給与 ・交通費など パトロール頻度や対象エリアによってコストが変動 |
それぞれを担当する人数や給与水準によって、資格取得費用や研修費、交通費などのコストがかかるので、予算に合わせた運用が重要です。
事務経費
事務経費には、安全運転に関する書類作成、資料作成、郵送料などの費用が含まれます。
書類作成・印刷費用 | 安全運転管理規定、安全教育資料、安全運転マニュアルなどの作成費用・印刷費用 |
郵送料 | 安全運転に関する書類を郵送する際の費用 |
事務用品費 | 筆記用具、ファイル、プリンター用紙など |
書類作成や印刷物の量、郵送する書類の頻度や件数、事務用品の使用量に応じたコストが必要です。
外部委託費
専門知識やノウハウが必要な業務を外部に委託する場合には、外部委託費が発生します。
業務内容や専門機関の規模や実績、委託機関によっても異なるので、事前に余裕を持った予算の確保が必要です。
安全運転診断費用 | 専門家に事業所の安全運転体制を診断してもらう費用 診断結果に基づいて改善策を提案してもらえる |
安全運転教育研修費用 | 外部講師による安全運転教育研修の費用 |
安全運転コンサルティング費用 | 安全運転に関する専門家にコンサルティングを依頼する費用 安全運転導入の全体的な計画作成や指導を受けらる |
その他 | ・安全運転設備の購入費用:ドライブレコーダー車載カメラなど ・安全運転車両の購入費用:安全運転機能を搭載した車両を購入する場合 ・保険料:安全運転導入によって、保険料が割引になる場合もある |
安全運転導入コストは、全体のコストを合計して算出します。
このほかにも予期せぬ費用が発生する可能性があるので、ある程度余裕を持った予算を確保しておきましょう。
コストを抑えながら安全運転管理を効果的に実施する
安全運転管理は、交通事故撲滅に向けた企業の重要な課題です。
しかし、安全運転管理を導入しようとすると、時間や人件費などのコストがかかります。
ここでは、コストを抑えながら、安全運転管理を効果的に実施する方法について、4つの項目別に詳しく解説します。
外部委託
専門知識や経験を持つ外部企業に安全運転管理業務を委託し、自社で抱えるコストを削減できます。
外部に委託可能なできる安全運転管理業務
安全運転管理体制の構築・運用 | ・安全運転管理規定の作成 ・安全運転委員会の運営 ・安全運転指導員の選任・教育 ・運転者教育の実施 |
事故原因分析・再発防止策の策定 | ・事故発生時の状況調査 ・事故原因分析 ・再発防止策の策定・実施 |
安全運転データの分析 | 運転日報やドライブレコーダーの映像などを分析し、安全運転指導や運行管理に役立てる |
安全運転講習の実施 | ・安全運転講習の企画・運営 ・講師の派遣 |
外部委託を行う際には、自社のニーズに合った業者を選ぶことが重要です。
業者の実績やノウハウ、費用などを比較検討し、最適な業者を選びましょう。
ICTツールの活用
安全運転管理を支援するツールを活用して業務を効率化し、コスト削減に繋げることができます。
具体的なツールには、以下のようなものがあります。
ドライブレコーダー | ・運転状況を記録することで、事故発生時の状況が把握できる ・危険運転の傾向を分析し、効率的な安全運転指導ができる |
GPS運行管理システム | ・車両の運行状況をリアルタイムで把握できる ・過労運転や速度超過などの危険運転の防止に役立つ |
安全運転指導システム | ・安全運転に関するeラーニングや講習をオンラインで実施 ・時間や場所にとらわれないので、効率的に安全運転教育をおこなえる |
ICTツールを導入する際には、自社のニーズに合ったツールを選ぶことが重要です。
ドラレコや運行管理システムで、危険運転者を抽出しても、教育にかかるコストは発生します。
JAFトレなど安全運転指導システムとの併用で、更なる人件費の削減と安全運転支援環境の充実が図れます。
スマホやタブレットでの受講も可能
社内教育の充実
安全運転意識の向上には、社内教育が不可欠です。
安全運転に関する知識や技能を習得させることで危険運転を防止し、事故を減らすことにつながります。
効果的な社内教育には、以下のようなものが考えられます。
道路交通法の厳守 | 道路交通法の基本的なルールや、違反行為の罰則などを理解する |
安全運転の心構え | 安全運転の重要性や、危険運転の防止策などを理解する |
事故防止対策 | 事故発生時の対応方法や、事故防止のための具体的な対策などを理解する |
社内教育は、定期的に実施することが重要です。
講義形式だけでなく、実習やロールプレイングなどを取り入れることで、より効果的な教育を実施しましょう。
『JAF交通安全トレーニング』は豊富な教材をご用意していますので、さまざまなシチュエーションで学んでいただけます。
安全運転啓発のノウハウを効率的に学べるので、定期的な研修におすすめです。
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安全運転意識の向上
安全運転意識の向上には、経営層のコミットメントが不可欠です。
経営層が率先して安全運転に取り組めば、従業員全体の意識も向上します。
効果的な安全意識の向上につながる取り組みには、以下のようなものがあります。
安全運転スローガンの作成・掲示 | 安全運転に関するスローガンを作成し、社内に掲示して安全運転への意識を高める |
安全運転コンテストの実施 | 安全運転に関するコンテストを実施して、従業員の安全運転への意識を高める |
安全運転優良者の表彰 | 安全運転に貢献した従業員を表彰して、ほかの従業員のモチベーションを高める |
安全運転意識の向上は一朝一夕にできるものではないので、継続的な取り組みが重要です。
安全運転管理者は解任されることもある
事業所が所有する自動車の安全運転を確保するための重要な役割を担うのが、安全運転管理者です。
しかし、一度選任された場合やも選任基準を満たさなくなった場合以外にも、業務怠慢や不正行為など一定の事由があった場合は、解任されることもあります。
- 職務怠慢:安全運転管理計画の作成や安全運転教育の実施など、本来の職務を怠った場合
- 不正行為:虚偽の報告書を作成したり、安全運転管理者講習の受講を怠ったりした場合
- 能力不足:安全運転管理者として必要な知識や技能を備えていないと判断された場合
- 不祥事:職務中に酒気帯び運転や業務上の横領などの不祥事を起こした場合
いずれの場合も、事業所の安全運転体制に大きな影響を与える可能性があるので、解任をおこなう場合は、十分な理由に基づいた慎重な判断が求められます。
まとめ:安全運転管理者の必要性を理解して効果的な活用を
安全運転管理者は、事業所の交通事故を防止するための重要な役割を担っています。
安全運転管理者を選任し「事故による人的・物的な損害の防止」や「企業イメージの向上」「労務管理の充実」「法令遵守」などのメリットもあります。
自動車の保有台数や状況によって必要ないケースもありますが、安全運転は事業経営だけでなく、社会全体にとっても重要な課題です。
安全運転管理制度を活用し、交通事故ゼロを目指しましょう。
JAFトレでは、企業ドライバーとしての心構えや安全運転のために必要な知識などを効果的に学習できるので、ぜひ自社の安全運転活動にお役立てください。
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