飲酒運転(酒気帯び運転・酒酔い運転)は、決して他人事ではありません。
万が一、従業員がこれらの違反をしてしまった場合、会社への報告義務は発生するのでしょうか?
本記事では、飲酒運転の会社への報告義務について、法律、就業規則、企業倫理の観点から徹底解説します。
また、 飲酒運転を未然に防ぐために会社ができる対策も紹介します。
アルコールチェック義務化に備える!
目次
飲酒運転の種類と法的責任

最初に、飲酒運転の種類と、飲酒運転に伴う法的責任について解説します。
「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の違い
飲酒運転は、道路交通法で「酒気帯び運転」と「酒酔い運転」の2種類に分類されています。
両者の違いは、アルコール濃度とドライバーの状態によって判断されます。
区分 | 基準 | 状態 |
---|---|---|
酒気帯び運転 | 呼気中アルコール濃度0.15mg/L以上 | 身体にアルコールが残っている状態で運転すること。呼気中のアルコール濃度によって違反点数や処分が変わる。 |
酒酔い運転 | アルコール濃度に関わらず、正常な運転ができない状態 | アルコールの影響により酩酊し、車両の運転が正常にできない状態。 具体的には、まっすぐ歩けない、呂律が回らないなど、客観的に見て正常な運転が困難と判断される場合を指す。 |
酒気帯び運転は、アルコール濃度が基準値以上である場合に成立しますが、酒酔い運転は、アルコール濃度に関わらず、ドライバーの状態によって判断される点が大きな違いです。
飲酒運転による罰則
飲酒運転をおこなった場合、行政処分と刑事責任の両方が科せられます。
行政処分は免許の停止や取り消し、刑事責任は懲役や罰金といった形で責任を問われることになります。
区分 | 行政処分 | 刑事責任 |
---|---|---|
酒気帯び運転 (呼気中アルコール濃度0.15mg/L以上0.25mg/L未満) | 違反点数:13点 免許停止(90日~) | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
酒気帯び運転 (呼気中アルコール濃度0.25mg/L以上) | 違反点数:25点 免許取消(2年欠格) | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 |
酒酔い運転 | 違反点数:35点 免許取消(3年欠格) | 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
これらはあくまで一例であり、違反状況や過去の違反歴などによって、処分内容が変わる可能性があります。
飲酒運転の会社への報告義務

飲酒運転は個人の問題にとどまらず、周囲に危険を与え、会社全体の信用を揺るがす重大な行為です。
万が一、従業員が飲酒運転をしてしまった場合、会社への報告は、法的義務、就業規則、企業倫理の観点からどのように扱われるのでしょうか。
法律上は飲酒運転を会社に報告する義務はない
まず、法律上の観点から見てみましょう。
結論から言うと、飲酒運転そのものを会社に報告する直接的な法律上の義務はありません。
しかし、注意すべき点があります。
例えば、飲酒運転で事故を起こして逮捕・勾留された場合、会社への連絡が遅れることで無断欠勤の状態になり、社内で混乱が生じるかもしれません。
また、業務中に飲酒運転をして人身事故を起こした場合、自動車運転死傷処罰法違反などに問われ、会社が使用者責任を問われる可能性も出てきます。(民法第七百十五条)
ただし、これは飲酒運転そのものの報告義務とは異なり、あくまで逮捕・勾留による業務への支障や、会社が法的責任を問われる可能性が生じた場合の話です。
就業規則に規定がある場合は報告義務が生じる
法律上の直接的な義務がない場合でも、就業規則に飲酒運転に関する規定がある場合は、就業規則に従う必要があります。
多くの企業では、従業員の飲酒運転を服務規律違反として禁止しており、違反した場合には懲戒処分などの対象となり得ることが就業規則に明記されていることがあります。
就業規則に盛り込まれていることがある内容は以下のとおりです。
- 飲酒運転の禁止
- 飲酒運転による免許停止・取り消し時の報告義務
- 業務に支障をきたす場合の対応
企業倫理と社会的責任の観点から飲酒運転は会社に報告すべき
たとえ法律や就業規則に明確な規定がなくても、企業倫理と社会的責任の観点から、飲酒運転をしてしまった場合は会社に報告するべきです。
企業には、社会の一員として、法令遵守はもとより、社会規範や倫理観を重視した活動をおこなう責任があります。
従業員の不祥事は企業のブランドイメージを損ない、社会的な信用を失墜させる可能性が高いでしょう。
特に、近年ではSNSの普及により、個人の不祥事が瞬く間に拡散され、企業に大きなダメージを与えるリスクが高まっています。
飲酒運転は重大な犯罪行為であり、社会的な非難を浴びる可能性が高い行為です。
会社への報告は事態の早期把握と適切な対応を可能にし、企業としての責任を果たすための第一歩です。
また、報告を受けることで、会社がサポートできることもあるでしょう。
例えば、弁護士の紹介や今後の対応に関するアドバイスなど、従業員の再出発に対して会社ができる支援もあります。
もちろん従業員にとっては、報告によって懲戒処分を受ける可能性はありますが、事態を隠蔽するよりも、誠実に対応する方が、結果的に良い方向に進むかもしれません。
飲酒運転による会社から従業員への処分

