飲酒運転(酒気帯び・酒酔い)の会社への責任・従業員への処分とは?

会社にとって従業員の飲酒運転(酒気帯び運転・酒酔い運転)は、決して他人事ではありません。

飲酒運転は個人の人生を狂わせるだけでなく、会社の信用を失墜させ、事業継続をも脅かす重大な問題です。

本記事では、飲酒運転による会社の責任や従業員への処分、飲酒運転防止策について解説します。

会社が知っておくべき対応と、飲酒運転を未然に防ぐための徹底したリスク管理について理解を深め、 会社を守り、信頼を築くための一歩を踏み出しましょう。

アルコールチェック義務化に備える!

飲酒運転の種類と罰則

飲酒運転の種類と罰則

飲酒運転には「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」があります。

以下ではそれぞれの概要と罰則、そして人身事故を起こした場合について解説します。

酒酔い運転

酒酔い運転とは、アルコールの影響により正常な運転ができない状態で運転することです。

血中アルコール濃度に関わらず、酩酊状態にあれば酒酔い運転とみなされます。

酒酔い運転の罰則は以下のとおりです。

  • 違反点数:35点
  • 免許取消:欠格期間3年
  • 罰則:5年以下の懲役または100万円以下の罰金

酒酔い運転は著しく運転能力を低下させ、重大な事故につながる危険性が非常に高い行為です。

出典:飲酒運転には厳しい行政処分と罰則が!|警視庁

酒気帯び運転

酒気帯び運転とは、呼気中のアルコール濃度が一定以上検出された状態で車両を運転する行為を指します。

具体的には、呼気中のアルコール濃度が0.15mg/L以上の場合に該当します。

酒気帯び運転の罰則は以下のとおりです。

呼気中のアルコール濃度違反点数免許罰則
0.15mg/L以上0.25mg/L未満13点免許停止:期間90日3年以下の懲役または50万円以下の罰金
0.25mg/L以上25点免許取消:欠格期間2年3年以下の懲役または50万円以下の罰金

酒気帯び運転はアルコールが脳や体に影響を与え、認知能力や判断能力を低下させ、事故を引き起こす可能性を高めます。

出典:飲酒運転には厳しい行政処分と罰則が!|警視庁

飲酒運転で人身事故を起こした場合

飲酒運転によって人身事故を起こした場合、前述した罰則に加えて、さらに重い刑事責任が問われることになります。

具体的には、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷罪または過失運転致死傷罪)が適用される可能性があります。

  • 危険運転致死傷罪:飲酒または薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、人を死傷させた場合に適用される罰則(負傷:15年以下の拘禁刑、死亡:1年以上の有期拘禁刑)
  • 過失運転致死傷罪:運転に必要な注意を怠り、人を死傷させた場合に適用される罰則(7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)

また、被害者への損害賠償責任も発生し、多額の賠償金を支払う必要が生じることもあります。

飲酒運転で会社が問われる責任

飲酒運転で会社が問われる責任

従業員が飲酒運転を起こした場合、会社には以下の責任が生じます。

  • 刑事責任:車両の提供者、酒類の提供者、車両の同乗者にも生じる可能性がある
  • 民事責任:従業員が飲酒運転により被害者を死傷させた場合、会社にも生じる可能性がある
  • 行政責任:従業員が飲酒運転で免許取消や免許停止などの行政処分を受けた場合、会社は車両の使用停止などの行政処分を受ける可能性がある
  • 社会的責任:飲酒運転は会社の信用を大きく損なう行為で、取引先や顧客からの信頼を失う可能性がある

