梅雨はタイヤの水上滑走現象が起きやすく危険な季節!ハイドロプレーニング現象の原因と事故防止策 

雨の日が多くなる梅雨の時期がやってきました。

雨が降れば、運転中の視界が悪くなることはもちろんのこと、雨音で車外の音が遮断され交通状況の把握が遅れたりするなど、長雨の続く梅雨は交通事故のリスクが高まる季節ともいえます。

さらにこの時期には、タイヤが濡れた路面から浮き上がり、気づかぬうちにハンドルやブレーキが効かなくなる「ハイドロプレーニング現象」が発生しやすくなります。

この現象は、高速道路をはじめ一般道でも起こりやすく、雨量増加によって深い水たまりが発生しやすくなる梅雨時期には特に注意が必要です。

この記事では、ハイドロプレーニング現象のメカニズムを解説し、梅雨の交通事故を防ぐ運転方法や日常点検のポイントなどを紹介していきます。

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ハイドロプレーニング現象とは?

「ハイドロプレーニング現象」とは、車が濡れた路面を走行した際、タイヤと路面の間に水が入り込むことで車体が浮いた状態になり、ブレーキやハンドル操作が効かなくなる現象のことを指し、「タイヤの水上滑空現象」とも訳されます。

車の走行時は通常、路面に水がたまっている状況でも、タイヤの溝によって接地面から水を排出することが可能です。

排水の仕組みが正常に働くことで、車は雨の日でも路面との摩擦力を確保し、安定した走行を可能としています。

しかし、深い水たまりの上を走行した時や、路面上に水が少ない時でも一定以上のスピードで走行した時にはタイヤの排水が追い付かず、タイヤと路面間に水膜ができることがあります。

すると、車体は水膜によって徐々に浮き上がり、この状態に陥っている間「走る・曲がる・止まる」といった運転に必要な全ての制御が効きづらい、あるいは全く効かなくなってしまいます。

この現象は、特に高速走行時に起こりやすいとされ、重大事故につながる危険があります。

出典:安全に乗るために | 一般社団法人 日本自動車タイヤ協会 JATMA

ハイドロプレーニングの意味と英語表記

ハイドロプレーニングは英語で「Hydroplaning」と表記され、「水(hydro)」+「滑走する(planing)」が語源で、「水の上を滑るように進む」という意味です。

また、ラテン語で水を意味する「aqua」から、アクアプレーニング現象(Aquaplaning)と呼ばれることもあり、どちらも同じ現象を指します。

日本語では「水膜現象」「水上滑空現象」とも呼ばれます。

スタンディングウェーブ現象との違い

ハイドロプレーニング現象と混同されがちな事象のひとつに「スタンディングウェーブ現象」があります。

スタンディングウェーブ現象は、タイヤの空気圧が極端に低い状態で高速走行をした際、タイヤを横から見た状態で波状(ウェーブ)に変形する現象を指します。

この現象が発生すると、変形によってタイヤの内部温度が上昇し、最終的に破裂(バースト)してしまいます。

特に、重い荷物を積んだ高速道路走行時には、タイヤの変形が大きく繰り返されるためスタンディングウェーブ現象が起こりやすくなります。

一方、ハイドロプレーニングは路面とタイヤの間に水膜が存在することで、タイヤが路面に接地しないために起こる滑空現象です。両者ともタイヤに関係する現象であり重大事故に直結する危険性はありますが、原因も影響も異なります。

出典:空気圧不足でも起きるタイヤのバースト(JAFユーザーテスト) | JAF

ハイドロプレーニング現象が梅雨に多発する理由

梅雨の時期は、長雨や大雨によって路面が水浸しになる日が多くなります。

このような状況下では、タイヤと路面の間に入り込む水の量も増え、ハイドロプレーニング現象が発生しやすい状態が続くことで交通事故のリスクが高まるといえるでしょう。

ここでは、梅雨時期特有の危険要因を具体的に見ていきます。

梅雨の路面状況と危険度

梅雨の時期は連日の雨により、路面に水がたまりやすくなります。

特に排水性の悪い道路では、水たまりが長時間残ることで車が水の上を滑るように走行してしまい、車の制御に必要不可欠なタイヤと路面間の摩擦力が失われるため、注意が必要です。

ブレーキの利きが悪くなる、ハンドルの操作が効かなくなるなど、運転リスクが高くなります。

雨天時は事故件数が増加傾向

首都高速道路株式会社の統計によると、天候別の1時間あたりの事故件数は、晴天時と比べ雨天時の施設接触事故件数が7倍、死傷事故件数が4倍も増加しているといったデータが明らかになっています。

日本全国を平均とした年間降水日数は110日から120日なので、1年の約1/3もの期間の事故発生率が格段に高くなっていることがわかります。

そのため、雨の日が多くなる梅雨の時期には、ハイドロプレーニング現象などによる事故の危険性が高くなると考えられるのです。

出典:雨の日に事故が多発しています|首都高ドライバーズサイト

ハイドロプレーニング現象対策|実践的な梅雨の事故防止策

そもそも、雨が降れば路面が滑りやすくなり視界も悪化するため、ドライバーはより安全への配慮が必要になります。

そこに、ハイドロプレーニング現象が重なって発生すれば、制御不能によって重大事故に発展する危険性があります。

ここでは、取り返しのつかない重大事故を防ぐために行える、梅雨時期の実践的な事故防止策を解説していきます。

梅雨時期でもタイヤの溝点検と空気圧管理は定期的に

タイヤが摩耗してくるとタイヤの溝が浅くなっていき、雨天時にタイヤと路面の間の水をかき出す力(排水性能)が低下することでスリップを引き起こしやすくなります。

保安基準でもタイヤの溝の使用限度は1.6mmと定められているので、定期的にタイヤの溝を点検し、使用限度に近ければ交換しましょう。

また、タイヤの空気圧が規定値よりも極端に低い場合も、タイヤがつぶれるような形になり接地面が広くなるため、水がタイヤの溝から外へ排出されるまでに時間を要し、ハイドロプレーニング現象を引き起こす原因となり得ます。

