飲酒運転による悲惨な事故を減らすため、2022年4月1日から一定台数以上の自動車を使用する事業所でアルコールチェックの義務化が開始されました。
しかし「アルコールチェックの基準値についてよくわからない」と悩みを抱えている事業所は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、アルコールチェックの基準値や飲酒運転による罰則、アルコールチェックを適切に実施するためのポイントを紹介します。
運転者が自身を律するだけでなく、事業所の安全運転管理の役割も重要です。アルコールチェックの基準値や運用の注意点を知りたい方は、参考にしてください。
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目次
酒気帯び運転となるアルコールチェックの基準値とは
酒気帯び運転または酒酔い運転となるアルコールチェックの基準値を解説します。
酒気帯び運転の基準値
酒気帯び運転とは、体内にアルコールが残った状態で自動車を運転することです。
運転者が「酔っていない」と言っても、呼気中のアルコール濃度数値が1Lに対して0.15mg以上の状態であれば酒気帯び運転とみなされます。
酒酔い運転の基準値
酒酔い運転とは、アルコールチェッカーで測定したアルコールの濃度数値に関係なく、アルコールの影響で正常に運転ができない恐れがある状態を指します。
酒酔い運転と判断される具体的な例は、以下を参考にしてください。
- 質疑応答中に呂律が回っていない
- 正常な受け答えができない
- 直線(白線)の上をまっすぐ歩けない
- 標識を正しく認識できない
運転者に以上の症状が見られると、酔っ払っている状態と判断されます。
呼気中のアルコール濃度数値に関わらず、その場で検挙されてしまいますので注意が必要です。
また、アルコールを摂取すると、たとえ少量でも脳の機能を麻痺させる作用があります。
アルコールを摂取していないときと比べ、視力や注意力、判断力の低下などを招き、交通事故を起こす確率が高いです。
アルコールチェックの基準値を超えて運転した場合の罰則
アルコールチェックの基準値を超えているにも関わらず、運転した場合の罰則を紹介します。
酒気帯び運転の罰則
酒気帯び運転をした場合、運転者は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。
行政処分については、以下の表をご覧ください。
呼気中アルコール濃度 | 違反点数 | 処分 |
---|---|---|
0.15㎎以上0.25㎎未満 | 13点 | 最低90日間の免許停止 |
0.25㎎以上 | 25点 | 免許取り消し処分および最低2年間の欠格期間 |
欠格期間とは、免許が取り消された後、運転免許の再取得が許可されない期間のことです。
酒気帯び運転の行政処分は、呼気中のアルコール濃度により違反点数や処分に違いが生じます。
飲酒運転の前歴がある人や累積点数が多い人は、より処分が重くなるといわれています。
酒酔い運転の罰則
酒酔い運転をしてしまった場合、運転者は5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
行政処分は以下のとおりです。
呼気中アルコール濃度 | 違反点数 | 処分 |
---|---|---|
基準値なし | 35点 | 免許取消しおよび欠格期間3年 |
アルコールチェックの基準値を下回っていても、運転に影響が出ていると判断されれば、重大な行政処分を受けます。
酒類を提供した・同乗した人への罰則
運転手の飲酒を知りながらも運転をさせたり、運転者に対して飲酒を勧めたりした場合は以下のような罰則が科せられます。
酒気帯び運転の場合
車両等を提供した者 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
酒類の提供者・同乗者 | 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
酒酔い運転をした場合
車両等を提供した者 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
酒類の提供者・同乗者 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
飲酒運転をする可能性がある人に自動車を貸したり、飲酒運転と知りながら同乗したりするのも罪に問われます。
従業員が飲酒運転をした企業への罰則
従業員が業務中に飲酒運転をした場合、企業の責任も問われます。
