企業が所有する車両は、大切な資産です。
日頃から防犯対策はしっかりしているつもりでも、思いがけず車両盗難の被害に遭ってしまうこともあります。
この記事では、企業にとって大きな損失となる車両の盗難問題について、車両盗難の手口から効果的な対策方法まで幅広い情報をまとめました。
最新の防犯機器を使った対策を含め、効果的なセキュリティ対策や日々の習慣の見直しなど多角的な視点から車両盗難を防ぐための対策を解説しているので、これからの防犯対策に役立ててください。
目次
車両盗難の現状
警察庁が令和6年3月に発表した『生活安全企画課 自動車盗難等の発生状況』によると、
自動車盗の認知件数は、平成15年(6万4,223件)のピーク時から大幅に減少しており、令和5年は5,762件とピーク時から1割以下にまで減少しています。検挙件数については、平成17年(1万4,898件)以降、減少傾向にありますが、一方で、検挙率については、令和5年は42.7パーセントになっており、約4割が検挙されています。
出典:警察庁
と、報告されています。
車両盗難の発生場所は全体の約4割が一般住宅であるものの、駐車場や道路上などでの盗難数も多く、企業が所有する車両も例外ではありません。
車両盗難の実態
車両盗難の発生件数はやや減少傾向ではあるものの、1件あたりの保険金の支払金額が減少することはなく、高額な車や特定の部品が狙われるケースが増えています。
出典:一般社団法人 日本損害保険協会『第24回 自動車盗難事故実態調査結果』
盗まれた車は多くの場合、解体されてほかの車に組み込まれたり中古部品として販売されたりしているので、被害車両を発見するのは非常に難しい状況です。
警察の捜査を逃れるためにナンバープレートを盗んでほかの車両に付け替えて犯罪に利用する、犯罪組織が関与して不正に海外輸出しているなどのケースもあり、組織の資金源になっている可能性も指摘されています。
車両盗難の手口
近年、車両盗難手口はますます巧妙化しており『ガラスを割って鍵を開ける』『ドアをこじ開ける』など、従来の手法だけでなく、電子機器を悪用した新たな手口も増えています。
<CANインベーダー>
CANインベーダーは、車両に搭載されたコントローラー・エリア・ネットワーク(CAN)に不正アクセスし、エンジン・コントロール・ユニット(ECU)などの電子制御ユニットを操作することで、車両のロック解除やエンジン始動をおこなう電子的な車両盗難手法です。
最新の車両はコンピューター制御されているため、システムに不正アクセスされて車両が盗まれるリスクが高くなっています。
<リレーアタック>
リレーアタックと呼ばれるこの手口は、スマートキーから常に発信されている微弱な電波を特殊な機器を使って盗み出す手法です。
盗まれた電波は中継器と呼ばれる機器によって中継され、スマートキーが車両のすぐそばにあるかのように偽装されます。
スマートキーの電波は目に見えないため、防犯対策が難しく、発見も遅れがちです。
<コードグラバー>
コードグラバーは、ここ数年で増加傾向にある新たな手口で、車の施錠・解錠をおこなうキーレス機能の作動時にスマートキーが発するIDコードを盗み出すというものです。この情報を悪用することで、ドアの解錠からエンジンの始動までができるようになり、車上荒らしや車両盗難などの犯罪に利用されています。
狙われやすい車両とは
盗難で狙われやすい車両には、高級車市場で人気の『レクサス』『アルファード』などがあります。
ほかにも、オフロード性能の高い『ランドクルーザー』や燃費性能に優れた『プリウス』も、それぞれに高価な部品が含まれており、盗難被害に遭いやすい車種です。
出典:警察庁
特に『プリウス』はハイブリッドカーならではの部品が高く売れるため、海外へ持ち出されるケースも増加しています。
近年製造された車両だけでなく、2000年以前の古い車種も窃盗の対象となっており、その傾向は広範囲に及んでいます。
