車を安全に運転するには、日々の点検が欠かせません。
日常点検整備で車の異常や不具合を早期に発見すれば、重大な事故を未然に防げます。
本記事では日常点検整備の重要性からチェックシートを使った日常点検整備の実施方法、日常点検整備を怠ったときの危険性などを詳しく解説します。
日常点検整備を習慣化し、より安全な運転環境を築きましょう。
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目次
車の日常点検整備とは
車の日常点検整備とは、ドライバーや管理者が定期的におこなう点検作業で、車の安全性と適正な使用を確保するために不可欠です。
実施する目的は車の異常や不具合を早期に発見し、事故やトラブルを防ぐことです。
特別な資格や技術は必要なく、ドライバー自身で実施できます。
業務で私用のマイカーや白ナンバーの車を使用する場合は、走行距離や運行状況を踏まえて、適切なタイミングで実施しましょう。
また、点検時に異常が見つかった場合は、すぐに修理を依頼して、未然に事故やトラブルを防げるようにしましょう。
車検との違い
車検は、車が国の基準を満たしているかどうかを確認するための検査です。
公道を走るためには決まった期間ごとに車検を受ける必要があり、通常は2年に1回の頻度で実施されます。
車検の有効期限が切れた状態での走行は、不具合やトラブルにつながるだけでなく、違反となり罰則が課されるため注意が必要です。
定期点検整備との違い
日常点検整備と定期点検整備は、車の安全性を確保するための重要な点検ですが、目的や内容に違いがあります。
主な違いは以下です。
日常点検整備 | 定期点検整備 | |
---|---|---|
目的 | 基本的な安全性の確認と故障の早期発見 | 車の長期的な性能維持と大きな故障の予防 |
実施者 | 主にドライバー自身 | 主に専門の整備士 |
内容 | 基本的な項目の目視や簡単な確認 | 詳細で専門的な点検 |
日常点検整備はドライバーが日々の安全を確保するための基本的な点検であるのに対し、定期点検整備はより専門的で包括的な点検・整備をおこないます。
また、日常点検整備と定期点検整備が車の安全性と性能を維持するためなのに対し、車検は公道を走行する上での最低限の安全基準を満たしているかを確認するものです。
車検を受けていれば安全と思われがちですが、車の安全性を確保するには定期的な点検が欠かせません。
日常点検整備も定期点検整備も、車の安全性と性能を維持する上で重要な役割を果たします。
日常点検整備が重要な理由
国土交通省が実施した調査によると車両故障となった車のうち、日常点検整備を実施していたのはわずか14%ほどでした。
日常点検整備は重要ですが、実施していない人がいるのも事実です。
出典:自動車の検査・点検整備に関する基礎調査検討結果報告書|国土交通省自動車交通局
日常点検整備がなぜ重要なのかを解説します。
人命を守るため
日常点検整備はドライバー自身や同乗者、ほかの道路利用者の命を守るために不可欠です。
なぜなら、車の整備不良が原因で命を落とすことがあるからです。
例えば、空気圧が低下したタイヤで走行した結果、タイヤが破裂し衝突事故につながるケースもあります。
実際に2023年には整備不良が原因の交通事故で、4名の方が亡くなっています。
※出典:道路の交通に関する統計ー3-2-1原付以上運転者(第1当事者)の法令違反別死亡事故件数の推移
日常点検整備は単なる作業ではなく、人命を守るための重要な責任です。
日常点検整備は義務
日常点検整備が重要なもう一つの理由は、法的義務があるからです。
道路運送車両法第四十七条の二では、以下のように記載されています。
自動車の使用者は、自動車の走行距離、運行時の状態等から判断した適切な時期に、国土交通省令で定める技術上の基準により、灯火装置の点灯、制動装置の作動その他の日常的に点検すべき事項について、目視等により自動車を点検しなければならない。
引用:道路運送車両法第四十七条の二
日常点検整備は法的義務であると同時に、安全運転と事故防止のために不可欠な責任です。
チェックシートを使った日常点検整備の方法
チェックシートを使うことで、日常点検整備を効率的かつ確実におこなうことができます。
チェックシートの作成方法がわからない方は、国土交通省やJAFがチェックシートを無料で提供しているので、ダウンロードしてご活用ください。
日常点検整備15項目
日常点検整備はエンジンルーム、車周り、運転席の3つの観点から、以下15項目を点検します。
エンジンルーム | ①ブレーキ液の量 ②冷却水の量 ③エンジン・オイルの量 ④バッテリ液の量 ⑤ウインド・ウォッシャー液の量 |
車周り | ⑥ランプ類の点灯・点滅 ⑦タイヤの亀裂や損傷の有無 ⑧タイヤの空気圧 ⑨タイヤの溝の深さ |
