飲酒運転を根絶するための有効な手段として注目されているのが「アルコールインターロック」です。
本記事では、アルコールインターロックの仕組みやメリット、導入方法について解説します。
悲惨な飲酒運転事故のニュースを耳にする度に「どうすれば飲酒運転はなくなるのだろう?」と考える方は多いでしょう。
本記事でアルコールインターロックへの理解を深め、飲酒運転のない安全な社会の実現に向けて、一緒に考えていきましょう。
アルコールチェック義務化に備える!
目次
アルコールインターロックとは?

アルコールインターロックとは、ドライバーが呼気を吹き込むことでアルコール濃度を測定し、一定以上のアルコールが検出された場合、エンジンの始動を阻止するシステムです。
飲酒運転を未然に防ぐことを目的に開発された機器で、飲酒したドライバーが車を操作することを物理的に防ぐ仕組みとなっています。
基本的な動作原理
アルコールインターロックには、アルコールセンサーとマイクロプロセッサが搭載されており、呼気中のアルコール濃度を正確に測定し、その結果に基づいてエンジンの始動を制御します。
- アルコール濃度が規定値以下:車両の起動制御が解除、エンジンが始動して運転可能状態になる。
- アルコール濃度が規定値を超えている:車両の起動制御によりエンジンがかからないため、運転はできない。警報音や警告メッセージ表示機能が搭載されている装置もある。
アルコールチェックをおこなわずにエンジンを始動しようとしても、エンジンはかかりません。
装置がアルコールチェック未実施であることを感知し、車両の起動制御を解除しないからです。
また、測定されたアルコール濃度と運転日時などの情報は、装置内に記録されます。
アルコールチェッカーとの違い
アルコールチェッカーとアルコールインターロックは、どちらも呼気中のアルコール濃度を測定する装置ですが、その目的と機能に大きな違いがあります。
アルコールチェッカーは、ドライバー自身のアルコール濃度を測定し、飲酒の有無を確認するためのものです。
一方のアルコールインターロックは、アルコール濃度を測定するだけでなく、一定以上の濃度が検出された場合にエンジンの始動を阻止することで、飲酒運転を物理的に防止することを目的としています。
つまり、アルコールチェッカーは警告を発する装置であるのに対し、アルコールインターロックは強制的に飲酒運転を防止する装置であると言えるでしょう。
項目 | アルコールチェッカー | アルコールインターロック |
---|---|---|
目的 | アルコール濃度の確認 | 飲酒運転の防止 |
機能 | アルコール濃度測定 | アルコール濃度測定、エンジン始動制御 |
効果 | 飲酒運転の自覚喚起 | 飲酒運転の物理的な阻止 |
導入状況
アルコールインターロックは、日本国内で少しずつ普及が進んでいます。
東海電子株式会社の発表によると、同社が提供するアルコールインターロックは、2023年末時点で累計出荷台数が3,200台を超えました。
このように、アルコールインターロックの普及が進んでいる理由は以下のとおりです。
- 飲酒運転による交通事故が社会問題化している
- アルコールチェッカーを用いたアルコールチェックが義務化された
- 全日本トラック協会や地方のトラック協会が助成金制度を設けた
助成金制度が設けられて中小規模の事業者でも導入しやすい環境が整いつつあるため、今後はさらなる普及が期待されます。
出典:累計出荷台数が3200台を超える。車載型飲酒運転防止システム『呼気吹き込み式アルコール・インターロック装置』2023年度出荷実績と普及状況|PR TIMES
アルコールインターロックのメリット