タイヤは正常な状態でも自然に空気が抜けてしまうものです。

約1ヶ月で5~10%程度空気圧が低下してしまうので、1ヶ月に一度は空気圧の点検をしましょう。

出典:タイヤの点検を自分でやってみよう!現役整備士がポイントを徹底解説|JAF交通安全トレーニングコラム

雨の日の速度を抑えた運転|十分な車間距離を保つコツ

雨天時に路面が滑りやすいことはここまでも説明してきましたが、では実際どの程度滑りやすくなるのか、瞬時に答えられる方は少ないのではないでしょうか。

具体的に、雨天時は晴天時と比較して、制動距離が“2倍”程度伸びるとされています。

そのため、もしも雨天時に晴天時と同じ速度で走行する場合には、前走車との車間距離を2倍長く保ちましょう。

安全な車間距離の目安としては、晴天時が「2秒」、雨天時は「4秒」です。

これは、前の車が通過した目印(電柱や看板など)を基準に「ゼロゼロイチ、ゼロゼロニ」と数え、自分の車がその目印を通過するまでの時間で車間距離を測る際の目安です。晴れの日は2秒、雨の日はこの時間を2倍の4秒にして安全を確保しましょう。

また、雨天時は速度を晴天時と比べて約20%控えてみることも有効です(例:晴天時50km/hなら雨天時40km/h)。

万が一スリップしたとしても、十分な車間距離を保つことができるのでブレーキやハンドル操作に余裕が生まれ事故の回避率が向上するので、ぜひ心がけてみてください。

出典:雨の日の安全運転3つの心がけ|JAF Mate Online

雨のスタッドレスタイヤには注意が必要

「雪に強いスタッドレスタイヤなら雨にも強いだろう」という認識は誤りです。

スタッドレスタイヤは、雪道や凍結路といった低温下でも柔軟性を保ちグリップ力を確保しています。

そのため、雨の日にブレーキをかけるとタイヤがたわみやすく制動距離が伸びやすい性質を持っています。

また、スタッドレスタイヤ特有の細かい溝(ギザギザした溝:サイプという)が効率的に路面の水を排出する機能を持っておらず、高速道路などではハイドロプレーニング現象を誘発する原因となります。

スタッドレスタイヤは冬季の特に雪上や凍結路の走行に特化したタイヤのため、雨の日の安全性能は夏タイヤに劣ってしまいます。

梅雨の時期に入る前には、必ずスタッドレスタイヤから夏タイヤに交換しておくことをおすすめします。

まとめ:日ごろの安全意識・行動が梅雨の事故防止につながる

この記事では、ハイドロプレーニング現象の原因と梅雨の事故防止策について解説していきました。

ハイドロプレーニング現象は、雨天時に発生する現象で、重大事故につながる可能性があるリスクのひとつです。

長雨の続く梅雨時期は、タイヤの状態や車の速度、車間距離といった様々な要因によって事故を引き起こしやすくなります。

それらを根本的に防止するために「タイヤの点検と空気圧管理」といった基本を徹底することや、「速度を控え車間距離確保」を意識して危険回避力を高めていきましょう。

さらに、「雨の日はいつもより1段階慎重に」を心がけるなど、自分と周囲の安全を守る責任ある行動がドライバーには求められます。

安全行動は習慣から生まれますが、「JAF交通安全トレーニング(JAFトレ)」を活用することで、安全管理に役立てることが可能です。

JAFトレでは、雨の日に関する安全運転方法や車の点検方法といった技術的な講座など、JAFが長年培ってきた交通安全のノウハウがふんだんに盛り込まれた教材を多数用意しています。

これらはすべてe-ラーニングコンテンツとしてインターネット上で配信されており、すき間時間を利用してパソコンはもちろん、スマホやタブレット使っていつでも受講が可能です。

交通安全に今更ということはありません。これを機会にJAFトレを活用して運転を見直してみませんか?

安全運転について習慣的に学び直すことで、安心して梅雨の事故を乗り切りましょう!

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毎日の学習で交通安全意識の向上へ。通勤・通学・あらゆる事故を減らしたい。そんな想いからJAFが長年培ってきた交通安全のノウハウをeラーニング「JAF交通安全トレーニング」として教材化しました。

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イイダユウジ
高校在学時、アルバイトでこつこつ貯めた資金で「S13シルビア」を愛車に迎えたのを機に、車に目覚める。進学先で自動車整備を学び「国家1級整備士」資格を取得。卒業後はカーディーラーに就職し、車の基礎と社会の厳しさを叩き込まれる。現在は、個人で中古車販売・整備を主に手掛ける一方で、その経験・知識を最大限活かし、交通安全普及のための広報活動に勤しむ。整備士の目線で独自の切り口を模索するなど、幅広く活動している。