このように、従業員の飲酒運転は会社にさまざまな責任を発生させる可能性があります。

会社はこれらの責任を十分に理解し、飲酒運転防止のための対策を徹底する必要があります。

飲酒運転をした従業員に対する会社からの処分

飲酒運転をした従業員に対する会社からの処分

従業員が飲酒運転をしてしまった場合、会社は従業員に対して適切な処分をおこなう必要があります。

しかし、飲酒運転をした従業員に対する会社の処分について定めた法律はありません。

そのため、自社の就業規則に基づいて対応しなければなりません。

懲戒解雇

懲戒解雇は、会社がおこなう処分の中で最も重い処分です。

従業員の飲酒運転が会社の信用を著しく傷つけ、業務に重大な支障をきたした場合など、その責任が非常に重い場合に適用されます。

ただし、懲戒解雇は以下の要件を満たす場合でないと認められないので、注意してください。

  • 懲戒解雇に関する条件や規定が就業規則に記載されていること
  • 記載された懲戒解雇の内容が、従業員に対して十分に伝達されていること
  • 該当する従業員の行為が懲戒解雇に相当し、その処分が妥当であること
  • 懲戒解雇の決定に至るまでに適正な手続きが実施されていること

懲戒解雇の場合はその場での解雇が認められており、就業規則の定めにより退職金が減額、または不支給になることもあります。

その他の処分

飲酒運転に対する処分は、懲戒解雇だけではありません。

例えば、以下のような処分があります。

  • 戒告:口頭または書面で注意し、将来を戒める処分
  • 譴責:始末書を提出させ、将来を戒める処分
  • 減給:給与を減額する処分(労働基準法に制限あり)
  • 出勤停止:一定期間の出勤を停止する処分
  • 降格(降職):役職や職位を下げる処分
  • 諭旨解雇:退職を勧告し、従業員がこれに応じた場合に解雇する処分

会社は飲酒運転をした従業員の状況、過去の懲戒処分の有無、反省の態度などを考慮し、適切な処分を決定する必要があります。

重要なのは、処分が就業規則に定められた範囲内でおこなわれることです。

一度減給処分としたあとに同じ飲酒運転に対して懲戒解雇とすることは二重処罰となり、不当と判断される可能性があります。

従業員の飲酒運転を会社が処分する際のポイント

従業員の飲酒運転を会社が処分する際のポイント

従業員が飲酒運転を起こした場合、会社は社会的責任を果たすとともに、再発防止のために適切な処分をおこなう必要があります。

しかし、感情的な判断ではなく、客観的な事実に基づき、就業規則に則った処分をおこなうことが重要です。

ここでは、会社が適切な処分をおこなうためのポイントを解説します。

就業規則に処分の内容を規定する

飲酒運転に対する処分を適切におこなうためには、就業規則に明確な規定を設けておくことが不可欠です。

どのような場合に、どのような処分をおこなうかを具体的に記載することで、従業員への抑止力となるとともに、処分を決定する際の根拠となります。

就業規則に規定がない場合は処分が無効となる可能性もあるため、弁護士などの専門家と相談しながら適切な規定を設けましょう。

対象事案の事実関係を調べる

飲酒運転による処分を決定する前に、事実関係を詳細に調査することが重要です。

以下の点について、客観的な証拠に基づいて確認する必要があります。

  • 飲酒の有無と量:警察の記録や本人の供述などから、飲酒の有無と量を特定する
  • 運転時の状況:運転していた時間、場所、事故の有無、事故の程度などを確認する
  • 飲酒に至った経緯:業務との関連性、会社の指示による飲酒の有無などを確認する
  • 過去の違反歴:過去に飲酒運転や交通違反の経歴がないかを確認する

調査の結果、飲酒運転の事実が確認できた場合には、本人に弁明の機会を与え、その内容も十分に考慮した上で処分を決定する必要があります。

会社によっては就業規則に懲戒処分決定までのプロセスを規定しているケースがあります。

懲戒委員会を設置して複数人で検討する

従業員に対する懲戒処分は経営者の一存で決定するのではなく、懲戒委員会などの組織で、複数人で慎重に検討することが望ましいです。

複数人で検討することで、多角的な視点から処分内容を検討できます。

以下の点について議論し、処分内容を決定しましょう。

  • 就業規則の規定:該当する規定を確認し、適用範囲を検討する
  • 事実関係の調査結果:調査結果を詳細に分析し、客観的な証拠に基づいて判断する
  • 過去の事例との比較:過去の同様の事例と比較し、処分内容の公平性を確保する
  • 弁明の内容:本人の弁明内容を十分に考慮し、情状酌量の余地がないかを検討する