アルコールインターロックの導入は、単なる飲酒運転防止にとどまりません。
個人の安全を守るだけでなく、社会全体の安全向上に貢献する多様なメリットがあります。
飲酒運転を防止できる
アルコールインターロックの大きなメリットは、飲酒運転を物理的に防止できる点です。
呼気中のアルコール濃度が基準値を超えるとエンジンが始動しないため、飲酒状態での運転を完全に阻止できます。
これは、ドライバー自身の意志の弱さや一時的な判断ミスによる飲酒運転を確実に防ぐ、強力な抑止力となります。
なりすまし対策ができる
アルコールインターロックの中には、本人認証機能を搭載した機種もあります。
顔認証などの技術を用いることドライバーが本人であることを確認し、日付や時刻といった情報と一緒に記録します。
このデータ記録により、社用車の管理時にドライバーの飲酒状況や検査履歴を正確に確認でき、不正防止が可能です。
他人が検査を代行しようとしても、本人確認ができないとエンジンは始動しないため、安全性が向上します。
これはアルコールインターロックの信頼性を高め、飲酒運転防止効果をより確実なものにする重要な機能です。
運転日時や検査結果を記録できる
アルコールインターロックは、運転日時や呼気検査の結果を記録する機能を搭載しています。
この記録は飲酒運転の有無を明確に証明する証拠となり、万が一事故が発生した場合に事故原因や責任の所在を明確にする際に役立ちます。
アルコールインターロックに記録される主な情報は以下のとおりです。
- 検査日時
- アルコール濃度
- 顔写真
- エンジン始動・停止日時
- エラーログ
さらに、アルコールインターロックは、緊急時にも対応できるように設計されています。
例えば、車両にトラブルが生じた際には、非常用解除ボタンを押すことで起動制御の解除が可能です。
ただし、この操作をおこなったことも記録されるため、不正な利用を防ぐ仕組みが確立されています。
非常用解除ボタンを常設すれば、いざというときには呼気チェックをしなくてもエンジンがかかる状態に戻すことができますが、非常時以外には使用しないように注意喚起が必要です。
アルコールインターロックに関する日本の現状と世界の動向

次に、アルコールインターロックに関する日本の現状と世界の動向について紹介します。
アメリカや欧米諸国に比べると、日本はまだまだ普及が進んでいないのが状況です。
日本の現状:普及促進に向けた検討が続けられている
日本では、飲酒運転による事故の深刻さに鑑み、アルコールインターロックの普及促進に向けた取り組みが続けられています。
国土交通省は2012年に「呼気吹込み式アルコール・インターロック装置の技術指針」を策定し、技術的な基準を整備してきました。
また、近年では、事業用自動車への導入促進に向けた助成金制度も導入されています。
しかし、普及率は依然として低い水準にとどまっており、欧米諸国と比較すると「遅れをとっている」と言える状況です。
これは、初期費用や維持費用の負担、導入に関する法整備の遅れなどが要因として考えられます。
現状では、アルコールインターロックの導入は主に事業者による自主的な取り組みが中心であり、法的な義務化は進んでいません。
そのため、飲酒運転の再犯防止や事故削減効果を最大限に発揮するためには、更なる制度設計と普及促進策の強化が不可欠です。
日本の現状 | 課題 | 対策 |
---|---|---|
技術指針の策定 | 普及率が低い | 助成金制度の拡充、法整備の推進 |
事業者による自主導入 | 費用負担が大きい | リース制度の導入、メンテナンス費用の軽減 |
法的な義務化の遅れ | 国民に認知されていない | 啓発活動の強化、メディアによる情報発信 |
世界の動向:義務化されている国と導入効果
海外では、アルコールインターロックの導入はすでに進んでいます。
特に欧米諸国では、飲酒運転に対する厳しい罰則とあわせてアルコールインターロックの義務化が進められており、その効果も実証されつつあります。
例えば、アメリカ合衆国では、飲酒運転による逮捕歴のあるドライバーに対して、アルコールインターロックの搭載が義務付けられている州がほとんどです。
また、欧州連合(EU)でも、飲酒運転対策としてアルコールインターロックの導入促進が進められており、多くの国で義務化に向けた動きがあります。
これらの国々では、アルコールインターロックの導入によって、飲酒運転の再犯率が大幅に減少したというデータが報告されています。
これは、アルコールインターロックが飲酒運転を物理的に阻止するだけでなく、ドライバーに飲酒運転への抑止力として働く効果があることを示していると言えるでしょう。
参考:アルコールインターロック装置の活用方策の検討のための基礎的調査|日本自動車研究所
アルコールインターロックの導入方法

