業務中の交通事故や、車での通勤中の交通事故は会社にとって深刻な問題です。
そのような中「具体的にどのような交通安全対策に取り組めばいいかわからない」と課題を感じる会社も少なくありません。
本記事では、会社に交通安全の対策が求められる背景や取り組むべき具体策を紹介します。
交通事故は従業員が怪我を負うことはもとより企業がリスクにさらされる危険性があります。
社用車を所有している会社はぜひ参考にしてください。
目次
会社に交通安全の対策が求められる背景
2022年に発生した交通事故のうち、約4割が業務中や通勤時に起こったとされています。
また、警視庁は、2023年1〜12月の交通事故発生件数は 307,911件と公表しました。
出典:道路の交通に関する統計 交通事故者数について 2023年
交通事故は会社の存続に関わる重大なリスクです。
労働基準法や労働安全衛生法により、会社には従業員の健康と安全確保が求められています。
通勤や業務移動中に交通事故が起きれば、労働災害として会社に重大な影響を与えかねません。
さらに、交通事故は会社にとって経済的な損失をもたらす要因となります。
社用車で従業員が事故を起こしてしまった場合、運転者だけでなく、社用車を所有する会社にも損害賠償の責任が発生します。
事故による人的被害や物的損害だけでなく、会社の業務停止や補償費用が発生するリスクは避けられません。
経済的な損失は会社の業績に直結し、会社のイメージや信頼性にも影響を及ぼします。
交通事故は企業リスクともいえるため、未然に防ぐことは社会的な信頼を築く上で不可欠です。
会社は従業員の安全を確保し、事故リスクを最小限に抑える対策を取る必要があります。
なぜ交通ルールが守られず事故が起きるのか
なぜ、交通ルールが守られずに事故は起きてしまうのでしょうか。
よくある原因について解説します。
ドライバーの不注意
交通安全白書によると、令和4年に交通死亡事故は2,550件発生しました(参考:内閣府交通安全白書)。
交通事故の原因として最も多いのが「安全運転義務違反」で、全体の過半数を占める52.3%という結果でした。
道路交通法第70条でも、すべてのドライバーに安全走行するための適切な運転操作や、正しい状況判断の義務が課されています。
この義務を怠ったドライバーは、「安全運転義務違反」として処罰の対象になります。
安全運転義務違反に該当するよくある運転行為は以下のとおりです。
- 運転操作不適:アクセル・ブレーキの踏み間違いやハンドルの操作ミス、片手運転
- 漫然運転:注意力が欠けた状態で運転すること
- 脇見運転:運転中に他のことに気を取られて前方の安全確認を怠ること
- 安全不確認:前後左右の安全確認を怠ること
高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違えてしまうというミスも運転操作不適の代表的なケースといえます。
運転中にカーナビやスマートフォンを操作することは、道路交通法第71条で禁止されています。
違反した場合、5万円以下の罰金が課せられる場合があるので注意しましょう。
なお、事故が発生しやすい時間帯にも注意が必要です。
日の入り時刻の前後1時間、17〜19時台の薄暮時間帯は、交通死亡事故が多く発生します。
自動車と歩行者が衝突する事故が最も多発し、昼間と比較して約3.3倍も増加するという結果が発表されました。
周囲の視界が悪くなるため、自動車や自転車、歩行者などを認識するのが遅れたり、距離や速度を把握しにくかったりするためです。
運転スキルの不足
ソニー損害保険株式会社は、2002年4月2日〜2003年4月1日生まれの若者を対象に、20歳のカーライフ意識調査をインターネットリサーチで実施し、その結果を公開しています。
20歳の運転免許保有率は61.2%、さらに28.6%の若者が運転免許取得予定と回答しました。
一方で、23.6%の若者が「車を購入するつもりはない」との回答でした。
また、18〜29歳の若者を対象に自動車の保有経験について調査されたデータからも若者の自動車離れが明らかです。
2018年では保有経験がない若者は45.8%だったのが、2023年57.9%と増加していることがわかります。
参照:日経クロステック
アンケート調査から、運転免許を取得していても、運転には不慣れな状態で入社する若者が多いと予測できます。
若年ドライバーは運転する機会や経験が少ないため、「運転中にヒヤっとした」ヒヤリハットの経験も少ない傾向にあります。
危険な目にあった経験が少ないが故に、自分が事故を起こすとは想像ができず、危険予測能力が未熟な場合があります。
このようなことから、若年ドライバーや新入社員に交通安全の教育を行うことは、効果的なリスクヘッジだと言えます。
会社が交通安全に向けて取り組むべき5つの対策
会社が交通安全の意識強化に向けて取り組むべき5つの対策を紹介します。
運転モラルの形成
会社が従業員向けの運転モラルを考える機会を設けることは、積極的に取り組むべき対策の1つです。
日常的に、運転のマナーやモラルを意識している従業員は少ないかもしれません。
マナーとモラルの形成により、ドライバーの質は自然と高まり、会社の印象は向上します。
マナーやモラルは言葉ではなかなか伝わりにくいので、イラスト入りの冊子や動画で理解するのがおすすめです。
ヒヤリハットの経験
ヒヤリハットを疑似的に経験することでも、交通安全に対する意識を高められます。
交通安全に対する意識を高める方法として、動画等による危険予測トレーニングがあります。
危険予測トレーニングでは、運転中に起こりやすい事故やヒヤリハットが発生するシチュエーションが再現されています。
さまざまなシチュエーションを経験することによって、危険に対する感受性をより高めることができます。