酒を飲んだ従業員に車両を提供したり、これから運転する従業員に飲酒を勧めたりすると、企業側も行政処分や罰則を科されるので注意してください。
具体的には、以下のような処分・罰則が科されます。
違反内容 | 処分・罰則 |
---|---|
事業者が飲酒運転を下命・容認していた場合 | 14日間の事業停止 |
飲酒運転を伴う重大事故を起こし、かつ事業者が飲酒運転に係る指導監督義務を違反した場合 | 7日間の事業停止 |
事業者が飲酒運転に係る指導監督義務を違反した場合 | 3日間の事業停止 |
運転者が飲酒運転を引き起こした場合 | ・(初違反)100日間の車両使用禁止 ・(再違反)200日間の車両使用禁止 |
飲酒運転による事故は、安全や人命を脅かすだけでなく、企業の社会的信用を失うことにもつながります。
企業はアルコールチェックの徹底や安全運転教育の実施など、飲酒運転防止に努めていかなければなりません。
アルコールチェックの基準値に関する注意点
アルコールチェックの基準値と照らし合わせるには、運転者のアルコール濃度数値を正しく測定しなければなりません。
アルコール濃度数値を正しく読み取るために、押さえておきたい注意点を解説します。
飲酒をしていなくても反応する場合がある
運転者が飲酒をしていなくてもアルコール検知器が反応する場合があります。
運転者が測定直前に飲食をしたり、歯磨き粉やマウスウォッシュを使用したりするとアルコール値が検知されることがあります。
運転者の体調や体質、薬の服用、喫煙でも反応する場合があります。
また、喫煙直後の口腔内に一酸化炭素が残っていると、アルコール検知器が反応しやすいです。
誤検知を避けるためにも、従業員にアルコール検知器を使用するルールや注意事項を共有することをおすすめします。
また、アルコールチェックを実施する測定場所にも注意が必要です。
消臭剤や芳香剤、掃除用クリーナーなどアルコール成分が含まれる製品を使用した場所で測定すると、誤反応する可能性があります。
アルコールチェックをする前に、十分に換気するか、別の場所で確認をするなどの対策をしましょう。
運転する前日は飲酒を控える
運転する前日は飲酒を控えましょう。
サントリーホールディングス株式会社によると、アルコールが肝臓で分解されるスピードは、体重が約60〜70kgの人で1時間に5〜7g程度といわれており、500mlのビール1缶(アルコール含有量20g)のアルコールを分解し体外へ排出されるまでに約3〜4時間必要です。
また、睡眠中はアルコールの分解の速度が、起きている時よりも遅くなるため、前日のアルコールが抜けていないかもしれません。
そもそも、翌日に運転する予定がある従業員には、前日に飲酒しないように注意を呼びかけることをおすすめします。
アルコール検知器のタイプによって測定精度が異なる
アルコール検知器のセンサーには「電気化学式」「半導体ガス式」の2種類があり、それぞれに精度が異なります。
電気化学式センサーは、測定精度が高くアルコール以外にはほとんど反応しないだけでなく、半導体ガス式センサーよりも短い時間で測定可能です。
一方、半導体ガス式センサーは、測定精度が燃料電池式よりも低くアルコールでなくとも強い匂いに反応することがありますが、比較的安価で購入できます。
予算や自社の業務の中で、車両を使用する業務が占める割合などを考慮して、より適したタイプを選ぶと良いでしょう。
故障により誤った数値が出る場合がある
アルコール検知器に故障や不具合が起きることで、誤った数値が出る場合もあるので注意しましょう。
アルコール検知器のセンサーは、半永久的に使用できるわけではなく、経年劣化がおこります。
メンテナンスや管理状況、使用環境によっては、故障につながり誤った数値が出るかもしれません。
精度の高い数値を測定するためにも、日々の点検や定期交換も忘れないでください。
アルコール検知器のメンテナンスには注意が必要です。
アルコール除菌シートで検知器を拭いたり、アルコール除菌スプレーを検知器に直接吹きかけたりすると誤反応が起こりやすくなります。
本体の汚れは、乾いた柔らかい布で軽く拭き取りましょう。
マウスピースの汚れは、次亜塩素酸かアルコールを含んでいない除菌剤を使用してみてください。
誤検知を減らすために、アルコールを含む除菌剤の近くには、アルコール検知器の保管・設置は避けるのがおすすめです。
アルコール検知器に付属された取扱説明書を読み、使用回数や使用期限、メンテナンス方法をきちんと守りましょう。
アルコールチェックを適切に実施するためのポイント
アルコールチェックを適切に実施するためのポイントを紹介します。
測定前にうがいをする
アルコール検知器を使用する前に、運転者にうがいをさせましょう。