アルコールインターロックは、車両への後付けが可能です。
設置作業は車両のエンジンや電装系統に正確に接続する必要があるため、専門業者に依頼しましょう。
専門業者への依頼する際は、事前に見積もりを取得し、費用や期間を確認しておくことが重要です。
また、装置の種類や機能によって費用やメンテナンス頻度が異なるため、自社のニーズに合ったアルコールインターロックを選ぶ必要があります。
なお、中古車の中には、あらかじめアルコールインターロックを搭載しているものもあります。
この場合、取り付け作業が不要となるため、導入の手間を省くことが可能です。
アルコールインターロック導入にかかる費用

アルコールインターロックの導入を検討する際に、気になるのが費用です。
初期費用だけでなく、継続的なメンテナンス費用も必要となるため、事前にしっかりと把握しておくことが重要です。
ここからは、初期費用とメンテナンス費用、そして導入費用を軽減するための助成金について詳しく解説します。
初期費用に加えてメンテナンス費用が必要
アルコールインターロック導入にかかる費用は、大きく分けて初期費用とメンテナンス費用に分けられます。
初期費用には、装置の購入費用と設置費用が含まれます。
装置の種類や車両の種類によって費用は大きく変動するため、複数の業者から見積もりを取ることがおすすめです。
また、初期費用だけでなく、定期的なメンテナンス費用も必要です。
これは、装置の点検や修理、交換部品の費用などを含みます。
メンテナンス費用は、装置の保証期間や使用頻度などによって変動します。
長期的な視点で費用を計画することが大切です。
費用項目 | 費用相場 | 備考 |
---|---|---|
装置購入費用 | 10万円〜20万円 | 装置の種類や機能によって大きく変動する |
設置費用 | 数万円程度 | 車両への適合性や設置場所によって変動する |
定期点検費用 | 年間数万円 | 点検頻度は装置の種類やメーカーによって異なる |
修理費用 | 状況に応じて変動 | 故障の内容によって費用は大きく変動する |
アルコールインターロック導入の際に使える助成金
アルコールインターロック導入にかかる高額な費用を軽減するためには、国や関連機関の助成金を活用することがおすすめです。
例えば、国土交通省は先進安全自動車(ASV)導入促進事業として、アルコールインターロック装置の購入費用の一部を補助しています。
参考:先進安全自動車(ASV)の導入に対する支援(令和6年度)|国土交通省
また、全日本トラック協会でも、令和6年度安全装置等導入促進助成事業として、アルコールインターロックに対する助成を実施しています。
参考:令和6年度安全装置等導入促進助成事業について|公益社団法人全日本トラック協会
これらの助成金制度を活用することで、導入費用を削減できるはずです。
ただし、助成金の金額や申請要件は年度によって変更される可能性があるため、最新の情報を各関連機関のホームページなどで確認するようにしましょう。
アルコールチェック義務の対象となる事業所とは

2023年12月より、一定規模以上の事業所に対して、アルコールチェッカーを用いたアルコールチェックが義務化されました。
対象となる条件は以下のとおりです。
- 乗車定員11人以上の自家用自動車を1台以上使用している
- その他の自家用自動車を5台以上使用している(大型自動二輪者または普通自動二輪車はそれぞれ1台を0.5台として計算する)
これらの条件を満たす事業所は、従業員にアルコールチェッカーを用いたアルコールチェックを実施し、その記録を1年間保管する必要があります。
チェックの怠りや飲酒運転・酒気帯び運転の発生は罰則の対象となるため、厳格な遵守が求められます。
なお、アルコールチェック義務化については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
まとめ:アルコールインターロックで飲酒運転を防止しよう

アルコールインターロックは、飲酒運転防止に効果的な装置であり、飲酒運転による事故を減らすために重要な役割を果たします。
初期費用やメンテナンス費用はかかりますが、飲酒運転による事故や社会的な影響などを考慮すると、アルコールインターロックの導入は長期的な視点で見れば有効な投資と言えるでしょう。
国や地方自治体などの助成金を活用して、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、JAFメディアワークスでは、アルコールチェック義務化について解説した資料をご用意しています。
義務化の概要について説明しているだけでなく、アルコールチェックのテンプレートも添付しているので、ぜひご活用ください。
アルコールチェック義務化に備える!