運転席 | ⑩エンジンのかかり具合・異音 ⑪ウインド・ウォッシャー液の噴射状態 ⑫ワイパーの拭き取り能力 ⑬ブレーキの踏み残りしろと効き具合 ⑭駐車ブレーキの引きしろ(踏みしろ) ⑮エンジンの低速・加速状態 |
チェックシートを使いながら、エンジンルームから順番に点検すれば、効率よく点検できます。
詳しい日常点検整備の方法は、国土交通省の『日常点検の実施方法』もご参照ください。
日常点検整備の頻度
日常点検整備の頻度は具体的に決められていません。
車の使用状況によって異なりますが、一般的に自家用自動車は1カ月に1回程度の実施が推奨されます。
一方で事業用自動車は1日1回、運行前に日常点検整備の実施が義務付けられています。
次条第一項第一号及び第二号に掲げる自動車の使用者又はこれらの自動車を運行する者は、前項の規定にかかわらず、一日一回、その運行の開始前において、同項の規定による点検をしなければならない。
引用:道路運送車両法第四十七条の二
また走行距離の多い車両は、より頻繁な点検が必要です。
日々の運転時に注意深く車の状態を観察し、異常を感じたら速やかに点検・修理をすることが安全運転と交通事故防止につながります。
日常点検整備の実施方法1.エンジンルームのチェック
ここからは、日常点検整備の15のチェック項目について、その詳細を説明します。
まずはエンジンルームのチェック項目です。
エンジンルームとはボンネットを開けた部分のことで、エンジンやエンジンを運転・制御するために必要な部品が収められています。
走行直後は熱を持っていることがあるため、走行後に点検する場合は、しばらく時間が経ってからおこなうようにしましょう。
①ブレーキ液の量
ブレーキ液の役割は、ブレーキペダルを踏む力をブレーキシステムに伝達することです。
そのため、ブレーキ液が減るとブレーキが効かなくなり可能性があり、非常に危険です。
日常点検整備では、ブレーキリザーバータンク内のブレーキ液の量が「MAX」と「MIN」の間にあるかどうか確認しましょう。
ブレーキ液は定期的な交換が必要なため、定期点検整備の際に交換を依頼するのがおすすめです。
なお、ブレーキ液が著しく減少している場合、ブレーキシステムに液漏れが生じている可能性があるため、早急に整備工場での点検を受けましょう。
②冷却水の量
冷却水の役割は、エンジンが熱くなりすぎるのを防ぐことです。
日常点検整備では、ラジエーターリザーバータンク内の冷却水の量が「FULL」と「LOW」の間にあるかどうか確認しましょう。
冷却水が減っている場合は、補充してください。
減る量が多かったり、減る頻度が高い場合は、冷却系統故障や冷却水漏れが懸念されるため、早急に整備工場での点検を受けましょう。
③エンジン・オイルの量
エンジン・オイルは、エンジン内部で使用される潤滑剤です。
主な役割には、潤滑のほかに冷却、清浄、そして防錆があります。
エンジン・オイルの確認をおこなう際は、まずエンジンを停止し、平坦な場所でオイルレベルゲージを使用して、以下の手順で実施してください。
- オイルレベルゲージを抜き取る
- オイルレベルゲージに付いているオイルを拭き取る
- オイルレベルゲージを根本まで差し込む
- オイルレベルゲージを引き抜いて、オイルが「H」と「L」の間にあるか確認する
- オイルレベルゲージを戻す
エンジン・オイルが不足している場合は、オイルレベルゲージで量を確認しながら、エンジン・オイルを補充しましょう。
なお、ハイブリッド車や電気自動車で同様の動作をおこなう際は、注意が必要です。
ハイブリッド車や電気自動車は、高電圧のケーブルやバッテリを搭載しており、触れると感電や重い火傷を引き起こす恐れがあります。
触ってはいけない場所には注意書きのシールが貼ってあるため、必ず確認しておきましょう。
④バッテリ液の量
バッテリ液は、別名「電解液」とも呼ばれ、化学反応によって充電や放電をする役割があります。
日常点検整備では、バッテリ液が「UPPER」と「LOWER」の間にあるかどうか確認しましょう。
不足している場合は専用液を補充する必要がありますが、バッテリ液は希硫酸であるため、必ずゴーグルや手袋を着用して作業してください。
最近は「メンテナンスフリー」といって、バッテリ液の補充ができないタイプのバッテリもあります。
しかし、通常のバッテリと同様に寿命があるため、定期点検整備の際などに交換しましょう。
⑤ウインド・ウォッシャー液の量
ウインド・ウォッシャー液は、フロントガラスやリアガラスの汚れを洗浄するための液体のことです。
日常点検整備では、ウォッシャータンク内の液面が「FULL」と「LOW」の間にあるかどうか確認しましょう。
冬季や寒冷地では、凍結防止のため専用液を補充するようにしてください。
日常点検整備の実施方法2.車の周りのチェック