口内に食べ物や飲み物が残ったままだと、誤検知する可能性があります。
ただし、うがい薬や歯磨き粉、マウスウォッシュのような口腔ケア用品を使用した直後は誤反応を引き起こすかもしれないので、水でうがいすることをおすすめします。
測定前に飲食をしない
運転者は測定前に飲食しないことも、正確な数値を知るのに効果的です。
アルコール検知器に反応が出やすい飲食物の例は、以下を参考にしてください。
- キムチ
- 味噌汁
- 蒸しパン
- ノンアルコールビール
- エナジードリンク
- チョコレート
- 塩辛
キムチや味噌、パンなどの発酵食品は、アルコール検知器が反応しやすいです。
ノンアルコールと表記されたビールやチューハイにも、微量のアルコールが含まれている場合があります。
しっかりと息を吹きかける
アルコール検知器は、しっかりと息を吹きかけなければ正確な測定ができないので注意しましょう。
少量の息では検知器が読み取れず、精度の高い結果が得られません。
また、アルコール検知器によって息を吹きかける時間の長さが決まっています。
使用する前に説明書などで確認し、従業員に検知器の使用方法について周知させましょう。
対面でおこなう
アルコール検知器を使用したアルコールチェックは、対面でおこなうことが原則です。
直行直帰のように対面でおこなうのが難しい場合は、運転者との電話やビデオ通話で確認してください。
アルコール検知器の測定結果だけでなく、以下の項目についても確認する必要があります。
- 顔色
- 呼気のにおい
- 声の調子
- 問いかけに対する応答
アルコール検知器は場合によっては、誤作動や故障が起こる場合があります。
そのため、アルコール検知器での測定だけでなく、目視などの確認も重要です。
違反の基準値に達していなくても、運転者の応答がおかしければ、安全な運転ができるとはいえません。
安全運転が可能かどうかを総合的に判断し、安全な運行に不安があれば運転業務をさせないようにしましょう。
アルコールチェックの義務化で企業がやるべきこと
アルコールチェックの義務化で企業がやるべきことを紹介します。
安全運転管理者の選任状況の確認
アルコールチェックが義務付けられる事業所の基準と安全運転管理者の選任基準は同じです。
一定台数以上の自動車を使用する事業所は、安全運転管理者および副安全運転管理者を選任しなければなりません。(道路交通法第七十四条の三第一項)
安全運転管理者の選任状況を確認しておきましょう。
アルコール検知器の用意
2023年12月1日から、検知器を用いたアルコールチェックが一定台数以上の自動車を使用する事業所に義務付けられました。
事業所ごとに、アルコール検知器を用意する必要があります。
直行直帰や出張など、事業所以外で業務を開始する場合は、アルコール検知器を運転者に携行させましょう。
アルコール検知器はメーカーによって使用回数や使用期間があるので、説明書などで確認して正しく使用してください。
チェックフローの確立
アルコールチェックに関するルールを明文化し、チェックフローを確立するのも必須です。
安全運転管理者が不在の場合や運転者が直行直帰の場合など、あらゆる状況を想定したチェックフローが必要になります。
管理体制の確立
アルコールチェックの誤測定や未実施者を発生させることなく適切に実施させるためには、社内でルールを設けて管理体制を構築する必要があります。
法律では、運転前後でのアルコールチェックの実施が義務付けられていますが、具体的な運用ルールについては特に定められていません。
そのため、実際にどのように運用・管理するかについては自社で決める必要があります。
安全運転管理者の不在時や直行直帰の対応方法、運転者にアルコールが検知された場合の対応など、あらゆる事態にも想定できるようチェックフローを構築しておきましょう。
社内規定の見直し
アルコールチェックの運用開始にともない、社内規定や就業規則の見直しも必要です。
具体的には、アルコールチェックを「いつ・誰が・どこで・どのように」実施するのかを車両管理規定に明記するなどです。
ほかにも、従業員がアルコールチェックを拒否した場合や、飲酒が確認された場合の服務・懲戒規程などを明記しておくことで、より実効性のある内容となります。
社内規定や就業規則を正しく見直すためには、法律的な知識が必要ですので、不安がある方は社会保険労務士や弁護士の方に相談すると良いでしょう。
運転者への周知
自動車を運転するすべての従業員に、アルコールチェックの重要性や飲酒運転の危険性を周知させましょう。
飲酒運転で検挙された場合に周囲へ与える影響を伝えることで、コンプライアンスの意識を高める効果があります。