危険予側トレーニングを受ければ、事故やヒヤリハットの発生リスクが高い状況下での適切な対応方法を身につけられるでしょう。
また、1件の事故の背後には多くのヒヤリハットが隠れているとされています(ハインリッヒの法則)。
ヒヤリハットが多いと事故につながりやすいので、ヒヤリハットそのものを減らしましょう。
実践的なシミュレーションを通じて、危険回避の対応力を磨くのもおすすめです。
危険予測トレーニングは、安全運転への意識を向上させ、事故の防止につながります。
危険予測トレーニングの教材として、「JAF交通安全トレーニング」がおすすめです。
JAF交通安全トレーニングは、従業員向けにJAFが長年培った交通安全ノウハウを配信しています。
短時間で学べるコンテンツが豊富で、従業員の交通安全の意識を高めるのにおすすめです。
実車指導の実施
安全な運転環境を構築するためには、実車指導の実施も効果的です。
例えば、車間距離が狭いといった運転傾向は自分ではなかなか気付けないかもしれません。
実車指導を行えば、このような運転に関する個々の問題点を洗い出せて、安全運転の徹底につなげられます。
実車指導には、社外と社内の2つの形態があります。
社外での実車指導は、自動車教習所などが提供する企業向け研修に参加することが一般的です。
従業員の運転スキルや安全運転に関する知識の向上が期待できます。
自動車教習所などが提供する何らかの講習や研修を受講しないと、社用車を運転できないという制度を設けている会社もあります。
一方で社内での実車指導は、部署内の上司や安全運転管理者が行うことが一般的です。
なお、外部講習を受けた従業員が運転指導員に認定され、指導を担当する場合もあります。
継続的な教育体制
交通安全について学べる機会を継続的に提供するのも有効です。
また、事故やヒヤリハットを当事者だけの問題とせずに、会社全体の再発防止策として積極的に共有することも効果的です。
例えば、ドライブレコーダーで撮影された実際の事故やヒヤリハットの映像を社内で共有しましょう。
現場のリアルな映像と身近な同僚が実際に遭遇したことを、自分事として捉えられるメリットがあります。
会社内で事故状況や発生原因を分析したり、再発防止策についてディスカッションしたりするのもいいでしょう。
会社の定例会議や毎日の朝礼で、事故やヒヤリハットの事例を共有し注意喚起をこまめに行うのもおすすめです。
当日の天気や道路状況をシェアすれば、リスクマネジメントにつながります。
社員全体が事故の教訓を共有し、より安全な環境を築くことが可能です。
ドライブレコーダーの設置
従業員の交通安全意識を高めるために、ドライブレコーダーを設置しましょう。
ドライブレコーダーの車載カメラやセンサーを活用し、運転映像や走行データなどを記録します。
走行データを分析・点数化する機能が搭載されていれば、急ブレーキを踏む回数や車間距離など従業員一人ひとりの運転傾向を把握することが可能です。
管理者は個別の安全指導ができるようになり、従業員も客観的に自分の運転傾向を振り返れます。
運転が常に録画されることで、従業員は自然と安全運転を心がける効果も期待できます。
交通安全のために会社内で安全運転管理者を選定しよう
「安全運転管理者制度」を知っていますか。
以下のどちらかに該当する会社は安全運転管理者を選任しなければなりません。
- 定員が11人以上の自動車を1台以上使用
- 自動車を5台以上(自動二輪車1台は0.5台で計算)
業種を問わず、自動車を所有している会社が対象です。
安全運転管理者の概要について解説します。
安全運転管理者が担う業務
安全運転管理者は、主に以下の9つの業務を担います。
- 運転者の適性等の状況把握
- 運転者が無理なく安全に車両を運転できる運行計画の作成
- 欠員発生時の交替運転者の配置
- 異常気象時等の措置
- 業務開始前の点呼と日常点検
- 運転前後の酒気帯び確認
- 運転日誌の記録
- 酒気帯び確認の記録・保存
- 安全運転指導
安全運転管理者は、上記の業務から従業員の安全運転の促進や事故予防を呼びかけ、交通安全の向上を図る役割があります。
安全運転管理者の資格要件
年々、安全運転に関する法律や規則は厳しくなっています。
遵守するために、会社で安全運転管理者を選任し、運転者の教育や安全対策の策定などの運用が求められています。
安全運転管理者の資格要件は以下のとおりです。
- 年齢が20歳以上
- 運転管理の実務経験が2年以上
実務経験が2年未満でも、公安委員会の認定を受けていれば安全運転管理者になれます。
ただし、資格要件を満たしていても、過去に交通違反や事故を起こした経歴があると認められないので注意してください。
安全運転教育の対象者と時期
安全運転教育は、入社時や事故が発生した後だけ行う会社が多いようです。
しかし、新入社員の時は安全運転に対する意識が高まっていても、慣れとともに意識が薄れているかもしれません。
さらに、従業員の加齢に伴う身体能力や判断力の低下も考慮すべきです。
入社時だけでなく、定期的に教育の機会を設けましょう。
なお、事業に関わっているのは、会社に勤務する正社員だけではありません。
契約社員や協力会社の社員など、事業に関連するすべての従業員に安全運転教育の実施をおすすめします。
まとめ:会社全体で安全運転に取り組み無事故を目指そう
従業員が事故を起こした場合、従業員の健康のみならず、企業が受けるリスクは計り知れません。
年々、安全運転に関する規則や罰則も強化されています。
会社として事故防止の対策をしっかりと従業員に浸透させること、組織的に安全運転に関する仕組みを継続的に運用することが重要です。
大事な従業員と家族を守るためにも、会社全体で安全運転を徹底しましょう。