エンジンルームのチェックが終わったら、車の周りを一周して、ランプやタイヤをチェックします。
①ランプ類の点灯・点滅
ランプ類やレンズに異常がないか、以下の内容を目視で確認します。
チェックする場所 | 確認内容 | 補足 |
ヘッドランプ、テールランプ、ブレーキランプ | 点灯具合 | – |
ライセンスランプ | 点灯具合 | ナンバープレートを照らすためのランプ |
クリアランスランプ(スモールランプ、車幅灯) | 点灯具合 | ヘッドランプの外側にあるランプ |
バックアップランプ | 点灯具合 | ギアをRに入れると点灯する、車がバックすることを知らせるためのランプ |
ウインカランプ | 点灯具合と点減速度 | – |
フォグランプ | 点灯具合 | フォグランプ付きの車のみ |
レンズ | 汚れや破損の有無 | – |
②タイヤの亀裂や損傷の有無
タイヤ表面に亀裂や切れ、膨らみ、石や枝、釘などの異物が刺さったり挟まったりしていないか、目視で確認します。
また、トレッドの摩耗状態や溝の深さも確認し、適切な空気圧が保たれているかも一緒にチェックしていおきましょう。
③タイヤの空気圧
タイヤの空気圧は、タイヤ接地部のたわみを見て確認するか、エアゲージを用いて点検します。
エアゲージを使用する場合、まずは適正な空気圧を確認しましょう。
運転席のドアの内側やセンターピラーなどに貼られている空気圧表示ラベルや、取扱説明書に記載してあります。
なお、タイヤが温かい状態で空気圧を調整すると、適切な空気圧にならないことがあります。
そのため、タイヤが冷えている状態で空気圧を調整しましょう。
エアゲージを用いた具体的な点検手順は以下のとおりです。
- タイヤのバルブキャップを外す
- エアゲージの先端をタイヤのバルブにしっかりと押し付ける
- エアゲージのメーターを確認する
- 必要に応じて、空気を追加したり抜いたりして適正圧に調整する
- バルブキャップをしっかりと元に戻す
④タイヤの溝の深さ
タイヤが摩耗して溝が浅くなると、排水性が低下しハイドロプレーニング現象を引き起こします。
そのため、タイヤの溝も確認しなければなりません。
以下の2点を、目視で確認してください。
- 部分的な摩耗がないか
- 十分な溝の深さがあるか
溝の深さを確認するときは、「スリップサイン」を見るようにしましょう。
スリップサインとは、タイヤ側面の矢印マークの延長線上にあるサインです。
溝の深さが1.6mm以下になると現れます。
スリップサインが現れたタイヤは保安基準違反となるため、すぐに交換してください。
参考:道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2005.11.09】〈第二節〉第89条(走行装置等)
日常点検整備の実施方法3.運転席でのチェック
最後に、実際に運転席に座り、エンジンの動作やブレーキなどのチェックをおこないます。
①エンジンのかかり具合・異音
エンジンについて、以下の点を確認します。
- 速やかに始動するか
- 始動時やアイドリング状態で異音がしないか
②ウインド・ウォッシャー液の噴射状態
ウインド・ウォッシャー液について、以下の点を確認します。
- 高さや噴射の向きは適当か
- 飛散しすぎていないか
③ワイパーの拭き取り能力
ワイパーを作動させて、以下の点を確認します。
- 低速・高速ともに問題ないか
- ウインド・ウォッシャー液をきれいに拭き取れているか
ウインド・ウォッシャー液をきれいに拭き取れていない場合は、ワイパーゴムを交換しましょう。
なお、ワイパーを作動させる際は、必ずウインド・ウォッシャー液を噴射してください。
空拭きしてしまうと、フロントガラスを傷つけてしまう恐れがあります。
④ブレーキの踏み残りしろと効き具合
ブレーキペダルを踏み込んで、踏み残りしろ(床板との隙間)や踏みごたえがあるかを確認します。
踏みごたえが弱かったり、踏み残りしろが基準値に満たない場合は、ブレーキ液の漏れや空気混入などの可能性があるため、速やかに整備工場で点検してもらいましょう。
踏み残りしろを定規で計測し、基準値と比較することで、より正確な確認が可能です。
⑤駐車ブレーキの引きしろ(踏みしろ)
駐車ブレーキをいっぱいに引いて、引きしろが多すぎないか、または少なすぎないかを確認します。
駐車ブレーキがペダル式の場合は、ペダルの踏みしろを確認してください。
⑥エンジンの低速・加速状態
走行中のエンジンについて、以下の点を確認します。
- エンジンが温まった状態で、アイドリング時の回転数が安定しているか
- アクセルペダルを徐々に踏み込んだときに引っ掛かりがないか
- 走行中はエンストやノッキングを起こさず、スムーズに加速するか
日常点検整備チェックシートの保存方法
つづいて日常点検整備チェックシートの保存方法について解説します。