懲戒委員会の決定は記録として残し、後日、処分内容の妥当性を検証できるようにしておくことが重要です。

従業員の飲酒運転防止のための対策

従業員の飲酒運転防止のための対策

最後に、従業員の飲酒運転を防止するための具体的な対策について解説します。

交通安全教育の実施

飲酒運転防止には、従業員の意識改革が不可欠です。

研修を通じて飲酒運転の危険性、法的責任、会社への影響などを理解させ、飲酒運転をしないという意識を根付かせることが重要です。

研修は一方的な講義形式だけでなく、グループワークやディスカッションを取り入れることで、参加者の主体性を高め、より効果的な学習を促せます。

また、定期的に研修を実施することで、飲酒運転防止に対する意識を維持・向上させることが重要です。

安全運転_研修_アイキャッチ

アルコールチェック体制の構築

2022年4月より、白ナンバー車両を使用する会社でもアルコールチェックが義務化されました。

つまり、バスやタクシーなどの事業用自動車だけでなく、自家用自動車を使用する会社にも適用されます。

アルコールチェック義務化に対応するためには、体制構築に加え、従業員への周知徹底も重要です。

アルコールチェックの目的や方法、違反した場合の処分などを明確に伝え、従業員の理解と協力を得ましょう。

なお、アルコールチェックに関しては以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

社内規定の見直しと周知徹底

飲酒運転に関する社内規定は、明確かつ具体的に定める必要があります。

曖昧な表現や解釈の余地がある規定は、従業員の誤解を招き、飲酒運転を誘発する可能性があります。

社内規定には、以下のような項目を盛り込むことが望ましいでしょう。

  • 飲酒運転の禁止(業務中、業務時間外を問わず)
  • 飲酒運転をした場合の処分(懲戒解雇、減給、出勤停止など)
  • 飲酒運転を幇助した場合の処分
  • 二日酔い運転の禁止
  • 運転代行サービスの利用推奨
  • 飲酒運転に関する相談窓口

なお、社内規定は定期的に見直しをおこない、社会情勢や法改正に合わせて改訂する必要があります。

また、従業員への周知徹底も重要です。

社内イントラネットへの掲載、研修での説明、ポスターの掲示など、さまざまな方法で周知を図りましょう。

アルコールインターロックの導入

アルコールインターロックとは、車両のエンジン始動前にドライバーの呼気を検査し、アルコールが検出された場合にエンジンをロックする装置です。

飲酒運転を物理的に防止する効果があります。

アルコールインターロックのメリットは以下のとおりです。

  • 飲酒運転の防止
  • 従業員の飲酒運転防止意識の向上
  • 会社の安全管理体制の強化

アルコールインターロックの導入費用は、車両の種類や台数によって異なります。

導入の際は費用対効果を検討し、自社に最適なシステムを選ぶことが重要です。

アルコールインターロックとは?飲酒運転を阻止する装置を徹底解説

まとめ:会社全体で飲酒運転防止に取り組もう

まとめ:会社全体で飲酒運転防止に取り組もう

飲酒運転は、自身や周囲の安全を脅かすばかりか、会社の社会的信用を大きく損ない、事業継続にも影響を及ぼす可能性があります。

会社は従業員の飲酒運転を防止するために、研修の実施や社内規定の見直しなど、さまざまな対策を講じる必要があります。

万が一飲酒運転が発生してしまった場合には、事実関係を迅速に調査し、就業規則に基づいた適切な処分をおこなうことが重要です。

従業員一人ひとりが飲酒運転の危険性を認識し、会社全体で防止に取り組むことで、信頼を守り、持続可能な事業運営を目指しましょう。

なお、アルコールチェック義務化について詳しく知りたい場合は、以下の資料「5分でわかりやすく解説!アルコールチェック義務化のすべて」をご覧ください。

アルコールチェック義務化に備える!

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アルコールチェック義務化のすべて

アルコールチェックの義務化の概要をわかりやすく説明しながら、企業として対応が必要になることを解説していきます。添付してあるアルコールチェックの記録簿テンプレートをご活用ください。