周知の方法にはメールやコミュニケーションツール、社内報などがありますが、ただ文書で伝えるだけでは、従業員に浸透するまでに時間がかかる可能性があります。
少しでも早くアルコールチェックの重要性を認識してもらうためにも、研修や動画などを通して従業員に教育をおこなうことをおすすめします。
JAF交通安全トレーニングには、飲酒による影響などを学ぶ教材もありますので、ぜひご検討いただきお問い合わせください。
スマホやタブレットでの受講も可能
アルコールチェックでよくある課題の対応方法
すでにアルコールチェックを実施している企業の中には、さまざまな課題を抱えているケースも少なくありません。
以下に、アルコールチェックでよくある課題の対応方法について解説します。
安全運転管理者の負担が大きい
人手不足や安全運転管理者が1名しかいないなどの理由で、安全運転管理者の負担が大きい企業は以下の対策を検討してみると良いでしょう。
- アルコールチェックを朝礼・終礼などのルーティン業務に加える
- アルコールチェックを安全運転管理者以外でも対応できる体制を整える
- チェック業務を外部へ委託する
アルコールチェックは必ずしも安全運転管理者がする必要はなく、副安全運転管理者や「安全運転管理者を補助する者」がおこなっても良いとされています。
「安全運転管理者を補助する者」は申請や資格は必要なく、従業員であれば誰でもなれるため、マニュアルの作成や教育など社内での対応のみで安全運転管理者の負担軽減が可能です。
また、補助する人員も不足しているのであれば、チェック業務を外部へ委託するのも一つの方法です。
最近ではアルコールチェック代行サービスを提供している企業もありますので、気になる方はぜひ一度調べてみてください。
チェック結果の確認に大きな手間が発生している
チェック結果の確認が大きな負担となっている、記入ミスが多く確認・修正の手間が多い、などの課題を抱えている企業は、以下の対策を参考にしてください。
- チェック結果をクラウドで管理する
- 記入方法を全社で統一する
- 通信型アルコール検知器を活用する
チェック結果の取りまとめや記入ミスの防止には、クラウドでの保存や通信型アルコール検知の利用など、ITツールの活用がおすすめです。
ITツールを活用することで、チェック結果の整理や参照が容易にできるだけでなく、確認や修正にかかる手間を削減できるので、管理者・ドライバー双方にとって大きなメリットが得られます。
ドライバーが適切にアルコールチェックを実施してくれない
アルコールチェックの未実施や虚偽の申告など、ルール通りにアルコールチェックを実施してくれないドライバーにお悩みの場合は、以下の対策が効果的です。
- 通信型アルコール検知器の導入
- アルコールチェックをルーティン業務に組み込み習慣化する
自動で測定結果を送ってくれるタイプのアルコール検知器を導入すれば、実施者の撮影・送信の手間を省けるため、チェック作業を面倒に感じているドライバーに対して有効です。
また、アルコールチェックを日々のルーティン業務として実施すれば、次第に習慣化され「いつもの作業」となり定着していくでしょう。
適切なアルコールチェックの実施には安全運転教育が重要
適切にアルコールチェックを実施するためには、管理者側だけでなくドライバーも飲酒運転の危険性を知っておく必要があります。
社内研修や外部セミナーを活用しながら、安全運転教育を実施しましょう。
場所や時間を問わず受講できるeラーニングを活用するのがおすすめです。
「JAF交通安全トレーニング」は、JAFが長年培った交通安全ノウハウを従業員向けに配信しています。
短時間で学べるコンテンツが豊富なので、交通安全の意識を高めるのに効果的です。
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まとめ:アルコールチェックの基準値に注意し安全運転管理を実施しよう
アルコールチェックで反応が出た場合、基準値に関わらず運転をさせないようにしましょう。
基準値を下回った場合でも、アルコールの摂取により危険察知の能力や判断能力が低下していることがあります。
基準値の結果だけに頼らず、安全運転管理者が運転者の顔色や受け答えなど総合的に判断することが重要です。
また、アルコールチェックで正確に測定するためには、日々の点検やメンテナンスを欠かさずに実施する必要があります。
アルコールチェックの管理・運用方法をきちんと周知し、従業員の安全運転に対する意識を高めていきましょう。
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