保存期間と形式
日常点検整備チェックシートの保存期間は、以下のように定められています。
点検整備記録簿の保存期間は、その記載の日から、第二条第一号から第四号までに掲げる自動車にあつては一年間、同条第五号及び第六号に掲げる自動車にあつては二年間とする。
引用:自動車点検基準第四条
また、道路運送車両法第四十九条には以下のように記載されています。
自動車の使用者は、点検整備記録簿を当該自動車に備え置き、当該自動車について前条の規定により点検又は整備をしたときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載しなければならない。
引用:道路運送車両法第四十九条
一 点検の年月日
二 点検の結果
三 整備の概要
四 整備を完了した年月日
五 その他国土交通省令で定める事項
つまり3カ月、6カ月点検対象車は1年間、1年点検対象車2年間、車に紙で保存しなければいけません。
ですが適切に車の管理をするために、できるだけ長期間の保存を推奨します。
適切に保存すれば、万が一の交通事故や問題発生時の証拠としても活用できます。
日常点検整備の未実施による危険性
次に日常点検整備を怠ったときの危険性を解説します。
交通事故のリスク
日常点検整備を怠ると、交通事故のリスクが高まります。
適切な点検をおこなわないと、車の不具合が見過ごされ運転中にトラブルが発生する可能性があるからです。
例えば以下のようなリスクがあります。
- タイヤの空気圧不足や摩耗により、ハンドル操作が不安定になる
- ワイパーの劣化で視界が確保できない
- ヘッドライトの不具合で夜間の視認性が悪くなる
- ブレーキの効きが悪くなり、停止距離が伸びる
日常点検整備を怠ると車の安全性を損ない、ドライバーや同乗者、ほかの道路利用者の命を脅かす危険性をはらんでいます。
整備不良による罰則
日常点検整備を実施しなくても、罰則はありません。
ですが日常点検整備を怠ると、整備不良による罰則のリスクがあります。
例えば、灯火類が球切れのまま走行すると、整備不良尾灯等違反として普通車の場合7,000円の反則金と1点が加算されます。
安全な運転環境を維持するためにも、日常点検整備の確実な実施が重要です。
日常点検整備をおこなうためのポイント
日常点検整備は重要ですが、実施していない人がいるのも事実です。
最後に企業が正しく日常点検整備をおこなうためのポイントを解説します。
日常点検整備の実施方法を理解する
日常点検整備を効果的におこなうには、正しい方法の理解が重要です。
正しい点検方法がわからないと、異変の見落としにつながります。
例えば、作業のマニュアル化や交通安全教育を実施するなどして、誰もが正しく日常点検整備をおこなえるようにすることが大切です。
日常点検整備の重要さと、正しい方法を従業員が理解できるようにしましょう。
従業員の交通安全教育には『JAF交通安全トレーニング』がおすすめです。
日常点検整備の実施方法に限らず、交通安全教材をeラーニングで学ぶことができます。
交通安全教育にぜひご活用ください。
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日常点検整備の予定を決める
日常点検整備を確実に実施するためには、具体的な予定を決めましょう。
ドライバーまかせにすると、後回しにされることもあるからです。
例えば「毎月第一月曜日に日常点検整備をおこなう」などと決めることで、忘れずに実施できます。
具体的な予定を決めることで、日常点検整備の習慣化と確実な実施が可能です。
チェックシートを適切に管理する
チェックシートの適切な管理も重要です。
適切に管理すれば、必要なときに点検の履歴を確認しやすくなります。
またチェックシートに以下のような項目を含めることで責任が明確になり、実施忘れの防止や適切な点検が可能です。
- 点検日
- 点検者名
- 車のナンバー
チェックシートの適切な管理は日常点検整備の質を高め、車の安全性向上につながります。
まとめ:チェックシートを使って日常点検整備を実施しよう
日常点検整備は車の安全性を確保し、交通事故を防ぐための重要なユーザーの義務です。
人の命を守るためや、法的義務を果たすために日常点検整備を適切におこないましょう。
日常点検整備の具体的な方法を含む、従業員の交通安全教育には『JAF交通安全トレーニング』をぜひご活用ください。
今回、日常点検が5分でわかる資料をご用意しました。
専門的な知識は必要なく、チェックシートを活用すれば誰でも実施できます。
エクセルのチェックシートも同封しておりますので「5分でわかりやすく解説 日常点検のすべて」をダウンロードしてご活用ください。
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