普通車や軽自動車に加え、小型から大型までのトラックも被害に遭うケースが増加しています。
車両盗難を防ぐための対策
大切な車両を盗難から守るには、複数の対策法を組み合わせると、より高い効果が期待できます。
セキュリティシステムの導入や駐車場のセキュリティ強化といった、物理的な防犯対策はもちろんですが、貴重品を車内に置かない、鍵は必ず閉めるなどの社員の心がけも重要なポイントです。
どのような対策法があるのか、具体的に確認していきましょう。
セキュリティシステムの導入
防犯アラームやGPS追跡システム、イモビライザーなど、さまざまなセキュリティシステムを導入することで盗難を未然に防ぐことができます。
警報装置 | さまざまなセンサーが衝撃や振動を感知し、警報音を発することで周囲に異常を知らせるセキュリティシステム。 目的や用途に応じてさまざまな種類や機能を搭載したものがある。 |
イモビライザー | 車両の鍵と車両を制御するコンピューターが一致しないとエンジンがかからないようにする防犯装置。平成15年から国土交通省が関係省庁および関係団体と連携して普及促進策を講じている。 |
電波遮断ケース | スマートキーから出る電波を遮断する専用のケース。 携帯に便利なコンパクトなものも販売されている。 |
ハンドル固定器具・タイヤのホイールロック | 車を物理的に動かせなくするための防犯グッズ。 ほかにも専用工具がないと外せないナンバープレート盗難防止ボルトやホイールロックナットなどがある。 |
GPS機能付位置探査装置 | 車両が盗難被害にあった場合、リアルタイムで位置情報を確認できる装置。衝撃感知による映像記録、クラウド保存などの技術が搭載されているものもある。 |
リレーアタックへの対策
リレーアタックとは、車両のスマートキーが出す微弱な電波を特殊な機器で受信して、その車両が近くにあると勘違いさせてドアを開けてしまう盗難の手口です。
リレーアタックから車両を守る3つの防犯対策を確認しましょう。
- 専用の防犯ケース:スマートキーの電波を通さないケースに収納して管理する
- 金属製の容器やアルミホイル:スマートキーを金属製の缶やアルミホイルに包んで電波をブロックする
- 節電モード:スマートキーに節電モードがあれば、それをONにして電波を出さないようにする
リレーアタックは、ものの数秒〜数分で車両が盗まれてしまいます。
使用される中継機器は、玄関先に置いてあるスマートキーでも電波を盗めるので、鍵の保管場所にも十分な注意が必要です。
駐車場のセキュリティ強化
駐車場のセキュリティ強化は、車両盗難防止対策としても有効な手段です。
主な強化ポイントには、次のようなものがあります。
- 監視カメラの設置: 高画質・広角カメラを複数設置し、死角をなくすことで、駐車場全体を監視する。
- フェンス・ゲートの設置: 駐車場の周囲を囲み、不審者の侵入を防ぐ。
- 照明設備の充実: 駐車場内を明るくし、犯罪に利用されやすい暗い場所をなくす。センサーライトは、人や車両の接近を感知して自動点灯するので、犯罪抑止効果も期待できる。
- 警備員の配置: 定期的な巡回や監視により、不審者を発見し、早期対応が可能。
- 鍵管理の徹底: 鍵を厳重に管理し、不正な複製や持ち出しを防止する。
社員の意識改革
減少傾向にある車両盗難とはいえ、依然として盗難の被害は続いています。
警察庁によると、自動車盗の発生場所は『一般住宅』が最も多く、ついで『駐車場』『道路上』などとなっています、
また、被害にあった自動車のうち、4台に3台がキーなしの状態で盗難被害に遭っており、カーナビやナンバープレートも盗まれる被害も発生しています。
出典:警察庁
車両盗難による被害は、「車が盗まれること」だけではありません。
顧客の個人情報が含まれる書類やパソコンごと盗まれてしまった場合、企業の信用問題にもかかわります。