会社が従業員に対しておこなう懲戒処分は、その種類と内容によって従業員に与える影響が異なります。
一般的に、懲戒処分は軽いものから重いものへと段階的に分けられており、飲酒運転の悪質性や過去の事例などを考慮して決定されます。
具体的な懲戒処分の種類と内容は以下のとおりです。
懲戒処分の種類 | 内容 |
---|---|
戒告 | 口頭または書面で注意し、将来を戒める処分。 |
譴責 | 始末書を提出させ、将来を戒める処分。 |
減給 | 給与を減額する処分。 労働基準法により、減給額には上限が定められています。 |
出勤停止 | 一定期間の出勤を停止させる処分。 その期間中、給与は支払われません。 |
降格(降職) | 役職や職位を下げる処分。 |
諭旨解雇 | 会社が退職を勧告し、従業員がこれに応じることで退職となる処分。 |
懲戒解雇 | 最も重い処分で、従業員を強制的に解雇する処分。 退職金が支払われない場合もあります。 |
飲酒運転の場合、初犯であっても、酒気帯びの程度や事故の有無によっては、減給や出勤停止といった重い処分が下されることがあります。
特に、人身事故を起こした場合や、飲酒運転を繰り返している場合には、より重い処分となる可能性が高まるでしょう。
ただし、解雇には客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが必要です。
会社ができる飲酒運転対策

飲酒運転は、周囲の安全を脅かし、個人の人生を狂わせるだけでなく、会社の信用を失墜させる重大な問題です。
企業は従業員への啓発活動や具体的な対策を通じて、飲酒運転の根絶を目指す必要があります。
交通安全教育・研修
飲酒運転の危険性や法的責任、会社への影響などを理解させるための交通安全教育・研修を実施することは、非常に重要です。
研修では、具体的な事例を通して飲酒運転が及ぼす影響の大きさを再認識させ、従業員のコンプライアンス意識を向上させることが求められます。
研修内容の具体例は以下のとおりです。
- 飲酒運転の危険性
- 飲酒運転の法的責任と罰則
- 飲酒運転がもたらす人的・経済的損失
- アルコールが人体に与える影響
- 飲酒後の運転に関する正しい知識
- 飲酒運転防止のための具体的な行動
就業規則の見直し・周知
飲酒運転に関する規定が就業規則に明記されているかを確認し、必要に応じて見直しましょう。
懲戒処分や解雇に関する規定を明確化することで、従業員への抑止効果を高められます。
また、就業規則の内容を従業員に周知徹底することも重要です。
なお、就業規則に盛り込むべき内容は、具体的には以下のとおりです。
- 飲酒運転の禁止
- 飲酒運転をした場合の懲戒処分(減給、出勤停止、解雇など)
- 業務時間外の飲酒に関する制限(特に運転業務に関わる従業員)
- 飲酒運転に関する自己申告義務
アルコールチェック体制の構築
出勤時や業務開始前、業務終了後などにアルコールチェックを実施する体制を構築しましょう。
アルコール検知器を導入し、従業員のアルコール濃度を定期的に測定することで、業務中の飲酒運転を未然に防げます。
アルコールチェック体制を構築するポイントは以下の通りです。
- アルコール検知器の選定(性能、価格、操作性などを考慮)
- アルコールチェックの実施時間と場所の決定
- アルコールチェック担当者の選任と教育
- アルコールチェック結果の記録と保管
- アルコールが検出された場合の対応(運転業務の停止、自宅待機など)
なお、2022年度の道路交通法改正によって、安全運転管理者によるアルコールチェックが義務化されています。
以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
アルコールインターロックの導入
アルコールインターロックとは、車両のエンジンを始動する前にドライバーのアルコール濃度を測定し、一定以上のアルコールが検出された場合にはエンジンを始動できないようにする装置です。
特に、社用車を使用する企業においては、アルコールインターロックの導入を検討することで、飲酒運転を物理的に防止できます。
アルコールインターロックを導入するメリットは以下のとおりです。
- 飲酒運転の確実な防止
- 従業員の飲酒運転に対する意識向上
- 会社の社会的責任の履行
まとめ:飲酒運転の会社への報告義務について就業規則に明記しよう

飲酒運転は、安全を脅かし重大な法的責任を伴うだけでなく、会社や従業員の社会的信用を失墜させる行為です。
万が一、従業員が飲酒運転をしてしまった場合は、速やかに会社に報告させ、適切な対応を取ることが重要です。
飲酒運転に対する罰則や報告義務などを就業規則に記載し、従業員に周知しておきましょう。
また、交通安全教育や研修によって社内全体の交通安全意識を高めたり、円滑なアルコールチェック体制を整えたりすることも重要です。
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