車両盗難から車を守るには、車両を利用する社員一人ひとりの心がけが欠かせません。
- 盗まれた車両はほぼ戻ることはない
- 駐車場での盗難が多発している
- キーなしの状態でも盗難に遭う
- 車両盗難は乗用車だけではない
などを踏まえた意識改革をおこなうことで、より高い防犯意識の向上を目指しましょう。
車両駐車場の選び方
外出先の駐車場は、死角がなく、見通しの良い場所に車両を停めるようにしましょう。夜間には、照明が設置された明るい駐車場を選ぶことも大切です。
大型駐車場では車両盗難だけでなく、車上荒らしが多発しています。車を停める際は、見通しの良い、明るい場所を選んで停めるようにしましょう。
その他の車両盗難対策
車両を使用する場合に意識しておくべきポイントには、次のようなものがあります。
- 路上駐車をしない:路上駐車は盗難犯にとって格好のターゲットです。特に人通りの少ない場所や死角になりやすい場所は危険です。
- 窓・ドアの施錠をする:たとえ短い時間でも、車両から離れる際には必ず窓を閉め、ドアロックを忘れないことが大切です。
- 貴重品は車内に置かない:貴重品を車内に置いたままにしておくと、ガラスを割って車上荒らしに遭ってしまう可能性が高まります。
- 取り外しができるカーナビやETCカードなどは持ち帰る:簡単に取り外しができる機器は車上荒らしに遭う可能性が高く、自宅住所などが登録されていると、盗難犯に情報を提供してしまう恐れがあります。
- 駐車場が離れた場所にある場合は、こまめに車両状況を確認する:車両から長く離れる場合は、こまめに駐車場の状況を確認することで、異常を発見し、早めの対処ができます。
もし車両盗難に遭ってしまったら
どのような対策をしていても、車両盗難の被害に遭う可能性はゼロではありません。
大切な車両や荷物を盗まれたときは、慌てずに行動することが大切です。
ここでは、車両盗難にあった場合にどのような手順で対応すれば良いかを紹介します。
警察へ通報する
車両が盗難に遭ったら、まずは警察に連絡しましょう。
車両盗難の届け出先は、盗難現場を管轄する警察署か最寄りの交番です。
警察の指示にしたがって必要な情報を伝え、手続きを進めましょう。
車の情報 | ナンバー、車体番号、色、年式、特徴 |
所有者・使用者情報 | 氏名、会社名 |
盗難日時・場所 | いつ、どこで盗まれたか |
盗難状況 | 走行距離など |
車内にあったもの | 貴重品(番号があれば)、クレジットカードなど |
その他 | 車検証のコピー、自動車保険証のコピー |
盗難届が受理されると、受理番号が発行されます。
ここで発行された番号は、保険金請求や運輸支局で一時抹消登録をおこなう際に必要になるので、大切に保管しておきましょう。
保険会社に連絡する
警察への連絡が済んだら、加入している保険会社にも連絡を入れましょう。
連絡する内容: | 盗難日時、場所 |
警察に届け出た旨 | |
車両の詳細(車種、ナンバーなど) | |
車内にあった貴重品など | |
準備しておくと良いもの | 警察から受け取った受理番号 |
車検証のコピー | |
自動車損害保険証書のコピー |
車検証のコピーや自動車損害保険証書などは、車両を利用する前にコピーを取って保管しておくようにすると、万が一の場合でもスムーズに対応できます。
まとめ:車両盗難の対策は日頃からの備えが重要
車両盗難は、一瞬のすきをつかれて予期せぬ形で誰にでも起こりうる可能性のある犯罪です。
大切な車両を守るためには、最新の盗難手口を常に把握し、複数の防犯対策を組み合わせて対策方法を変更していくことが大切です。
また、社員一人ひとりが防犯を意識した行動をとることも重要で、万が一の場合でも迅速な対応ができるよう、社内でのルールを周知しておく必要があります。
日頃からの備えは、車両盗難対策の有効な手段です。
盗難被害のリスクを減らすためにも、定期的な見直しや有効な対策方法を導入し、車両の安全を守りましょう。